『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(46)東レアローズ滋賀 戸部真由香(連載45:VC長野の飯田孝雅は烏野の縁下力のように「逃げない」 大きな壁に立ち向かう>>) 2023年春、ミドルブロッカーの戸部真由香(27歳)は一度、現役引退を…

『ハイキュー‼』×SVリーグ コラボ連載(46)

東レアローズ滋賀 戸部真由香

(連載45:VC長野の飯田孝雅は烏野の縁下力のように「逃げない」 大きな壁に立ち向かう>>)

 2023年春、ミドルブロッカーの戸部真由香(27歳)は一度、現役引退を発表している。好きなバレーへの欲が足りなくなった気がしたからだという。自分を裏切れない真摯さゆえだったが......。

「(引退を発表した当時、所属していた)KUROBEアクアフェアリーズが勝つことが多くなってきていて、『バレーが楽しい』と思えるようになっていました。それでも、現役生活は終わりだと思っていましたが、そこで東レに声をかけてもらって。東レは誰もが憧れる、木村沙織さんもいたチームです。そこに呼んでもらえて、断る理由はないと思いました」

コートに立ち続ける欲が出て、引退を撤回した。

「私は学生時代を含めて、全国優勝の経験はないんです。SVリーグのファイナルではどういう景色が広がるのか、すごく楽しみです」

 彼女は言う。「楽しさ」は彼女のバレー人生の翼だ。

 戸部の家族は、スポーツ全般が好きだったと言う。サッカーや野球をテレビ観戦するだけでなく、地元のプロ野球チーム、千葉ロッテマリーンズの試合も観戦に出かけた。バッティングセンターに通ったこともあるという。

 小学3年の時、戸部はふと女子バレー日本代表の試合をテレビで観た。木村を筆頭に、竹下佳江、高橋みゆきなど日本代表選手の勇姿に見入った。胸がドキドキした。

「背が大きいんだし、やってみたら?」

 父親から何気ない言葉を投げかけられた。今思えば、それは運命だった。

「友達のお姉さんが入っていたチームで体験させてもらったんですが、そこで楽しいと感じたんです」

 戸部は慎ましく、照れたように言った。どんなに明るく「楽しい」と言うよりも、そこには楽しさが滲み出ていた。

「今もそうかもしれませんが、私は楽しさを顔に出すタイプじゃないみたいで。人見知りもあるんですが、コーチにも親にも『バレーをやるとは思っていなかった』と言われました(笑)。何が楽しかったか、具体的には覚えていないんですが、ボールがポンって上がった時にほめてもらえるのがうれしかったです」

 やがて、楽しいと感じるバレーは「負けたくない」と思える競技になった。中学時代、JOC(ジュニアオリンピックカップ)に自分ではない選手が選ばれた時は、無念さに身を焦がした。そこで、高校の監督に「見返してやろう」と入学を誘われ、ふたつ返事で決めた。おかげで、高校ではライバルの学校に負けることなく、春高バレーにも出ることもできた。

「悔しい思いもしましたが、JOCに落ちたからこそ、春高でも3位になれたのかなと。マイナスをプラスに変える。そこは、自分の人生の中でも分岐点になっているかなって思います」

 彼女ははっきりと言う。再起したミドルブロッカーは、やるべきことを心得ている。

「(クイックで)自分が点を決めるのもうれしいんですけど、高校の時から"最強の囮"と思ってプレーしてきました。セッターの技術や一本目のパスの質にもよりますけど、囮になった自分に相手ブロックが飛び、サイド(のブロック)が一枚になるのは快感です(笑)。そこまでガッツリと自分にこなくてもブロックは遅れるから、それだけで自分も仕事をしたと思えますね」

 彼女はそう言って笑みをもらした。東レでは、たとえ出場機会が限られていても、コートの外から声を出す。仲間を励ますことで、気持ちをつなぐ。

「(今シーズンの)東レは、"ミスをミスにしない、(ミスした選手を)ひとりにしない"という意識を大事にしています。サーブを失敗してもサイドアウトを取ったらチャラ、という感じです。ミスしてもいいから思いきり打たせる雰囲気を作って、みんな恐れずに戦えるように」

 戸部はチームの礎になる。

「バレーを通して出会える、つながりを感じられるのが楽しいんです。チームメイトと知り合い、親交を深め、かつてのチームメイトが敵同士になり、それでも再会できる。バレーを通して出会った人は、みんな素晴らしい。自分も『もっと頑張ろう』と思えました。同級生、先輩、後輩、指導者など、人に恵まれていると思います」

 彼女は、バレーを生きる。

【戸部真由香が語る『ハイキュー‼︎』の魅力】

――『ハイキュー‼︎』、作品の魅力は?

「私自身は、すごく考えてプレーするようになったのは大学からで、高校までは周囲から教わるほうでした。だから『ハイキュー!!』で、みんなが自分たちで考えているのはすごいと思いました、シンプルに尊敬します。特に日向(翔陽)は、勝つための試行錯誤を繰り返し、答えを見つけるのがいいなって」

――共感、学んだことは?

「『ハイキュー‼︎』はそれぞれのキャラクターが役割を持っています。今シーズン、私は"声かけ"をする役割が中心で、それが試合に出ている選手に届いているか、自分ではわからないですが......ある試合後、キャプテンのつぐ(深澤つぐみ)から『真由香さん、ありがとう。途中で声かけしてくれて助かったよ』と言われたことがあって。『届いてたんだ』とわかるとうれしいですね」

――印象に残った名言は?

「ツッキー(月島蛍)推しなので、白鳥沢学園戦の『ほんの僅か いらだちと焦りを含んだ綻びを まってたよ』です。それでウシワカ(牛島若利)を止めて、よっしゃーってなるシーンが好き。ツッキーはポーカーフェイスであまり喜ぶタイプじゃないから、止めた後のガッツポーズが印象的で激アツです!」

――好きなキャラクター、ベスト3は?

「1位はツッキーです。2位はクロ(黒尾鉄朗)。クロも私と同じミドルなので好きなところもあるんですが、熱い性格なのに"青い炎"というか静かな炎という印象です。3位は青葉城西の及川(徹)さん。サーブも、メンタルもすごい。記録席に飛び込みながら上げたトスとか、人を生かす気持ちがこもっていて、セッターの仕事を全うしている姿が素敵です」

――ベストゲームは?

「春高予選の烏野vs青葉城西です。"ここ"ってポイントは覚えてないですが、とにかく読後感がよかったなって。烏野はインターハイ予選で負けていたから、余計に感動しました!」

(連載47:東レアローズ滋賀の谷島里咲は高校の先輩・石川真佑とも違うエースへ「負けは弱さの証明ですか?」のセリフも胸に成長>>)

【プロフィール】

戸部真由香(とべ・まゆか)

所属:東レアローズ滋賀 

1997年7月12日生まれ、千葉県出身。178cm・ミドルブロッカー。小学3年時に女子バレー日本代表の試合を見たことがきっかけでバレーを始める。千葉県立柏井高2年時に春高バレー3位。東北福祉大1年時には東日本インカレで優勝した。2020年にKUROBEアクアフェアリーズに入団。2023年、一度は現役引退を発表するも、同年6月に東レアローズ(現・東レアローズ滋賀)に移籍・加入した。