公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は読者から届いた質問に回答 Jリーグやジャパンラグビー リーグワンをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ…

公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏の連載、今回は読者から届いた質問に回答

 Jリーグやジャパンラグビー リーグワンをみてきた公認スポーツ栄養士・橋本玲子氏が「THE ANSWER」でお届けする連載。食や栄養に対して敏感な読者向けに、世界のスポーツ界の食や栄養のトレンドなど、第一線で活躍する橋本氏ならではの情報を発信する。今回は「THE ANSWER」に届いた質問にお答えするQ&A。高校1年生の息子を持つ保護者の疑問に回答した。

 ◇ ◇ ◇

【質問】

「陸上長距離部門に所属する高校1年生の息子がいます。身長180センチを超えた今も身長は伸びていますが、疲労骨折手前の状態で歩くのも痛いようです。そのため、カルシウムを少しずつでも摂取できるよう努めています。ただ、朝食、弁当、夕食のほか補食にバナナ、菓子パンを食べてはいますが、食事の量からするとかなりの少食です。

 成長期での疲労骨折時においても、カルシウムなど必要栄養素を摂ることは早期の治癒につながりますか? また、小食の子どもは1日の必要な栄養素をどのように摂取すればよいかを教えてください」(40代女性)

【回答】

 小学校から高校までのジュニア期は、急激な発育・発達を迎えます。特に高校生は、運動量も多く、エネルギー消費量に見合った食事量の摂取は欠かせません。なぜなら、長期にわたり消費エネルギー量に見合った食事量を摂取できないとエネルギー不足となり、痩せるだけでなく、それに伴う貧血、骨密度の低下、疲労骨折を引き起こしやすくなるためです。

 成長期の子どもは、身長の伸びに合わせて体重も増加しているかどうかが、エネルギー不足を起こしているか否かをみる一つの目安になります。ですから、もし体重が増えていないのであれば、注意が必要です。

 逆に言うと、体に必要な栄養をしっかり摂ることは疲労骨折の予防になると言われています。疲労骨折と食事は密接に関係し、「何をどれだけ食べるか」は非常に重要です。

 2021年11月末、世界中のスポーツ栄養士やトレーナーが一堂に会する栄養サミット「We Nutrition Sumit」が開催されました。そこで、世界的な運動代謝の権威、イギリス・ラルバラー大学のアスカー・ユーケンドルップ教授のコーディネートの元、6つのテーマで専門家によるセッションを開催。そのうちの一つが「骨の障害を軽減するための栄養」についてでした。

 そこで講師を務めたイギリス、ノッティンガム・トレント大学の生理学の教授、クレイグ・セール博士(筋骨格系生理学研究グループ、イギリス スポーツ、ヘルス&パフォーマンス研究センター)も、「骨の健康に影響を与える要因には、遺伝、人種、年齢、性別、ホルモン、運動、生活習慣、そして食生活である」とコメント。講演のなかでも多くの研究結果から、食事と疲労骨折は密接に関連していることが示されました。

疲労骨折を予防する食事の4つのポイント

「We Nutrition Sumit」のセッションでも改めて語られましたが、現在、わかっている疲労骨折を予防するための食事のポイントは以下の4つです。

1.十分なエネルギー摂取を心掛ける
2.炭水化物を意識して摂る 
3.カルシウムの多い食品を積極的に摂る
4.ビタミンDを意識して摂る

 一般的に丈夫な骨作り=カルシウムと思い浮かべられますが、骨作りには多くの栄養素が必要です。具体的に言うと、骨形成にはたんぱく質、カルシウム、リン、マグネシウム、ビタミンD。骨の代謝にはビタミンA、C、K、そして鉄、亜鉛などが挙げられます。

 ですから「カルシウムだけ摂っていればOK」ではなく、やはり「バランスのよい食事」が基本。なかでも炭水化物やビタミンDの摂取は、高強度の運動下で骨がもろくなったり、疲労骨折を起こしたりのリスクを下げると報告されています。

 冒頭でお話ししたように、まずは日々の活動量に見合ったエネルギー量をしっかり摂ることが大事。そして、スポーツ選手、スポーツをする学生のなかには未だに「どうしても太りたくない」と炭水化物を減らす人が多いのですが、毎食、そして補食から、炭水化物もしっかり食べましょう。

 質問者さんの息子さんは、高校生男子ですので、1日に必要なエネルギーの目安量3200kcal。小食の選手がこれだけの量を食べるには、しっかり食事計画を立てないと難しいでしょう。また、「食事のなかでカルシウムを少量ずつ摂っている」とのことですが、やはり牛乳やヨーグルトといった乳製品はカルシウム、たんぱく質が豊富なうえ、体への吸収率もよいので、アスリートの骨作りには欠かせません。牛乳であれば毎日、コップ2、3杯程度は摂りましょう。補食に菓子パンを食べるとありますが、パンを選ぶのでれば、乳製品も摂れるチーズパンがおすすめです。

 また、食が細いのであれば、補食に高炭水化物のゼリー飲料を加えると、のど越しがよいので、気持ちの負担も少なく摂りやすいと思います。

 ほか、カルシウム、ビタミンDを多く含む食品は以下の通りです。

【カルシウム】牛乳、ヨーグルト、チーズ、納豆・木綿豆腐、高野豆腐などの大豆製品、小魚(丸干しマイワシ、ししゃも、ウナギのかば焼き、しらす干し、サケ中骨缶、など)、青菜(小松菜、水菜、大根の葉、など)・そのほか(ひじき、いりごま、など)

【ビタミンD】キノコ類(きくらげ、干ししいたけ、など)、魚(マイワシ、白サケ、さんま、など)

 また、合わせて、量をしっかり食べられない理由を探ることも必要です。子どもの場合、運動量が多く疲れ切って食べられないほか、睡眠不足が影響しているケースも多くみられます。

 プロ、学生を問わず、スポーツ選手は日ごろから、体重・体脂肪量の変動を気にしながら食事を摂るものの、「骨によい食事」に関しては、ケガをして初めて意識する傾向があります。しかし、骨の形成は30歳まで続くので、一生の骨の量が決まる成長期に、骨の健康を考えた食事を心がけることはとても大切です。骨は日々新陳代謝を繰り返しています。新しい骨を作る材料となる栄養素を食事から不足なく摂取することは、ケガの予防や早期回復に欠かせないことを忘れないようにしましょう。

年代別推定エネルギー必要量を紹介

 スポーツをする子どものエネルギー、栄養素の目標摂取量は明確に示されていません。また、厳密に言うと競技種目やポジション、性別、体重、身体活動量によっても異なります。ただ、年代別の推定エネルギー必要量はふだんの食事量の目安になりますので、参考にしてください。

【日本人の食事摂取基準(2020年版)】

年齢 男性/女性 (kcal)
6~7歳 1,750/1,650
8~9歳 2,100/1,900
10~11歳 2,500/2,350
12~14歳 2,900/2,700
15~17歳 3,150/2,550
18~29歳 3,050/2,300(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)

長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビュー記事、健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌で編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(中野ジェームズ修一著)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、以上サンマーク出版)、『走りがグンと軽くなる 金哲彦のランニング・メソッド完全版』(金哲彦著、高橋書店)など。