大学駅伝も他競技と同じく新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、10月の出雲駅伝は中止になり、11月1日に行なわれた全日本大学駅伝は、学生たちにとって待ちに待った今季初の駅伝大会だった。 3強と目されていた東海大、青学大、駒澤大も、いつ…

 大学駅伝も他競技と同じく新型コロナウイルス感染拡大の影響を受けて、10月の出雲駅伝は中止になり、11月1日に行なわれた全日本大学駅伝は、学生たちにとって待ちに待った今季初の駅伝大会だった。

 3強と目されていた東海大、青学大、駒澤大も、いつもと違う駅伝シーズンの影響からか、ともに想定外の走りとなる区間があった。それでも、終盤では優勝争いを繰り広げる底力を見せた。



8区の残り1km直前まで東海大の名取燎太(右)について行った駒澤大の田澤廉(左)

「1、2年生が夏過ぎから伸びてきて、練習も今まで以上にレベルが上がり、これなら青学大や東海大に勝てるところまで来たと感じました」

 こう自信を持って語っていた大八木弘明監督の言葉どおり、結果は駒澤大が通算優勝回数記録を13に伸ばし、6年ぶりの優勝を果たした。

 その中心にいたのは、昨年の同大会で1年生ながら17.6kmの7区を走り、8位から4位に上げる快走で、箱根でも3区で区間3位になった田澤廉(2年)だった。今年は、当日変更で8区に配置されたが、この区間で95年に渡辺康幸(当時早稲田大4年)が出した日本人最高記録(56分59秒)も十分に狙える状態で、本人も狙う気十分だった。

 駒澤大が優勝するためには、田澤にどれだけのタイム差でつなげられるかがキーポイントだった。それでも、2区と3区に1年生、5区と6区に2年生の大学駅伝未経験者ながらも調子が上がっている選手を起用する布陣を取った。

 1区の加藤淳(4年)は、8人が区間新記録のハイペースで進む中で、先頭の順天堂大から6秒差の3位といい滑り出し。2区の花尾恭輔(1年)が9位に落とし、3区と4区も順位をひとつずつ上げるだけの苦しい展開になった。それでも5区の酒井亮太(2年)が区間2位の走りで、3位に順位を上げて立て直すと、6区の山野力(2年)は4位で次走者へ。7区の小林歩(4年)も粘って、2位の東海大に2秒差の3位で田澤にタスキをつないだ。

 田澤は、走り出してすぐに東海大の名取燎太(4年)の後ろに付くと、「56分台を出したい」という気持ちを抑えて勝負に徹した。41秒先行していた青学大を8.8km付近でとらえると、トップグループを形成。10.6kmで青学大が遅れて東海大とのマッチレースになってからも田澤は落ち着いていた。昨年、この区間で青学大を逆転して優勝テープを切った経験を持つ名取に対しても、臆することなく最後は一気に仕掛けて突き放し、ゴールでは23秒差をつける圧巻の走りで、優勝を飾った。

 一方、前回の箱根を走った4年生6人が抜けた東海大も、現在4年の塩澤稀夕、西田壮志、名取の三本柱を主要区間に置きながら、1年生2名と3年生2名の新戦力を起用した。1区の佐伯陽生(1年)は駒澤大に、10秒遅れるだけの7位と合格点の走りをしたが、昨年の出雲と全日本を走った経験のある市村朋樹(3年)が区間19位で順位も17位に落とす誤算の走りとなった。

 それでも、3区で三本柱のひとりの塩澤が区間2位の走りで流れを取り戻すと、4区では石原翔太郎(1年生)が、大幅な区間記録更新の走りで6位まで引き上げ、箱根で確実な戦力になる存在感を示した。そして6区では大学駅伝初挑戦の長田駿佑(3年)も区間新の走りで区間賞を取るすばらしい走りを見せた。

 結果的には8区で競り負けて2位だったが、大きな誤算をカバーして優勝争いに持ち込めた、総合力の高さは大きな強みになるだろう。

 8区吉田圭太(4年)の失速で4位となった青学大は、区間10位で滑り出して2区では13位。その後は5区で佐藤一世(1年)が区間新、区間賞の走りでトップの早稲田大に10秒差の2位まで順位を上げながらも、6区では6位に落としてしまう安定しない駅伝になった。それでも7区の神林勇太(4年)が区間賞の走りで、2位東海大に39秒差をつける1位まで持っていったことは、底力の確かさを見せつけるものだった。

 青学大も駒澤大や東海大と同じく、今回は1年生2名と2年生2名の新戦力を使って戦いに臨んでいた。爆発力のあった佐藤の走りや、3区の中村唯翔(2年)の区間3位の走りを確認できたことは、箱根へ向けても大きな収穫だ。

 また、前回の箱根では9区まで4位だった明治大も、大エースが不在ながらもまとまった力を見せて3強の一角を崩す3位と健闘した。

 今回の結果の中で、最も印象的だったのは3強の底力とともに、駒澤大の田澤が学生界のエースとなりうる可能性を見せる走りをしたことだ。

 大八木監督は箱根に向けて、「前回が8位だったので、3位以内を目指したい」と謙虚な発言をするが、田澤が爆発したうえでの往路優勝も視野に入れ、「それで流れに乗ることができれば......」という思いもあるだろう。ただ、「うちは若いチームなので、ハーフマラソンを走れるスタミナをつけて層を厚くしていかなければいけない」と言うように、力のある選手を残している青学大や、素質のある選手が多い東海大の総合力はひとつ上だと考えているはずだ。

 そんな青学大と東海大に対し、駒澤大が田澤を武器に、どこまでライバル校を慌てさせられるか。また、「今回の8人以外にも走れそうな選手がいるので、箱根は層の厚さで勝負したい」と、山本佑樹監督が自信を口にする明治大も楽しみだ。

 さらに今回は予選会1位通過から2週間で調整しきれなかった順天堂大が、エース候補で、今回1区区間賞の三浦龍司(1年)をどう起用して総合力の高さを生かして上位を脅かしてくるのかも、今季の箱根駅伝の見どころになりそうだ。