本場ヨーロッパでのサッカー取材は、蹴球放浪家・後藤健生の気持ちを高揚させる。スタジアムのみならず、環境が気分を盛り上げるのだが、そのひとつがトラムである。蹴球放浪家にとって、トラム=路面電車は単なる移動手段ではない。■都心部では「軽地下鉄…

 本場ヨーロッパでのサッカー取材は、蹴球放浪家・後藤健生の気持ちを高揚させる。スタジアムのみならず、環境が気分を盛り上げるのだが、そのひとつがトラムである。蹴球放浪家にとって、トラム=路面電車は単なる移動手段ではない。

■都心部では「軽地下鉄」になるベルギー

 ほかにトラムというと、ベルギーのブリュッセルのことも思い出します。

 ここのトラムは、都心部では軽地下鉄になっています。地下を走るのですが、本格的な地下鉄のように地下深いところにトンネルを掘るのではなく、道路を掘り下げて線路を敷いて天井に蓋をしてその上が道路になっているのです。つまり、地面のすぐ下を電車が走っているわけです。

 モスクワとか平壌(ピョンヤン)の地下鉄ように、長いエスカレーターに乗る必要はありません。階段を下りれば、すぐに乗り場に到着します。

 都心部を離れればトラムは地上に出て路面電車となりますし、そのまま郊外に出ると専用軌道を走る普通の電車になります。

 1974年にワールドカップ観戦の後、西ドイツを旅行中に知り合ったベルギー人の家に泊めてもらったのですが、ある日「どこかお薦めの観光スポットは?」と尋ねたら王立中央アフリカ博物館を推薦されました。で、トラムに乗っていきました。

 ベルギー領だったコンゴから略奪してきた物を大量に展示した博物館です。

 博物館のある郊外のテルフューレンまでトラムに乗ったのですが、本当に深い森の中を走りました。それで、地下を走ったり、路面を走ったり、森の中の専用軌道を走ったりするブリュッセルのメトロはとても面白いなと思ったわけです。

■広島では世界遺産のある「宮島」へ

 東京や横浜、大阪といった大都市では路面電車はほとんど姿を消してしまいましたが、日本でもまだまだ地方都市には雰囲気の良い路面電車がたくさん走っています。

 たとえば、広島電鉄。いよいよJRの広島駅2階のコンコースに乗り入れてJRからの乗り換えも便利になるようで、路面電車で市内各地に行けます。新スタジアム、ピースウイング広島は電車の駅から歩けますから、新幹線などで広島に着いたら、そのまま電車に乗って試合観戦に行けます。

 広島電鉄の路面電車は、そのまま専用軌道に乗り入れて宮島まで行くこともできます。

 2023年には栃木県宇都宮市に宇都宮芳賀ライトレール線(LRT)が開業しました。日本での路面電車の新規開業は富山県高岡市の万葉線以来、なんと75年ぶりなんだそうです。JR宇都宮駅から東部の工業団地を結ぶ路線で、開業前は賛否両論あったようですが、利用者は順調に増加。将来は宇都宮駅から西に路線を伸ばす計画のようです。

■LRTに乗車して「決勝ラウンド」へ

 僕は、2023年11月に全国地域サッカーチャンピオンズリーグ決勝ラウンドを見に行ったときに、LRTに乗車しました。各地域リーグの優勝チームなどが集まって、JFL昇格を懸けて戦う非常に厳しい大会です(この年は栃木シティFCが優勝して昇格決定)。

 会場の栃木県グリーンスタジアムは工業団地の中にあって、かつては交通アクセスがたいへん悪かったのですが、LRTが開業して「グリーンスタジアム前」駅ができたのでとても便利になりました。

 もちろん、「地域CL」自体も楽しみだったのですが、LRT乗車も僕の旅の目的の一つでした。イエローとブラックの近代的なデザインのLRTは、とても乗り心地が良く、これから日本各地にこういう素敵な交通機関が開通するといいなと思ったものです。

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