今季のアメフトXリーグは、SEKISUIチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)の頑張りが目についた。メインスポンサーがSEKISUIに変わり新選手26名が加入したチームは、今後へ大きな可能性を感じさせた。新体制1年目は26名の新入団選手が…
今季のアメフトXリーグは、SEKISUIチャレンジャーズ(以下チャレンジャーズ)の頑張りが目についた。メインスポンサーがSEKISUIに変わり新選手26名が加入したチームは、今後へ大きな可能性を感じさせた。
~負けられない試合を数多く経験している強さを感じた
「負けられない試合での王者・富士通の強さを感じました」と、今季からGMに就任した川口陽生氏は悔しさを露わにした。
チャレンジャーズは12月15日のライスボウルトーナメント・セミファイナル(準決勝)で、富士通に「21-52」で敗れ去った。10月27日のレギュラーシーズンの対戦でも「7-35」と大敗した相手、今回はスコア以上に「王者の戦い方」を見せられたという。
「シーズンの対戦では守備面で踏ん張って止めた場面もありました。しかし、今回は全く違った戦い方をされ守備陣を引き裂かれた。負けたら終わりの戦いを何度も経験してきた王者、油断せずスコアを伸ばすことに徹しているようだった」
~新GM・川口陽生氏が取り組んだ「26名の補強」が意味すること
前アサヒ飲料クラブチャレンジャーズ時代から目指すはライスボウル(東京ドーム)出場。かつては2001、02年と社会人連覇を果たし、01年はライスボウルで学生を破って日本一になった。頂点を決める舞台に立ちたい思いは常に変わらず抱いている。
「SEKISUIさんに変わることが決定した時点でGM就任を打診された。クラブ代表・鍜次茂から『リーグ規約ギリギリまで選手を獲得してチームを変えて欲しい』とミッションを授かりました」
抜本的改革のために取り組んだのは選手強化であり、課題となっていた守備陣の立て直しが急務だった。
「当初は大卒と移籍を合わせ32名の新入団候補選手を迎えました。リーグ規約で新入団選手30名という上限があります。開幕前にその中から6名のロースターカット(実質の解雇)が出て、最終的には26名が新入団選手となりました」
「守備陣の立て直しに注力した。うちはリーグ屈指の攻撃陣が中心で守備陣は手薄と言えました。お互いに『殴り合い』のような攻撃的展開の場合、守備陣を打ち破られることもあった。失点を抑えないと勝てない。ディフェンスラインだけで5名の新入団選手が加入しました」
選手に加えコーチ陣強化にも着手した。日本アメフト界屈指のディフェンスコーディネーターと言われる武田真一、そしてDBコーチに選手兼任の砂川敬三郎という2名が加入。守備陣の立て直しが飛躍的に進む。
「武田が入ったことでプレー理解度が格段に上がった。各プレーの意味を選手全員が共有できている。砂川はオービック・シーガルズで日本一経験もあり、武田とは大阪産業大学附属高時代の師弟コンビ。2人の存在は今後の守備陣にさらなる光を感じさせます」
~スポンサーへの感謝は、強くなって結果で返すしかない
大補強によってチームの「本気度」を選手へ明確に伝えることもできた。ワイドレシーバー#81阿部拓朗は、「守備陣が強化された分、攻撃陣も今まで以上に頑張ることが大事」と気持ちを高める。
「昨年までは失点を重ねてしまうことも多かった。でも今年は別チームのように守備陣が踏ん張ってくれて本当に頼もしい。あとは攻撃陣が得点を挙げれば勝てるわけですから、我々がさらに頑張る必要があります」
攻撃陣レベルアップがチームの勝敗に直結することを認識している。サポートしてくれる人たちへの思いを胸に得点力アップを目指す。
「今の不況の時代にスポンサーをしてくれるのは大変なこと。SEKISUIさんはもちろん、今後も異なった形で変わらずサポートしてくれるアサヒ飲料さんに感謝しかありません。勝利という形で恩返ししたいです」
守備の要であるディフェンスバック#24山下大樹は、「フィジカル、スキル、メンタルの全てで個々のレベルアップが必要」と強調する。
