東海大・駅伝戦記 最終回(第85回)  箱根駅伝往路を5位で終えた東海大。両角速監督の「往路優勝で総合優勝の流れをつくる」という狙いは崩れ、復路を走る選手はミーティングで「復路優勝」を目標に戦うことを決めたという。  ただ復路は…

東海大・駅伝戦記 最終回(第85回)

 箱根駅伝往路を5位で終えた東海大。両角速監督の「往路優勝で総合優勝の流れをつくる」という狙いは崩れ、復路を走る選手はミーティングで「復路優勝」を目標に戦うことを決めたという。

 ただ復路は全員、初めて箱根駅伝を走る選手。不安がないといえば嘘になるが、逆にどのくらいやって見せるのか、楽しみでもあった。



優勝候補に挙げられた東海大だったが、今年の箱根駅伝は総合5位で終えた

 6区がスタートし、トップの創価大とは3分27秒、4位の帝京大とは56秒差。川上勇士(2年)は、まず帝京大に追いつくことを意識したという。

 160センチ、51キロの軽量ランナーだが、ストライドが広く、加速しながら坂を下っていく。4キロ過ぎに帝京大に追いつき、函嶺洞門(17キロ地点)では東洋大を抜いた。川上は区間5位(58分45秒)の走りで3位になったが、創価大との差は3分23秒と4秒しか縮められなかった。

 川上は「58分30秒が目標でしたが後半たれて届かず、反省の多いレースでした」と振り返った。

 7区では、当日変更で入った本間敬大(3年)が東洋大の西山和弥(4年)との競り合いに勝ち、区間6位と健闘した。だが、創価大とのタイム差は4分27秒に開き、事実上、この時点で総合優勝は絶望的となった。

 期待された8区の濵地進之介(2年)だったが、遊行寺坂(15.6キロ時点)で東洋大に抜かれ4位に陥落。区間15位と振るわず、復路優勝も厳しい状況となった。

 9区の長田駿佑(3年)は青学大の飯田貴之(3年)に競り負け、順位を5位に下げた。10区の竹村拓真(3年)も差を詰めることができず、そのまま5位でフィニッシュした。

 優勝候補の一角に挙げられていた東海大だったが、復路のレース内容は乏しく、逆転優勝した駒澤大や、復路優勝を果たした青学大と比べると、力の差は歴然だった。

 レース後、両角監督は厳しい表情を浮かべていた。総合5位という結果をどう受け止めたのだろうか。

「往路で(区間)19位、復路で15位というブレーキ区間があったので、総合優勝を狙うのであれば、そうした順位はあってはならないと思います。いいところもあったんですけど、つながらなかったですね」

 両角監督が「いいところ」と言ったのは、往路3区までのレース展開だろう。当日変更で1区は市村朋樹(3年)に代えて主将の塩澤稀夕(4年)を入れ、3区には石原翔太郎(1年)を抜擢した。

 塩澤は区間2位と快走して流れをつくり、石原は力強い走りでトップに躍り出た。

「塩澤は日本選手権があったので、1区が適切かなと思いました。ただ、本来であれば市村を1区に入れて、塩澤を4区で使いたかったんですが......市村はケガでトレーニングができず、外しました。石原は20キロの距離でも全日本の時のような走りを見せてくれたので、それをモノにできなったのが悔やまれます。せっかくいい流れでいったのですが、佐伯(陽生)に過剰な期待をかけてしまったのかなぁと。それよりも、市村の故障が大きかったですね」

"たられば"になってしまうが、もし市村が健在であれば、3区で石原、4区で塩澤を配置し、さらに畳みかけるレースができただろう。そうすれば往路優勝も現実味を帯びていたはずだ。その勢いで復路も制するのが両角監督のプランだった。

 昨年の館澤享次(現・DeNA)、小松陽平(プレス工業)らがいた復路メンバーと比較すると、今回のメンバーで勝つためには往路でできるだけ貯金を稼ぎ、あとは逃げ切るしかなかった。

 しかしその狙いは霧散し、経験不足を露呈する結果となった。彼らに顕著だったのは、後半のペースダウン。濱地も最初は軽快に入ったが、中盤から苦しくなり、後半は足も体も動いていなかった。長田も並走した飯田に競り負けるなど、粘り強さを欠いた。

 なぜ復路の選手たちは、後半に勢いを持続できなかったのか。両角監督が言う。

「これはトレーニングの問題もあったと思います。今回はレースに出ず、長い距離を走って強化したんですが、学生がどういう気持ちで練習をやるのかということに対して、少しテコ入れをしていかないといけない」

 はたして、テコ入れとはどういうことか。

「今の3年生を含めて、スピード化していることに対して焦りを感じている部分があるんです。そうじゃなくて、自分の持ち味できちんと勝負していけるようなトレーニングが必要かなと思っています。

 それに、みんな記録にこだわり、一発いい記録を出してやろうという感じが強い。いい感じで練習で手を抜いて、いい調子で試合に出て、それが自分の力だということを示したい選手が多いんです。そういう気持ちでやるのはどうなの......と思うんです。きついなかでトレーニングをして、試合に出る。そこまでやって大丈夫となっていかないと、箱根を走りきるのは難しい」

 今回、"3本柱"と言われた塩澤、名取燎太、西田壮志の4年生3人は、練習はいっさい手を抜かず、苦しいなかでポイント練習をこなし強くなった。

 すでに黄金世代が去り、今回の箱根を最後に3本柱も抜けてしまう。チームは2年続けて大きな柱を失うことになる。

「ここ1、2年はスター性のある選手が多かったので、本来であれば地道にやらないといけない選手たちが、彼らに影響されてしまった。私自身も彼らがいたことで少し浮ついた感じがありました。でも、来年はスター選手がいない。地に足をつけて、ゼロからチームをつくり直していかないといけない」(両角監督)

 箱根についていえば、山下りの6区は川上でいけるメドがついたが、5区はここ3年間、西田に頼っていたため、新たに山上りに対応できる選手を育てていかないといけない。また、2区を走りきれる選手の育成もしかりだ。エース候補である松崎咲人(2年)の再生も、両角監督の大きな仕事になる。

「新しいチームは、今回すばらしい走りを見せてくれた石原が期待を背負っていくことになるんですが、学生スポーツは最上級生が重要かなと思っています。今回の箱根も区間賞を見ると、ほとんどが3、4年生だった。ウチも上級生を軸にしていかないといけないでしょうね」

 とくに本間、長田、そして市村らの3年生が中心になっていかないと、未来はないということだ。それを見越して、今回彼らの成長を促してきたが、その手応えを指揮官はどう感じているのだろうか。

「3年生を含めて、底上げは徐々にできているかなと思います。順位もここ数年、5位、優勝、2位、5位ときている。来年以降も常にトップ5に入り、優勝を狙えるチームをつくっていかないといけないと思っています」

 チームの強化には、いい選手を集めるスカウティングの問題も大きいが、それも含めて東海大は越えなければならない壁がいくつもある。はたしてスター選手不在のなか、どんなチームをつくり上げていくのか。新たな東海大に期待したい。