河村勇輝インタビューバスケットボール男子日本代表「史上最強チーム」の挑戦(1) パリオリンピック出場権をかけた昨年のFIBAワールドカップ。躍進する日本代表チームのなかで、河村勇輝が最も眩(まばゆ)い光を放った選手のひとりだったのは間違いな…

河村勇輝インタビュー
バスケットボール男子日本代表
「史上最強チーム」の挑戦(1)

 パリオリンピック出場権をかけた昨年のFIBAワールドカップ。躍進する日本代表チームのなかで、河村勇輝が最も眩(まばゆ)い光を放った選手のひとりだったのは間違いない。

 とりわけ、大逆転を演出したフィンランド戦。ゲーム終盤に見せた神がかったプレーぶりは、多くのファンに強い印象を残した。

「日本を代表するポイントガードになる」ことを目標に励んできた男が、ついにオリンピックの舞台に立つ。彼にとって、オリンピックとは何なのか──。23歳の司令塔に話を聞いた。

   ※   ※   ※   ※   ※


河村勇輝がついにオリンピックのコートに立つ

 photo by Hosono Shinji

── 目標としてきたオリンピックが目前に迫っています。過去のオリンピックを振り返ると、どんなシーンを思い浮かべますか?

「やっぱり東京オリンピックの試合は、よく見ていました。ライブで見ていましたので、すごく印象深いです。あとは、ロンドンオリンピック・アメリカ対スペインの決勝戦。あの試合は録画して何回も見た記憶があります」

── アメリカ対スペイン戦で印象に残っているシーンは?

「クリス・ポール(PG/当時ロサンゼルス・クリッパーズ)が第4クォーターにドライブして点を獲って、試合の流れをアメリカに持ってきた場面があるんです。あのシーンがすごく印象的ですね。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 スペインのルディ・フェルナンデス(SG/当時レアル・マドリード・バロンセスト)のアリウープもすごく記憶に残っています。あと、ガソル兄弟(兄=パウ/PF/当時ロサンゼルス・レイカーズ、弟=マルク/C/当時メンフィス・グリズリーズ)がツインタワーとしてアメリカのインサイド陣相手にアドバンテージを取っていたのも、すごく印象的でした」

── アメリカとスペイン、どちらを応援していたのですか?

「コービー(・ブライアント/SG/当時レイカーズ)もレブロン(・ジェームズ/SF/当時マイアミ・ヒート)もいましたので、アメリカを応援していましたね」

【僕のヒーローは富樫勇樹選手】

── ロンドン五輪はバスケ以外の競技も見ていましたか?

「バスケ以外だと陸上の印象が強いですね。100m走や、日本の強いリレーとか」

── 少年期に見ていたオリンピックで、河村選手にとってのヒーローは誰ですか?

「ヒーローですか......東京オリンピックでの富樫勇樹選手(千葉ジェッツ)ですね。オリンピックという舞台で、あの身長でプレーをされて、大きな選手を相手に点を獲って、ゲームの流れを変える姿を見て......勇気をもらいました。『身長を言い訳にはできないな』『必ずここにいたいな』という気持ちにさせてくれたので、ヒーローは富樫勇樹選手だと思います」

── クリス・ポールやコービー・ブライアントの名前が出てくるのかと思っていたので、ちょっと意外でした。

「もちろん、彼らも僕のヒーローではありますけど、彼らに対してはファンみたいな感覚で、バスケットボールをがんばろうと思わせてくれたのは富樫選手です」

── 去年のワールドカップで日本が躍進した影響により、その後のBリーグには多くのファンが訪れるようになりました。その昨シーズンを振り返っていかがですか?

「悔しい結果(B1中地区6位)に終わってしまったんですけど、毎試合たくさんの方々に試合を見に来てもらえたことは、本当に幸せなことでした。

 Bリーグに入ってからコロナもありましたし、あれだけ多くの方に来てもらえることはなかったので、本当に幸せだと毎週思っていました。優勝から程遠い結果になってしまってすごく悔しい気持ちと、たくさんの方の前でバスケットボールをできた幸せ、その両方がありますね」

── Bリーグの盛り上がりを見て、あらためて日本代表が成功することの影響の大きさを感じました?

「そうですね。ワールドカップがあってBリーグを見た、僕のことを知った、という方もたくさんおられたので、世界大会はとても大きな影響を与えるものだと思いました。だからこそパリオリンピックでは、もっとバスケの熱が高まるような結果を残したいと思っています」

【ドイツとの再戦はワクワクしかない】

── オリンピックはワールドカップ以上に強敵ばかりが揃う大会です。河村選手は昨年のワールドカップでどのような課題を残したと感じていますか?