「守備陣は新しいメンバーが増えたので、戦術面を含めイチから作り直しました。時間の経過と共に成熟度は高まっていますが、さらに完璧を求めていきたい。コーチからの要求レベルも高いですが、実現性を高めれば上位チームとやっても失点を抑えられるはずです」
リビルドが進む守備陣の頑張りに対する評価は高い。しかし「上位チームに大量失点を喫したことへの悔しさが消えることはない」と付け加える。
「チームと個々、両方のレベルアップが必要。うちの攻撃陣はリーグ屈指の選手が多いので、日常的に一緒に練習できることで個人レベルも上がるはず。その中で『1対1では絶対に勝つ』という気持ちも強くなると思います」
今シーズンから主将に就任したのはQB#8ギャレット・サフロン。攻撃陣の司令塔はグラウンド内外でチームを牽引する役割を任された。
「どんな時でも、どんな相手にも絶対に勝ちたいと思っている。チームの1人ひとりがそういう思いを持って、一丸となって戦えば上位チームに勝てるチャンスはある。勝つために自分が主将をするべきと判断されたのなら、喜んでこの役割をやろうと思いました」
QBは勝敗の責任を負わされることも多い。大きな重圧がかかるポジションだけに、キャプテンとの両立はタフな仕事に思えるが、「心配ない」と言い切る。
「チームの雰囲気は素晴らしく前向きになっている。SEKISUIさんはもちろん、アサヒ飲料さんも我々の家族であるのは不変。関わってくれるみんなのために勝って結果を残したい」
~チーム、スポンサー、地域のみんなにとってプラスになるチームを目指す
2000年代の黄金期はQBとして活躍、現在は事務局長としてチームを支える桂雄史郎氏はクラブの歴史を知る一人。「選手、スタッフが良い意味で裏切ってくれている」と嬉しそうだ。
「チーム強化には時間がかかります。『ベスト4に3年、日本一には5-6年は最低で必要』とスポンサーさんには伝えました。1年目から4強に入れたのは嬉しい誤算です。来季からはここが最低ラインで求められるレベルも高くなる。タフですがやりがいがあります」
主将・サフロンも強調していたが、「チームに関わるみんなが家族の一員でかけがえのない仲間」とも語る。
「全力でサポートしてくれます。アサヒ飲料さんからSEKISUIさんへメインスポンサーが変わる際、両者が話し合ってチーム運営費が途切れる時期が生じないようにしてくれました。支援してくださるだけでも感謝なのに、細かいお気遣いには本当に助かりました」
「SEKISUIさんの工場にアサヒ飲料さんの自動販売機が増えているそうです。企業同士の交流も生まれていると聞いて嬉しい。地元の尼崎市、兵庫県との関係性も深まっています。クラブがフィールド内外でどんどん成長できている実感があります」
2020年10月に尼崎市と包括連携協定を締結、実質的本拠地となった。また2024年6月には兵庫県とも同協定を結ぶなど、地元との結びつきを強めている。「クラブとして進化と変化が生まれ続けている」と川口氏は強調する。
「クラブビジョンで掲げるのはデュアルキャリア制度の構築。チャレンジャーズでプレーすることで人生を豊かにして欲しい。仕事、家庭、趣味…、そういったものと同等にアメフトを人生の糧や生き甲斐にして欲しいです」
「新入団選手のリクルート時に最も強調しました。選手生活はいつか終わりますが、その後もチャレンジャーズ・ファミリーの一員として人生を歩み続けて欲しい。そういった考えに賛同する選手は決して少なくないはずです」
Xリーグ上位クラブでは、プロ選手同等にアメフトを柱として生活を送る選手も多い。しかし「異なった部分でクラブの存在価値を高めたい」と語る。
「広告的価値を超える社会的価値をチャレンジャーズに感じたので応援しようと思った」
スポンサー締結の際にSEKISUI側から伝えられた言葉は最大限の賛辞だった。しかし「勝利」と「頂点」を目指す姿勢も失わない。
「勝つ気持ちは十二分に持っています」(川口氏)。
「まずは常時ベスト4にいられるようにする。その先(=頂点)も見据えます」(桂氏)
SEKISUIチャレンジャーズは、強豪クラブが固定されてしまった感のXリーグに風穴を開ける可能性を秘めている。彼らの挑戦が結果にも繋がった時、日本アメフト界の新たなモデルケースとして広く認められるはず。
(取材/文/写真・山岡則夫、取材協力・SEKISUIチャレンジャーズ)