ノルディックスキー・ジャンプ女子で、2018年平昌五輪銅メダルの高梨沙羅(28)=クラレ=が15日までに単独取材に応じた。出れば4度目となる26年ミラノ・コルティナ五輪へ「与えられる選手になれるように」と力強く目標を記し、五輪での表彰台に…

 ノルディックスキー・ジャンプ女子で、2018年平昌五輪銅メダルの高梨沙羅(28)=クラレ=が15日までに単独取材に応じた。出れば4度目となる26年ミラノ・コルティナ五輪へ「与えられる選手になれるように」と力強く目標を記し、五輪での表彰台に懸ける覚悟をにじませた。飛型点を重視するルールに変更された今季は、テレマーク(着地姿勢)に苦しみ、W杯で初めて表彰台を逃したが、勝負の五輪シーズンに光が差す手応えもあった。(取材・構成=松末 守司、宮下 京香)

 沙羅は熱く語る。五輪プレシーズンの今季、自身初めてW杯の表彰台に届かなかった。それでも、4度目の夢舞台は輝きたい場所だ。

 「テレマークに苦戦したシーズンで、ふがいない結果に終わった。自分の中で何連勝したとかはあまり気にしていなくて。でも、いいパフォーマンスができると応援してくれる人が喜んでくれるし、楽しんでもらう、何かを与えるためには表彰台に乗ることにも意味があると思います」

 4度目の五輪に向けて、テレマークの課題に取り組んできた。

 「小さい頃は距離を飛ぶスポーツだから、1メートルでも遠くに飛ぶにはどうしたらいいのか、とずっと考えてきました。でも、ルール変更でテレマークの比重が高くなりました」

 毎年のようにあるルール変更は書面で届くこともあれば、口頭で伝えられることもあり、全日本スキー連盟のコーチから選手に伝わるという。競技性とはいえ、対応するのは簡単ではない。

 「しっかり説明を受けるというより、届いた書面に翻訳をかけて見るしかない場合もあります。私は(クラレコーチの)ヤンコさん、ヤンネさんに聞くと細かく説明してくれます。シーズン中に何回も変わることはあるので把握しきれていない時もあって…」

 開幕前はテレマークが頭の中を埋め尽くした。普段の生活から、着地姿勢と同じ右足を前にして立っていた。今季序盤は審判が20点満点の減点法で採点し、審判の一人が15点を出していたのが、終盤には18点になるなど、光明が見えてきた。

 「やはり印象で点数が変わってくることもあると思うので、公式練習からテレマークを入れ続けることを心掛けました。ジャッジ(審判)の印象も(テレマークが)入らなかった選手から入る選手に変わった部分もあったと思うし、入れ続けることが大事。(感触も)取り組み始めた時は思ったのと違う形になる印象があったけど、後半はそれがなくなりました」

 2~3月の世界選手権(ノルウェー)は個人ノーマルヒル(NH)14位、同ラージヒル12位だった。ただ、個人NHの公式練習では飛距離点などで2本目に3位、3本目が1位と好飛躍に自信も得た。五輪シーズンへ確かな手応えをつかみ、5月に本格始動する。

 「これを自分のものにしていけたら。K点(飛距離の基準点)以上を飛び、テレマークを入れるのが理想。平均17点で出していきたい。(一連の動作を)点で捉えるより線で捉えていかないと。まだ動きがぎこちなかったり、点で追っているのでスムーズにつなげて、技術的な部分も含めて完成させたい」

 勝負の五輪シーズン。日本のエースが飛躍を期した。

 〇…沙羅は来季に向けて色紙に「与えられる選手になれるように頑張ります」と静かに記した。失格になった22年北京五輪後も応援してくれる人の存在が心の支えになったという。2月の取材時にも、飛び続ける理由を「ジャンプを見て驚いた(観衆の)様子を見ると、幸せな気持ちになる」と明かしていた。「いつも与えてもらっている。今度はお返しできるように頑張りたい」と決意を語った。

 【取材後記】 沙羅の表情が明るくなった。24~25年季開幕前の昨年10月、長野・白馬ジャンプ競技場で全日本選手権を取材。雨中の公式練習後、すぐにしゃがみ込むと映像を見返した。最終日の取材では「テレマーク」との言葉を10回以上も繰り返した。頭を埋め尽くしているのだろうと、余裕がない様子に少し心配になるほどだった。

 五輪プレシーズンを終え、オフに入ったこともあるが、今年4月のインタビュー時は和やかな雰囲気。失敗ジャンプと成功ジャンプは何が違うか―。課題を明確に語る姿から答えが見えてきたのだと感じた。日本に帰国後に、何をしたいか聞くと「温泉かな」と笑顔で答えてくれて安堵(ど)した。

 23年の初取材時から「ジャンプはメンタルスポーツ」と沙羅に教わってきた。心のゆとりも取り戻し、来年の夢舞台では、ぜひ心技体のそろった「納得のジャンプ」で大観衆を沸かせてほしい。(宮下 京香)

 ◆飛型点 審判5人がジャンプの美しさ、姿勢、着地などを採点。最高点&最低点を除く3人の合計がポイントになる。審判1人の持ち点は20点で減点方式。24~25年季はテレマークの比重が高くなり、入らなかった場合は、最大3点の減点が目安になるようだ。沙羅が目標に掲げる1人の審判あたりポイント「17点」を達成するために、テレマークの習得は避けて通れない。

 ◆テレマーク スキージャンプでは、着地の際に両足を前後に開いて片方の膝を深く曲げ、両腕を水平に広げて安定した形を取る着地姿勢で飛型点につながる。語源はスキーがさかんだったノルウェーの地名に由来。

 ◆沙羅のミラノ・コルティナ五輪への道 代表出場枠は男女ともに最大4枠。24~25、25~26年季のW杯、サマーGPまたは世界選手権で、〈1〉8位以内を1回〈2〉10位以内を2回〈3〉15位以内を3回のいずれかを達成した選手のうち、26年1月19日時点での25~26年季W杯ランキング上位者を選出する。条件をクリアしている沙羅は、基準日にW杯ランキングで日本勢上位にいれば、4度目の五輪代表の資格を得る。

 ◆高梨 沙羅(たかなし・さら) 1996年10月8日、北海道・上川町生まれ。28歳。小学2年で競技を始め、2012年W杯蔵王大会で日本女子初制覇。上川中、グレースマウンテンインターナショナル、日体大を卒業。五輪は14年ソチ大会4位。18年平昌大会は同種目で日本女子初の銅。22年北京大会は個人、混合団体ともに4位。W杯男女歴代最多通算63勝、116度の表彰台。趣味はカメラ。152センチ。