愛媛県上島町で「離島の社会人野球クラブチーム」が創設 今年のセンバツでは21世紀枠で出場した離島の高校・壱岐(長崎)の健闘が大きな話題を集めたが、社会人野球の世界でもこの春「離島のクラブチーム」が注目を浴びている。 そのクラブチームとは、し…

愛媛県上島町で「離島の社会人野球クラブチーム」が創設

 今年のセンバツでは21世紀枠で出場した離島の高校・壱岐(長崎)の健闘が大きな話題を集めたが、社会人野球の世界でもこの春「離島のクラブチーム」が注目を浴びている。

 そのクラブチームとは、しまなみ海道で最も広島県側に位置する愛媛県上島町をホームタウンとする「イワキテック硬式野球部」である。現時点で愛媛県側・広島県側ともに海上交通しか渡航手段がない離島にあり、当地に本社を置く。大型構造物や造船関連製品等を製造するイワキテック株式会社が「少子化が顕著で若者の地元離れが進む上島・因島地域において若者の確保は必須。若者の雇用無くしては、会社の将来像も鮮明には描けない」(社内報より)と、強い決意を持って昨年10月に創部となった。

 その記念すべき初代メンバーは昨年全日本クラブ選手権初出場を果たしたEKC Baseball Club 習志野SEALSで女房役を務めた吉尾 竜一(大竹~広島工業大・25歳)をはじめとする11名の転籍選手と、大阪体育大で多くの登板実績を持つ最速142キロ右腕・加藤 祥太(広島国際学院)ら9名の新人選手で構成されている。また監督には智弁学園(奈良)3年時に高校日本代表として大谷 翔平(花巻東)と共にプレーした小野 耀平氏を招へい。GM、部長含む4名が選手のサポートをしている。

 そんなイワキテックの最も特徴的なのは、クラブチーム登録ながら前述の理由により選手、スタッフの大半が社員として会社業務に勤しみ、上島町と共生した生活を過ごしていること。「プレーばかりでなく仕事でもリーダーシップをとってやってくれている」と小野監督からも全幅の信頼を得て初代主将に就任した吉尾は有形無形の恩恵をこう話してくれた。

「僕は昨年の9月から岩城島に住んでいるんですが、島の人たちは会社の皆さん含めていい人ばかり。歩いていても『頑張れよ』と声をかけてもらって温かいです。環境も会社の近くにグラウンドがあって、岩城橋を渡った生名島にはいきなスポレク公園の球場もあるなど、野球をやりたいだけやらせて頂いている。これまでの野球人生の中で一番いい環境です」

公式戦初戦で四国銀行に勝利、「離島から東京ドーム」へ大きな一歩

イワキテック・小野 耀平監督

中四国地区の大学、愛媛マンダリンパイレーツなどとオープン戦を重ね、迎えた春季四国大会。準決勝からの登場となったイワキテックは1回戦で徳島野球俱楽部を30対0(7回コールド)で下した四国銀行(高知市)と対戦した。

 四国銀行はこれまで都市対抗大会22回、日本選手権23回の出場を果たしており、近年でも2020年の都市対抗で初の8強入りを果たすなど、全国レベルの強さを誇っている。

 が、公式戦初戦にもかかわらず彼らは勇敢に闘った。オープン戦から約束事としている「ファーストストライクから振っていく」鋭いスイングで、四国銀行の大卒3年目・田中 大成投手(八幡浜ー亜細亜大)から5回までに5連打を含む12安打を集め5点を奪取した。

守っては吉尾のリードに導かれエースナンバー「18」を背負う加藤が130キロ後半のストレートと、120キロ台のカットボール、スライダー、ツーシームを駆使して好投した。加藤自身は「自分としては納得していない出来(8安打1奪三振10四死球)」ながら、「社員の皆さんや上島町の皆さんが応援に来て頂いた」と、感謝の想いを185球3失点完投の奮闘で体現。小野監督や主将・吉尾ですら「全く想定していなかった」公式戦初戦初勝利の快挙を達成した。

 連戦で行われたJR四国(高松市)との決勝戦では「加藤に続く投手陣が課題」と指揮官も振り返ったように、一昨年、社会人日本選手権8強入りを果たしているJR四国の勢いを止められず2対12(7回コールド)で準優勝に終わった。それでも加藤が敢闘選手賞、5番打者として2試合8打数5安打の石原 悠志(九州国際大付~横浜商科大~新波)が首位打者賞を受賞するなど、四国の社会人野球に確かな爪あとを残したことは事実だ。

 加えて大会最初から最後までバックアップ、カバーリング、全力疾走を誰も怠ることなく「みんなが仲がよく、なあなあにならず先輩後輩関係なく言い合える」(主将・吉尾)島のチームならではの関係性を明確に示した。今大会での大きな第一歩をベースに6月下旬に開幕する都市対抗四国地区予選で、1927年の第1回大会から昨年の94回大会までまだ一度も実現したことがない「離島から東京ドーム」を堂々と狙っていく。