今春のセンバツ王者に輝いたのは、横浜高校だった。昨秋の明治神宮大会で優勝し、今大会も優勝候補筆頭とマークされるなかで強敵を連破した。試合後、多くの報道陣に囲まれたのは、甲子園の新たなスター・織田翔希(2年)だった。 織田のことを「ライバル…

 今春のセンバツ王者に輝いたのは、横浜高校だった。昨秋の明治神宮大会で優勝し、今大会も優勝候補筆頭とマークされるなかで強敵を連破した。試合後、多くの報道陣に囲まれたのは、甲子園の新たなスター・織田翔希(2年)だった。

 織田のことを「ライバル」と意識する選手が、横浜のチーム内にいる。池田聖摩(しょうま)。織田と同じ2年生であり、今大会は遊撃手として優勝に貢献した。


横浜高の不動の遊撃手、新2年生の池田聖摩

 photo by Sankei Visual

【選抜では攻守で日本一に貢献】

 織田が脚光を浴びて、複雑な心境なのではないか。そう尋ねると、池田は苦笑交じりにこう答えた。

「正直言って、嫉妬しているところもあるんですけど、それを表に出さないのが大人だと思うので。それに、(報道陣が集まらないということは)自分には足りない部分があるということを遠回しに言われているのだと感じています。『今じゃない』と思って、練習に励むしかありません」

 池田は選抜で、遊撃手として全5試合で無失策。打撃面でも打率.313と活躍した。織田は2026年のドラフト会議の目玉になりうる逸材だが、池田もまた来年のドラフト候補と呼ばれるはずだ。

 名門・横浜で1年夏から遊撃レギュラーを務める。ひと冬越えた今春は、守備面で大きくレベルアップした姿を見せた。

 軽やかな身のこなしと鋭いスローイングには、守備名人の素養を感じさせる。だが、池田本人の自己評価は「まだ全然、足が動かせていない」と辛口だ。

「横浜のショートならもっとレベルアップして、簡単に捕れるようにならないとダメだと感じています。昔なら大石さん、最近なら緒方漣さん(現・國學院大)なんて、走攻守のレベルが本当に高かったですから。そのレベルには、まだまだ届いていません」

 池田の言う「大石さん」とは、2008年夏の甲子園で1年生ながら活躍した横浜の遊撃手・大石竜太さんのこと。50メートル走5秒9の快足を武器にしたスピード型の遊撃手だったが、その名前が2008年生まれの池田の口から出たことに驚かされた。

 池田は映像をとおして大石さんの存在を知ったという。

「横浜のショートといえば、1年生から甲子園に出ていた大石さんが思い浮かびました。横浜は子どもの頃から大好きで、ずっと憧れてきたんです」

 断っておくが、池田は神奈川県出身ではない。遠く離れた熊本県で生まれ育っている。それでも、父・祐一さんが横浜のファンだった影響もあり、いつしか池田も「横浜一本」と言いきるほど夢中になった。

 小学2年時には横浜が招かれた地元の高校の招待試合を観戦。甲子園球場に足を運び、横浜の試合を応援したこともある。

 小学生時にはソフトバンクジュニアに選ばれ、熊本中央ボーイズに在籍した中学時代は侍ジャパンU−15代表に選ばれた。エリート街道をひた走り、横浜への進学を勝ち取っている。

【投手としても最速145キロ】

 そんな池田だが、野球以外の分野でも大きな実績を残している。6歳から陸上競技を始め、中学ではジャベリックスロー、走り幅跳び、三段跳びの3競技で熊本チャンピオンに輝いている。野球と陸上、かなりパンチの効いた二刀流である。

「父は中学まで陸上と野球をやって、高校からは陸上に専念したんです。父から『野球に生きるから』と言われて、信じて陸上をやってきたことが、いま結果につながっているのかなと感じます」

 最初は短距離走から始めたが、次第に「跳躍が楽しい」と走り幅跳びや三段跳びにシフト。中学1年からジャベリックスローを始めた。ジャベリックスローとは、羽根つきの投擲物(ターボジャブ)を投げる距離を競う、やり投げにつながる競技である。

「最初は全然飛ばなくて、練習を重ねて全国大会に出られるまでになりました」

 池田が記録した72メートル55は、熊本県の歴代最高記録である。中学2、3年時には全国大会に出場し、2年時は5位に入っている。

 ジャベリックスローを経験したことで、池田のスローイングはますますレベルアップした。

「ジャベリックスローは肩甲骨を使って投げるので、野球に通ずるものがあります。ジャベリックスローをやってなかった時と比べて、ボールの伸びが違います」

 近年では山本由伸(ドジャース)が練習にやり投げの要素を加えるなど、その効果が広く知られるようになった。池田は今や遠投距離120メートル、投手として最速145キロを計測するまでになった。

 現在も練習試合では登板する機会があるが、公式戦は「やりたいけど、投手も揃っているので」と遊撃に専念している。この冬は「ほぼ守備練習をやってきました」と池田は胸を張る。

「ゴロを捕球する時にグラブが右側に流れるクセがあったので、左足の前で捕ってステップ&スローするイメージにすると、ちょうど真ん中で捕れるようになりました」

 今後どんな選手になっていきたいか。最後にそう問うと、池田は笑ってこう答えた。

「宗山塁選手(楽天)みたいに、走攻守揃った選手になりたいです」

 野球と陸上、投手と野手。二刀流でレベルアップしてきた池田であっても、目指す道は「遊撃手」の一本。底知れない運動能力を秘めた2年生遊撃手は、脚光を浴びる時を待ちながら実力を養っている。