「広島8-7DeNA」(5日、マツダスタジアム) 球場中が固唾(かたず)をのんで打席に向かう広島・二俣翔一内野手(22)を見つめた。やるのか、やらないのか-。セオリーなら犠打の場面。ただ、状況はそう単純ではなかった。 1点を負う九回無死一…

 「広島8-7DeNA」(5日、マツダスタジアム)

 球場中が固唾(かたず)をのんで打席に向かう広島・二俣翔一内野手(22)を見つめた。やるのか、やらないのか-。セオリーなら犠打の場面。ただ、状況はそう単純ではなかった。

 1点を負う九回無死一、二塁。なんとしても走者を進めたい局面で、3日前に上下8本の歯を損傷した二俣が“ド根性バント”を決めた。150キロの内角球を投前に転がす完璧な当たりだった。

 「怖さはなかったです。全然大丈夫です」

 試合後、不屈の男は平然と言ってのけた。2日のヤクルト戦。犠打を試みてファウルチップが顔面に直撃し、前歯を8本、口内を8針縫う大けがを負った。それでも翌日の試合から休むことなく強行出場している最中でのバント。「普通にいつも通りという感じですね。打球を殺せたので良かったと思います」と、何事もなかったかのようにうなずいた。

 バントのサインを出した新井監督はベンチで祈っていた。「頼む、(球が)抜けるなって祈りながら見ていた。親の気持ちみたいに」。マウンド上の入江の制球は荒れ気味で、前打者の会沢は死球を受けていた。それだけに「こちらもグーっと熱くなりながら見ていた」と語り、「よく決めたよ、ホント。素晴らしい」と手放しで褒めたたえた。

 その後、次打者・矢野の二ゴロの間に三走が生還し土壇場で同点とした。この回は代打・野間の右前打、代走・羽月の初球二盗など、諦めない姿勢が随所でにじみ出ていた。劇的なサヨナラ勝利。その前段には、仕事人たちの執念が乗ったプレーの数々があった。