昨夏甲子園初優勝を果たした京都国際は6年連続で高卒プロ入り選手を輩出しており、育成力に定評がある。連続指名が始まった19年の前から、元広島の曽根 海成(サムティ)、元ソフトバンクの清水 陸哉、元広島の申成鉉と定期的にプロ入り選手を送り出して…
昨夏甲子園初優勝を果たした京都国際は6年連続で高卒プロ入り選手を輩出しており、育成力に定評がある。連続指名が始まった19年の前から、元広島の曽根 海成(サムティ)、元ソフトバンクの清水 陸哉、元広島の申成鉉と定期的にプロ入り選手を送り出しており、甲子園出場の前から育成力の高さが注目されていた。
近年では甲子園出場の実績に加え、プロだけでなく、中央大、國學院大、同志社大など進学先も充実。大学野球でも徐々に存在感を示している。
2008年からチームを率いている小牧憲継監督に選手の進路についての考え方を聞いてみた。
5年先、10年先を見据えて進路サポート
小牧監督は京都成章で1年生から二塁手のレギュラーとして活躍。その後は関西大に進んだが、怪我の影響もあり、結果を残すことができなかった。こうした自身の経験もあり、上のステージで必要とされる選手を育てたいというポリシーがある。
「僕は大学以降で野球を続けられなかったので、『大学を卒業してからも選ばれるような選手を育てたい』という話は以前からしていました。ただ、僕が来た当初は学力が低くて、片親で経済的に恵まれない子が多かったので、大学に行きたくても行けないような子が多かったです。それでも良い大学と言われるようなところに見合う子が入ってきたら、繋がりも作っとかないといけないと思っていました。プロのスカウトの方も見に来られたりして、その方々に大学さんを紹介して頂くこともありました。当時からこういう学校だからこそ、他の学校に行くよりも良い思いさせてあげないといけないし、良い出口を保証してあげないといけないと思っていました。すぐには無理ですけど、その時から5年先、10年先を見据えて繋がりを作る努力はしていました」
今年は主将の藤本 陽毅内野手が中央大、エースの中崎 琉生投手が國學院大と東都リーグの強豪校に進学。いずれも京都国際からは初の進学だが、それは一朝一夕によるものではなく、これまでの積み重ねによるものだった。
京都国際では秋の大会が終わってから保護者と三者面談を行い、進路について話し合う。そこでは「この大学から声がかかっている」、「君はこういうタイプだから、こういうところが合うんじゃないか」とアドバイスをするが、最終的には本人の意思を尊重している。選手によっては有名大学からの誘いを断ることもあり、小牧監督が「もったいないな」と思うこともあるそうだ。
高校や指導者にとっては有名大学に進学させたり、プロ野球選手を輩出することが名誉になる。だが、小牧監督は「子どもの夢に限りなく近づけるサポートをしてやるのが僕の仕事」と行き先を指示することはない。結果として6年連続でプロ野球選手が誕生しているが、それも高卒でプロ入りを志す選手がいるからだ。
高卒プロ志望の選手には保険をかけない理由
近年では有望高校生がプロ志望届を出さずに進学するケースが増えている。京都国際でも以前より経済的に恵まれた選手が多く入ってくるようになり、大学や社会人を経由してプロを目指そうと考える選手が増えてきた。小牧監督も本人の意志が強い場合や経済的に厳しい場合でなければ、進学する方が賢明だと考えている。
「これはプロ野球に限らず、社会に出てもそうだと思うんですけど、昔みたいに会社が潤っていて、若手をじっくりと時間をかけて育てようという風土がもうなくなってきているじゃないですか。どこの会社も即戦力が欲しい。だから、僕は大学経由の方が良いかなと。それでも本当に野球で飯を食っていく覚悟があるのなら、プロにチャレンジした方が良いんじゃないかなとは感じています」
京都国際はこの6年間で9人がプロ入りしており、そのうち6人が育成指名で入団している。選手によっては支配下縛りをしたり、指名漏れした場合に大学や社会人などの進路先を予め用意する場合も少なくない。だが、小牧監督はこうしたことを許容していない。それは選手に覚悟を持ってほしいからだ。
