11月7日に行なわれた全日本大学駅伝大会は、優勝候補の駒澤大と青学大がともに前半で11位、10位と順位を落とす波乱があったものの、7区で抜け出すと最終8区では優勝を争う展開に。駒澤大が連覇を果たしたが、青学大も含めて選手層の厚さが結果とし…

 11月7日に行なわれた全日本大学駅伝大会は、優勝候補の駒澤大と青学大がともに前半で11位、10位と順位を落とす波乱があったものの、7区で抜け出すと最終8区では優勝を争う展開に。駒澤大が連覇を果たしたが、青学大も含めて選手層の厚さが結果として現れる大会となった。



8区では青学大との接戦を制し、優勝した駒澤大の花尾恭輔

 駒澤大は3冠を目標に掲げながらも、10月の出雲駅伝では期待の新戦力が不発で5位。昨季に主力に躍り出て、その後もトラックで活躍した鈴木芽吹(2年)などの故障者がいるなか、大八木弘明監督は目標順位を"3位以内"に下げた。「駅伝初出場の選手が多く、どうなるかなと思ったので、3番くらいを目標にしたほうが選手も気楽にやれるかなと思った」という理由からだ。

 だがその初出場組が、チャンスを生かして駆け上がろうと意欲的な走りを見せた。1区は出雲の同区間を同学年の篠原倖太朗(1年)に譲っていた佐藤条二が積極的な走りをし、実績のあるスピードランナーの吉居大和(中央大・2年)に競り勝って区間新で区間賞を獲得。

 2区はその勢いをつなげられず、序盤で後続に追いつかれて11人の集団になる展開のなかで早々と遅れて7位に落ち、3区も佃康平(4年)が11位まで落とす計算外の走りに。大八木監督はこの時「優勝は難しい」と覚悟していたという。

 だが4区では初出場の赤星雄斗(2年)が区間4位の走りで9位に上げると、前との差を詰めた。5区はそれを維持するつなぎの走りになったが、6区では安原太陽(2年)が、区間2位の走りで青学大と同タイムで4位に上げ、エースの田澤廉(3年)と安定感のある花尾恭輔(2年)が走る長距離区間につないだ。大八木監督の「前半は我慢して6、7、8区で前に出る」という作戦通りに7区の田澤で先頭に出ると、8区の花尾がしのぎきった。

 3年で主将を務める田澤は、「出雲のあと、選ばれていない人たちの気持ちも含め、責任を持った走りをしてほしいということと、自分頼りになっていた部分も感じたので、それぞれが自分の力をしっかり出して1秒でも前にという走りをしてほしいと話した。今回はそれぞれの選手が自覚を持って走ったと思うし、鈴木や山野力(3年)などの主力メンバーがいないなかで優勝できた自信は大きいと思う。中間層の選手たちには『もっと自信を持っていい』と話し、箱根に向けて気持ちを切り替えてもらいたい」と語った。

 故障している選手たち全員が戻ってこられるかは不透明だが、田澤の爆発力は健在の上、出雲を走った篠原や唐澤拓海(2年)や赤津勇進(2年)のほか、前回の箱根経験者も4人残っている状態で戦力は豊富。今回の優勝で駒澤大は、箱根優勝の一番手に躍り出たと言える。

 それに対して8秒差で敗れた青学大も、さすがの強さを見せた。今回は出雲2位の立役者だった6区区間3位の横田俊吾(3年)と5区を走った目片将大(3年)を使わない布陣。1区の志貴勇斗(2年)は初出場ながらも、昨年三浦龍司(順天堂大2年)が作った区間記録に迫る27分10秒で、1位と5秒差の4位でつないだ。

 前回の箱根2区を走った中村唯翔(3年)は2区序盤のスローペースの大集団でリズムを崩したのか10位まで後退したが、3区では岸本大紀(3年)が区間3位の走りで立て直した。それが4区の高橋勇輝(4年)と、「出雲では最初に突っ込んできつくなったので、今回は突っ込みすぎないようにした。昨年出した区間記録を上回れなかったのは悔しいが、区間賞獲得でホッとしている」という冷静な走りを見せた佐藤一世(2年)の連続区間1位につながり、3位に浮上。さらに7区の近藤幸太郎(3年)は、同タイムでタスキを受けた駒澤大の田澤には18秒差をつけられたが、2位に上げる着実な走り。8区の飯田貴之(4年)も、ラストで駒澤大の花尾には競り負けたが、区間3位と安定した走りを見せた。