「流れのいい時には審判や会場の雰囲気を含めて、自分の強みを出してやりたいことができました。ただ、チームの流れが悪くなった時には相手にも(いい流れの)時間が来るわけで、ポイントガードとして自分たちのバスケットをコントロールできる役割や、流れを断ち切るプレーをできるかどうか。そこはまだまだ、だと思います。

 そういった面で言えば、富樫選手は流れの悪い時にコールなどを使い、流れを引き寄せるプレーができる選手。なので、一緒の合宿でそれを吸収できればいいなと思っています」

── 同じ司令塔として意識する部分も。

「ありますね。僕の役割は司令塔として『どのようにゲームコントロールするか』を求められているので」

── 昨年のワールドカップでドイツのデニス・シュルーダー選手(PG/ブルックリン・ネッツ)とマッチアップした際、河村選手は「彼は別格」と言っていました。シュルーダー選手とのマッチアップからはどんなことを学びましたか?

「彼は何でもできる選手。スコアもアシストも。ワールドカップの決勝や準決勝も見ましたが、『ここぞ』というところでの得点力やアシストなど、ゲームを支配する力がすごい。流れを読む力なども、40分を通して把握していると感じました」

── オリンピックでは初戦で再びドイツと対戦します。それは楽しみ? それとも怖い?

「もう、ワクワクしかないですね。マッチアップする責任感もあるので、簡単にやられすぎてしまうと結果に直結してしまう怖さはあるんですけど、ワールドカップの経験がパリオリンピックでのマッチアップにすごく活きると思います」

── 最近では、スロベニア代表のルカ・ドンチッチ選手(PG・SG/ダラス・マーベリックス)やオーストラリア代表のジョシュ・ギディー選手(PG・SG/シカゴ・ブルズ)ともマッチアップしています。NBAのトップ選手たちからどんなことを吸収できましたか?

「彼らは自分の強みをしっかりと理解してプレーしています。ドンチッチ選手やギディ選手は体のサイズを生かしたプレーをしていました。それはずるいことではなく、自分のどこにアドバンテージがあるのかと考え、それを最大限に生かせるプレーをしなければと思いました。

(自身のアドバンテージを)ひとつ挙げるならば『スピード』。それは絶対に負けない自信があります。ワールドカップでは通用した時もあれば、通用しなかったこともありました。スピードを生かしたプレーでどれだけ相手からアドバンテージを取れるか、そこを大事にしたいです」

【120パーセントの力を出さないと勝てない】

── トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)も、大谷翔平選手が言ったことと同じように「スター選手と対峙する時は憧れを捨てろ」と言っていました。河村選手はコートに立って、いかがでしたか?

「たしかに僕も(NBAのスター選手と)対峙して『マッチアップしている!』みたいな緊張感はなかったですね。ただ、緊張はいい方向に行くことも、悪い方向に行くこともあります。だからこそ今回のパリオリンピックは、いい方向に行くプレーができるんじゃないかと思っています」

── パリオリンピックで目標に掲げた「ベスト8進出」に向けて、日本代表は何をしなければいけないと思いますか?

「これは根性論になってしまうんですけど、『必ず勝つ』という自信やビジョンをイメージしながら取り組むことが大前提です。120パーセントの力を出さないと、僕たちは勝てないと思っています。

 その120パーセントの力を出すためには、絶対に勝つというイメージを持って練習に取り組むことが大事。チーム全員が同じ方向を向いて、勝つ気持ちを持って臨むこと。

 そのあとは、ホーバスHCが戦略を練ってくれます。それに、僕たちがどれだけ最高の水準で遂行できるかだと思います」

<了>

【profile】
河村勇輝(かわむら・ゆうき)
2001年5月2日生まれ、山口県柳井市出身。柳井中時代に全中ベスト16、福岡第一高でウインターカップ2連覇を含める全国大会タイトル4度獲得。高校3年時の2020年1月に特別指定選手として三遠ネオフェニックスに加入し、当時のB1史上最年少出場記録(18歳8カ月23日)を更新する。東海大に進学するも2022年3月に中退し、横浜ビー・コルセアーズとプロ契約を結ぶ。2022-23シーズンはBリーグMVPや新人賞を受賞。2022年7月にA代表デビューを果たし、2023年のFIBAワールドカップでは司令塔としてパリ五輪出場権の獲得に貢献。2024年7月、メンフィス・グリズリーズとエグジビット10契約に合意する。ポジション=ポイントガード。身長172cm、体重72kg。