「プロ志望の子には『順位で縛るのだったら、最初から志望届を出すな』と言います。這い上がっていく覚悟がない子は何位でも無理です。『保険が欲しいのだったら、先に大学や社会人に行った方が良いよ』と厳しいことをあえて言います。だから、うちはプロ待ちというのは基本的にしないです。だから、『指名されないことも覚悟の上で必死に練習しなさい』ということは言っています」
今年は清水詩太内野手がプロ志望を表明しており、育成指名でもOKと意思を示している。「何をやっても中途半端だった」と小牧監督には取り組みの甘さが見えたそうだが、プロを目指すと覚悟を決めてからは明らかに意識が変わった。それが学業にも好影響をもたらしたという。
「試験前なので、全体練習は少なかったんですけど、清水が『自分はプロ目指しています。最低限の勉強はするから練習させてほしい』と言ってきました。そうすると、練習をガンガンやっているのに、勉強も短時間で集中してやっていたので、過去最高の成績を取ったんです」
甲子園優勝に貢献した3年生は「日本一に相応しい高校生」だった
京都国際は練習量が多い高校として知られており、練習熱心な選手が多い。夏の甲子園で優勝した夜にはベンチに入れなかった3年生が宿舎の近くで素振りをしていたという逸話があるくらいだ。
もちろん、勉強をしていないわけではないが、他の高校生に比べると野球にかけるウエイトが大きいのは間違いないだろう。だが、それは野球の技術や体力を向上させるだけでなく、人としての器を大きくすることにも繋がるのではないだろうか。
森下 瑠大投手(DeNA)の同期に秋山 海聖という選手がいた。彼は外野手として甲子園にも出場していたが、最後の夏を終えた後に猛勉強して兵庫県警に合格。「一つの物事に本気になって頑張れる子って、どの道に進んでも頑張れると思うんですよね」と小牧監督は言う。
どっちつかずになるよりは一つのことを極める力を付けた方が結果的には違う道に進んでも活躍できることを京都国際OBは証明してきた。小牧監督の教え子には国税局やプロ野球の通訳など多方面で活躍している人もいる。野球を通じて生きる力を身に付けることを小牧監督は大事にしてきた。
「野球は人生の縮図だと思うんですよね」と小牧監督は言う。野球には様々なポジションがあり、人数が多ければ、ベンチやスタンドに回る選手がどうしても出てきてしまう。だが、それぞれに大事な役割がある。小牧監督は映画に例えてこう話してくれた。
「主人公ばかりがポスターに出てスポットライトを浴びるけど、エキストラで道を歩いているだけの人も十分に仕事をしているわけであって、そういう人がいないと成り立たないですよね」
京都国際では2年生までは「夢を追いかけなさい」と小さくまとまらずに個々の能力を伸ばすことを推奨している。ただし、3年生になれば、話は別。「自分がこのチームで生きていくためにどういう役割を果たさないといけないのかよく考えろ」と小牧監督は選手に問いかけているそうだ。
昨年のチームはドラフト上位候補になるような選手はいなかったが、各々が自分の役割を理解して遂行できたことが優勝に繋がった。それはレギュラーの選手だけでなく、メンバー外の選手も同じだった。
「昨年の3年生はベンチ外れた子たちがチームのためによく動いてくれたし、頑張ってくれました。優勝したことよりもああいう姿を見た方が僕は嬉しかったです」と小牧監督は語る。昨夏の甲子園では優勝した瞬間にボールボーイを務めた3人の3年生が誰よりも嬉し泣きしていた姿が印象的だった。ベンチに入れなかった3年生がこれだけ喜んでいることにこのチームの強さを感じた。
「日本一になったから評価されるのは違うと思うけど、日本一に相応しい高校生になってくれたのが凄く嬉しかったですよね」
小牧監督のこの言葉が全てだろう。野球界だけでなく、多方面で活躍する人材を輩出している京都国際。これから益々高校野球の世界で存在感を高めていくはずだ。