 そのなかでも大きな収穫だったのは、1年時には箱根の2区で1位に上げる快走を見せながらもその後は故障で低迷していた岸本の復活と、大黒柱となった近藤が田澤に食らいつく走りをしたことだ。

 原晋監督もこう高く評価する。

「1年間苦労してきた岸本を、どの程度の走りをするかという期待と不安のなかで走らせたが、駅伝男健在という完全復活を印象づけたのは大きい。また近藤も前半のハイペースに食らいついて中盤からは遅れたものの、その差を最低限キープして、実力を十分に発揮する走りをしました。学生ナンバーワンの田澤君に近づく走力のある選手に成長したのかなと思います」

 大エースの存在には欠けるが、それに準ずる複数の選手が着実に力を出してきている状態。「うちのチームは今、5000m13分台が26人出てきているし、登録メンバーのどの選手を走らせてもいいくらいの力が揃っている。今回は2区の大ブレーキを巻き返したが、そのくらいの地力がある選手が2人、3人、4人と控えているので、2区間増える箱根でも十分戦えると再認識しました」という原監督。箱根でも隙のない戦略が立てられそうな状況で、ミスなく走れば駒澤大も崩せそうな戦力を持っていることを証明した。

 この2校に続きそうなのは、6区まで優勝争いに加わっていた順天堂大と明治大だろう。順大は1区が10位と出遅れたものの2区で東京五輪3000m障害7位の三浦が、スローペースになった大集団に追いついた。そこでも冷静な走りを見せ、ラスト2km付近から抜け出して1位に上げた。その後は3位、4位と順位を落としたが、「出雲がダメだったので、自信を取り戻すためにとつなぎの区間を走らせてもらいました」と言う、野村優作(3年)が5区で区間2位の走りをして青学大と同タイムの2位に上げた。そこから牧瀬圭斗(4年)が先頭争いに加わり2位。7区では5位に落ちたものの、8区では四釜峡佑(3年)が区間2位の走りをして3位でゴール。

 長門俊介監督は「途中で優勝を意識できるタイミングもあったので少し悔しい」と話したが、三浦と野村を中心にしてうまく流れに乗れば、箱根でも十分に戦える力を見せた。

 明治大は10月の箱根駅伝予選会を1位通過のあと、主力の櫛田佳希(3年)がケガで使えなくなり、エースの鈴木聖人(4年)も足の痛みが出てギリギリまで起用を迷い、つなぎの6区に使う厳しい状況だった。

 1区は8位発進となったが、前回の箱根1区16位で悔しさを味わっている児玉真輝(2年)が、2区を区間2位の走りで4位に上げる快走。3区は故障上がりの富田峻平(3年)が粘り、駅伝初出場だった4区の小澤大輝(3年)が、区間3位の走りでチーム順位も3位に。5区で7位に落ちたが6区の鈴木は3位にあげ、7区でも今年になって安定感を増してきた駅伝初出場の橋本大輝(4年)が区間4位と堅実な走りをした。

 最終8区で7位に落としたものの、山本佑樹監督はこう評価する。

「予選会のダメージが大きくて、そのなかでどれだけ走れるかのチャレンジでしたが、シード権獲得を目標にしていたので7位は満足のいく結果。ただ、最後は地力の差が出てしまいました。自信と課題の両方の収穫がある大会になりました」

 主将の鈴木も箱根への期待感をこう話した。

「今年はチームとして、速さではなく強さを目指してきて、大崩れする選手もいなくて最後まで走れたのは、その成果だと思います。今回出られなかった櫛田もいるので、箱根ではもっと面白い走りができると思う」

 予選会から2週間と疲労があるなかで先頭争いにも加わった結果は、選手たちの自信にもなったはずだ。