箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、東京国際大学・大志田秀次監督が語るスカウティングの難しさ 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜…
箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、東京国際大学・大志田秀次監督が語るスカウティングの難しさ
毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――。「THE ANSWER」では、強豪校に挑む「ダークホース校」の監督に注目。2020年の箱根駅伝で総合5位と躍進した東京国際大学の勢いが止まらない。今年10月の出雲駅伝で初出場初優勝の快挙を達成し、伝統校を脅かす存在となるなか、駅伝部の大志田秀次監督に強いチームを作るために大切なことを聞いた。(取材・文=佐藤 俊)
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東京国際大の駅伝部が誕生し、初めて箱根駅伝を駆けたのは、創部5年目の2016年だった。陸上トラックや栄養士付きの寮ができて、その後、駅伝部だけのトレーニングセンターも完成し、環境面では大学トップクラスを誇っている。現在チームには、70名の選手と10名ほどの学生スタッフがおり、「最初は3名だったので、かなり大きくなりました」と大志田秀次監督は笑みを見せる。
――監督は、強いチーム作りには何が重要だと考えていますか?
「まず、選手が強くなりたいという意欲ですね。これがないと自分で考えて練習することができないので強くなれないんです。指導の面で言うと、選手の動きを見て、選手の話を聞いて、それを一人ひとりの練習に落としこんでいくということが大事になってきます。あとは、環境です。私が監督を引き受けたのが2010年12月だったんですが、何もなかったんです。すぐに陸上トラックができて、寮ができて、外周走路にウッドチップを敷いてもらい、トレーニングセンターも完成しました。こういう練習環境は他大学に引けを取らないと思いますし、選手がいい練習をして強いチームに成長していくためには不可欠なものだと思います」
――強くなるために練習面で実践していることは何かありますか?
「うちはAチーム、Bチームに分かれていて、私はAチームで25名前後の選手を見ていて、Bチームは松村コーチ、中村コーチに任せています。Aチームに入るための条件は、基本的にAチームでやりたいという意欲です。早い遅いはありますが、中間のペースで積み重ねていきたい選手もいれば、高いレベルの練習をしてリカバリーを長くしていくのが合っている選手もいるので、そこは選手に任せています。日々の練習でも今日は3000メートルでAチームは8分50秒、Bチームは9分10秒で設定すると、だいたいみんな9分10秒を選ぶんです。ただ、調子のいい選手には『今日は8分50秒にトライしてみたらどうだ』と声をかけると、だいたい『やってみます』とポジティブに練習に取り組んでくれる。選手の状態やレベルにあったところで日々練習させ、意欲的に取り組ませることが一番の成長につながります」
高校生と話をする時に必ず聞く「将来の夢」
強いチームにもう一つ欠かせないのがスカウティングだ。大学は4年間でワンサイクルなので、良い素材が入ってこないと強さを維持できなくなる。東京国際大は、どのようなスカウティングで選手を獲得しているのだろうか。
――スカウティングの際、記録以外に面談などでどういう部分を見たり、話を聞いたりしますか?
「話をする時、必ず将来の夢を聞きます。五輪に出たいのか、学校の先生になりたいのか。入学の際、学生は大小の差はあれ、夢を持って入ってくると思うんですよ。その夢を叶えるために、何をしたらいいのか、どんなことをすべきなのか。例えば実業団に行きたいならどんなチームに行きたいのか。でも、実業団に行くには5000メートルで13分40秒、1万メートルは28分40秒台でないといけない。29分ちょうどなら、あとどうやって20秒を詰めていくのか。それを自分で考えることができないと実業団に入っても走れません。すべては、次のステップに行くために続いているということを話します。入学して燻ったり、気持ちが競技から離れそうになった時は、『お前は夢を追いかけることができているか』と問いかけることもありますね」
――タイムは良いけど、性格に難がある。そういう選手の場合はどうしますか?
「性格に難があっても強くなりたいという部分では、一致していると思うんです。どうやって強くなっていくのか、という点において何かを共有できたり、こちらできっかけ作りをして成長することができれば性格に変化が起こるかもしれない。いろんな経験をしていく中で、私たちは一緒に得るものがあると思うんですよ。ですからうちに来たら、私は最後まで付き合っていきます。学生とは我慢比べになりますけど、1年目はダメでも2年目、3年目に気づいて成長してくれればいいんです」
伝統的な強豪校が動くと「新興チームは出遅れることがある」
――スカウティングで難しさを感じたりすることはありますか?
「うちは新興チームなので駒大や青学大のように一気にすごい人材が集まってくるわけではありません。原監督がMARCH(明治、青山学院、立教、中央、法政)で大会を開きましたが、歴史がある大学がスポーツの強化を前面に押し出して勧誘したり、伝統的な強豪校が動くと、私たちのような新興チームは後回しになったり、出遅れてしまうことがあります。
ただ、最近は箱根駅伝に出続けていること、上位に入れるようになってきたことは大きいですね。高校生にとっては判断の材料になっていると思いますし、うちのポリシーとして2年後、3年後を見据えて指導していますというのを、ようやく高校の指導者や父兄に理解されてきたので良い選手が来てくれるようになりました」
今、箱根駅伝は全体の勢力図が変わりつつある。スカウティングも伝統校、強豪校に選手が集中していた時代から東京国際大のように箱根で上位を維持する新興チームに高校生たちの視線が向くようになった。選手の分散化は、これからさらに進んでいくだろう。
出雲駅伝に勝ち、知名度を上げたことは、東京国際大のこれからのスカウティング戦略にプラスの効果となって表れてきそうだ。(佐藤 俊 / Shun Sato)
佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。