W杯アジア最終予選展望(前編) 9月5日の中国戦(ホーム)、10日のバーレーン戦(アウェー)で幕を開けるW杯アジア最終予選(3次予選)。出場枠の拡大で、過去の予選とは見え方が違ってくることも予想される。 18カ国で行なわれる今回の最終予選は…

W杯アジア最終予選展望(前編)

 9月5日の中国戦(ホーム)、10日のバーレーン戦(アウェー)で幕を開けるW杯アジア最終予選(3次予選)。出場枠の拡大で、過去の予選とは見え方が違ってくることも予想される。

 18カ国で行なわれる今回の最終予選は、各チームが6カ国ずつの3グループ(A~C)に分かれてリーグ戦を行ない、各グループの上位2カ国(全6チーム)が本大会の出場権を獲得する。さらに各グループの3位と4位の計6チームは3チームずつの2グループに分かれてプレーオフ(4次予選)を戦い、両グループの1位は出場権を獲得。さらに2位の2チームはホーム&アウェーで対戦し、勝者は大陸間プレーオフで最後の1枠を争う。

 グループCに入り、オーストラリア、サウジアラビア、バーレーン、中国、インドネシアと対戦する日本代表は、この予選とどう向き合い、どう戦うべきかを、全10戦の勝敗予想とともに、4人のジャーナリストが論じる――。



アジアカップ以来の日本代表招集となる三笘薫 photo by Sano Miki

「全試合、全力投球」だけは止めてほしい
杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki
7勝1分2敗

 3グループのなかで、日本が戦うグループCは最も競争が激しそうなグループだ。しかし3位、4位になっても次のステージが用意されている。アジアで9番目になっても大陸間プレーオフに出場できることを考えると、日本がW杯本大会出場を逃す可能性はせいぜい1~2%だろう。無風区とは言わないが、「死の組」だ、大変だと騒ぐ必要をまるで感じない。

 ただし、森保ジャパンのサッカーは2022年カタールW杯以降、進化しているとは言い難い。問題は対戦相手ではなく、自身に潜んでいる。カタールW杯で味をしめた5バックと手を切れなくなっていることが大きい。イランに準々決勝で敗れたアジアカップでは、グループリーグでもイラクに敗れるなど、毎試合苦戦。さまざまな戦いができることを「したたかで賢い」と勘違いし、方向性を見失った。この予選でも毎試合それなりに苦戦すると見る。

 いちばんの難敵はサウジアラビアだろう。今回も前回予選同様、3試合目にそのアウェー戦が組まれている。前回はオマーンに初戦ホームで敗れ、中国にアウェー(中立地)で勝利し、1勝1敗で迎えた一戦だった。そこでサウジアラビアに敗れたことで森保一監督は批判され、解任の声まで湧いた。

 中国、バーレーン、サウジアラビアと戦う最初の3戦を、今回は何勝何敗で乗りきることができるか。3連勝ならばあとが楽になる。五輪組を含む若手を多数登用する環境が整うことになる。サウジアラビアの戦力は前回より落ちると見る。

 勝負のポイントは、先述したように日本が握っている。日本がきちんと戦えばアウェーでも最悪、引き分けで乗りきれる。もし敗れても、3戦目を終えて2勝1敗なら及第点となるが、4日後にオーストラリアとのホーム戦が控えているので、若干バタつくことになる。オーストラリアはサウジアラビアよりさらに下降線を辿る国だ。ホーム戦なので大丈夫だと思うが、ここで敗れるようなことになると、前回に引き続き、森保監督是非論が飛び交うことは必至となるだろう。 

【常連が少ないほうが層は厚くなる】

 基本的には、サウジアラビア、オーストラリアと戦う4試合に負け越さなければ問題はない。その他の3カ国との計6試合に全勝を求めるのは、「運が3割絡む」と言われるサッカーにおいては酷だ。1分けあるいは1敗は覚悟しておきたい。筆者が考える合格ラインは10戦して7勝1分2敗。この成績ならば十分に2位以内は可能。現実的な目標だろう。

 ただし筆者は、最悪、グループ3位でもかまわないと考える。五輪組を含む若手を当初から多数登用した結果ならば、だ。それは欧州組を休ませることにつながる。アジア予選とチャンピオンズリーグ、ヨーロッパリーグ、プレミアリーグ、スペインリーグ等々と比較すれば、レベルはどちらが高いかは明白。欧州の主要なリーグで出場機会を得ている実力派を、毎試合、招集する必要はない。

 常連組の数が少ないほうが、むしろ選手層は厚くなる。総合力は確実に高まるのだ。代表監督に就任して7年目を迎える森保監督。中国戦、バーレーン戦にどれほどのメンバーで臨めば最低限の成績を収めることができるか、塩梅はわかっているハズだ。

 欧州予選を戦う強豪国の監督はそれを毎度、必ずやっている。テストしすぎて失敗することもある。やりすぎた結果、予選落ちした国もある。だが、それは必ず次に活かされる財産でもある。森保采配にそうした姿勢を垣間見ることができれば、少々成績が悪くても批判は控えるつもりだ。

