4月27日、大阪。SVリーグチャンピオンシップ準決勝3日目だった。試合終盤、会場は騒然となっていた。 ウルフドッグス名古屋のエースであるニミル・アブデルアジズがチャレンジを巡って審判に詰め寄り(ビデオ判定で「タッチ」を示す丸が示されておら…
4月27日、大阪。SVリーグチャンピオンシップ準決勝3日目だった。試合終盤、会場は騒然となっていた。
ウルフドッグス名古屋のエースであるニミル・アブデルアジズがチャレンジを巡って審判に詰め寄り(ビデオ判定で「タッチ」を示す丸が示されておらず、「リクエスト失敗」と思って猛抗議。結局、丸が示されなかったのはシステムのミスということで得点は入った)、マナー違反の2枚目のイエローカードでレッドカードを受けた。この結果、ペナルティでサーブ権が移動、相手へ自動的に1点が入った。
ウルフドッグスは26?25で逆転したばかりだった。それが26-26とタイスコアになり、動揺は隠せなかった。メンタルをリカバリーする時間はなく、これで流れが変わる。
サントリーサンバーズ大阪は連続でブレイクに成功、28-26でセットを勝ち取った。これでセットカウント3-1の勝利。2勝1敗で決勝へ進んだ。
コート内は選手が過敏に反応するほどの緊張状態だったのだろう。審判のジャッジは規則に従ったものだが、説明が不明瞭だったし、試合の流れに水を差すもので、批判的意見が出るのも当然だろう。ただ裏を返せば、審判も強烈な重圧を感じて余裕がなかったのかもしれない。それほどに連日、息詰まる勝負の連続だった。
「ウルフドッグスの気持ちを考えると、少し後味が悪いんですけど......自分たちは"最後の1点を取るまでが試合"と思っていたので、もめているシチュエーションでも、"自分たちは自分たち、チームで勝ちにいく"というのを意識してやりました」
サンバーズの髙橋藍は、そう試合を振り返っている。最後は勝利への執念で上回ったか。
ジェイテクトSTINGS愛知と決勝を戦うことになったサントリーサンバーズ大阪の髙橋藍 photo by YUTAKA/AFLO
「今はすごい自信を持って、サンバーズはプレーができています。それは、すごくいいことですけど......」
レギュラーシーズンを16連勝で終わった後、髙橋はチャンピオンシップに向けてこう警戒していた。
「ファイナルはファイナルで戦っていく、というのも重要だと思っています。このままファイナルに行くと、きっと難しいところもあって、初心というか、気持ちを一回リセットして戦うべきで」
【日替わりのヒーローが誕生】
その言葉は予言めいていた。もしレギュラーシーズンを引きずっていたら、切り替えられなかったかもしれない。
実際、ウルフドッグスとの準決勝はカオスだった。1試合目は2セットを連取したあと、3セット目も25-24とマッチポイントに持ち込みながら、奪いきれなかった。すると、ひとりだけ異世界から来たようなニミルの超人的スパイクを浴び続けて、セットカウント2-3と大逆転を許した。
「1、2セットも確かに(得点は)決まっていましたが、触られている回数も多くて......」
サンバーズの日本代表ミドルブロッカー、小野寺太志は言う。
「ウルフドッグスが3セット目に突然、変わったわけではありません。もともと彼らはディフェンスがよく、最後にニミルが決めるスタイル。自分たちは1点がほしかったところで相手にやられていました。そうしたシチュエーションが続いてストレスはあって......拾われても打ち続ける、負けずにやることが大事でした」
どちらに転んでもおかしくない勝負だったのは間違いない。勝負の潮目が変わる時、その渦の流れは強力だった。
2試合目、サンバーズがセットカウント3-0とストレートで勝てたのは、単純な完成度の差が出たことによる。サーブで崩し、ディフェンスで優位に立って、攻撃を旋回させる。そのチーム戦略が濃厚に出た。
そのなかで"日替わりのヒーロー"が生まれている、アウトサイドヒッターにデアルマス・アラインではなく、アレクサンデル・シリフカを先発に起用。これが功を奏した。
「ベンチから、(1試合目で)すばらしいゲームをしているのは見ました。あと少しで勝てたはず。ひとつかふたつのボールを拾う、あと1%を頑張れるか、と思っていました。」
シリフカはそう語ったが、彼の左腕はウルフドッグスを苦しめた。チーム最高のスパイク決定率、サーブレシーブ成功率で、攻守に厚みをもたらしている。
3試合目は、2セット目から登場した左利きミドルブロッカー、佐藤謙次が日替わりのヒーローになった。佐藤は左利き特有のクイックで相手を幻惑。2本のブロックにも成功した。何より2本のエースを含めて、サーブは効果率も18.1%と高かった。左利き特有の回転、軌道、タイミングで、ウルフドッグスのレシーバーを苦しめた。
「(22-25で落とした1セット目は)チームとして、"ここで行きたい"というところでエネルギーを出せていませんでした。ベンチから見ながら、相手の速いサーブに押されているな、と。2セット目、"何かしたい"と思っていたところで監督から声がかかり、出番が来ました」
そう語った佐藤は殊勲者だった。セッターの大宅真樹も「今日に関しては佐藤選手が流れを変えてくれました」と語っていたように、前日のシリフカに続いて、レフティがチームを救った。どんなスポーツも、短期決戦のトーナメントでは、日替わりヒーローが命運を分ける。
一方、ウルフドッグス陣営は忸怩たるものもあっただろう。会見ではジャッジに関して、ニミルの言葉も、ヴァレリオ・バルドヴィンヘッドコーチの言葉も積極的に訳されていなかった。「Ruin」(破滅、破壊)のような強い表現もあって、それは彼らの無念さを意味していた。サンバーズのオリビエ・キャットヘッドコーチも「判定に関しては話したくない」と断っていたほどだ。
しかし両者が、「もっと見ていたい」と思わせる戦いを演じたのは間違いない。
「まずは、"準決勝を通過するのは簡単ではない"と思っていたので、勝ててホッとしています。ウルフドッグスが(自分たちを)強くしてくれたと思うし、白熱した試合させてくれたことに感謝で、決勝では、ウルフドッグスの分まで戦う責任も感じています」
髙橋はそう言って、ライバルに最大限の敬意を表した。不条理はあるが、それを乗り越えるのもファイナルの試練か。
5月3日、有明アリーナで決勝の火蓋が切られる。