 どの試合も全力投球することだけは止めてほしい。それをすると、格上との対戦が予想されるW杯本大会で伸びシロがなくなる。W杯本大会でベスト8以上を目標に掲げるのであれば、「アジアを勝ち抜くことは大変だ」とか、「予選は別物」とか言わずに、そこから逆算する戦いを見せてもらいたい。

 森保監督には「日本ではまだ先を見越した戦いをすることはできない」と語った過去がある。東京五輪のあとの話だが、アジア最終予選でもその感覚を捨てられないのなら、監督としての資質を疑わざるをえなくなる。10試合をとおして候補選手たちをどう使い回すか。W杯本大会の成績は、それであらかた予想することができる。

 森保采配に目を光らせたい。

カギを握るのは「初戦の中国戦」と「2連戦の初戦」
浅田真樹●文 text by Asada Masaki
7勝2分1敗

 W杯のアジア枠は、従来の4.5から8.5へと大幅増。アジア最終予選の方式も、前回大会では6カ国×2グループだったが、6カ国×3グループで行なわれることになった。

 つまり、前回大会までなら最終予選前に敗退していたような国まで進出してくることになり、レベル的には各グループとも"薄まる"と思っていたのだが、サウジアラビア、オーストラリアと同組になったことで、幸か不幸か、前回程度のレベルが保たれた。アジア最終予選3グループのなかでは、日本のグループが最激戦区だろう。

 とはいえ、日本が実力上位であることに変わりはない。

 W杯に出場するには、グループで上位2カ国に入ればよく、全勝する必要はないのだから、仮に取りこぼす試合があったとしても(というより、きっと取りこぼすはずだ)、どっしりと構えていることが肝要だ。

 ただし、過去の傾向から見て日本が負けやすいのは、「最終予選の初戦」と、「2連戦の初戦」。これらの試合については、あらかじめ注意しなければならない。

 まずは「最終予選の初戦」だが、日本は過去2回の最終予選で、いずれもホームゲームでありながら中東勢に不覚を取っている。

 日本代表に海外組が増加するなかで、まだヨーロッパのシーズンが始まったばかりの時期に迎える最終予選の初戦は、いろいろな意味で選手のコンディションが上がりきっておらず、どうしても難しいゲームになるのだろう。

 今回の初戦は中国とのホームゲームであり、過去に敗れた中東勢と比べれば比較的くみしやすい相手だとはいえ、やはり注意が必要だ。

 また、最終予選はすべてFIFAが定める国際Aマッチデーに行なわれるため、今年9、10、11月、来年3、6月にそれぞれ2連戦の計10試合を戦うことになるが、日本は過去、2連戦の初戦に敗れるケースが多く、これもまた日本が勝ち点を取りこぼしやすい試合だと言える。

【2チーム体制で準備を進めるくらいの大胆さを】

 およそ1カ月(あるいは、それ以上)ぶりの代表活動にもかかわらず、集合からわずか数日で迎える試合は、どうしてもぶっつけ本番になりがち。選手個々のコンディションにしても、チームとしての連係にしても、まだ準備が整っていないなかで臨むことになるからなのだろう。

 過去2回の最終予選で(W杯出場決定後の消化試合を除けば)日本が負けた試合は、すべて2連戦の初戦と、はっきりと結果にも表れている。

 その点で今回カギになりそうなのは、10月シリーズの初戦となるサウジアラビアとのアウェーゲーム。そして、11月シリーズの初戦となるインドネシアとのアウェーゲームだろう。

 相手は地元サポーターの熱狂的応援に背中を押され、実力以上の力を発揮してくることがあるだけに、日本はいかにいい準備をして試合に臨めるかがポイントになる。

 つまりは今年9、10、11月、それぞれの初戦3試合がカギとなるわけだが、裏を返せば、年内の6試合を無傷で乗りきってしまうようなら、早々に大勢が決してしまう可能性もある。

 ヨーロッパに身を置く選手が増えた日本は、それによってアジアでは明らかに頭ひとつ抜けた存在になった一方で、アジアでの戦いに集中しにくい環境が生まれたとも言える。

 準々決勝敗退に終わった今年1月のアジアカップにしても、敗因は戦術面ばかりでなく、各選手のモチベーションの低さがかなり影響していたはずだ。

 各国リーグ戦はもちろん、チャンピオンズリーグやヨーロッパリーグといったしびれる戦いを繰り広げている最中に、お世辞にもレベルが高いとは言えないアジアの試合に集中しろというのは酷な要求に違いない。

 だからこそ、毎試合ベストメンバーの招集にこだわるのではなく、主力を休ませる時は休ませる。そして若手を中心とした代表歴の浅い選手も積極的に登用し、最終予選を乗りきると同時に、チーム力の底上げを図ってほしいと思うのだが、森保一監督の頭にその考えはないようだ。

 特に長距離移動をともない、大きな時差があるなかで2連戦をこなさなければならないケースでは、2チーム体制で準備を進めるくらいの大胆さがあってもいいのではないだろうか。

 長い目で見た個の強化=日本代表の強化のためにも、また、選手の負担を小さくする=ケガのリスクを減らすためにも、ぜひとも試してほしい施策である。

 後編「アジア予選で強くなる時代は終わった?」につづく>>