好記録が続出した「アスリートナイトゲームズイン福井」 陸上のアスリートナイトゲームズイン福井が29日、9.98スタジアム(福井県営陸上競技場)で開催された。男子100メートルではケンブリッジ飛鳥(ナイキ)が10秒03と自己ベストを更新して初…

好記録が続出した「アスリートナイトゲームズイン福井」

 陸上のアスリートナイトゲームズイン福井が29日、9.98スタジアム(福井県営陸上競技場)で開催された。男子100メートルではケンブリッジ飛鳥(ナイキ)が10秒03と自己ベストを更新して初優勝。女子100メートル障害でも、青木益未(七十七銀行)が、追い風参考2.1メートルながら、従来の日本記録(12秒97)を上回る12秒87をマークした。好記録が連発した背景には、会場の独特の風と日本の陸上界では珍しいエンタメ性を含ませた大会運営があった。

 同大会は福井陸協が独自開催するもの。資金はクラウドファウンディングを行い、初年度だった昨年は785万円が集まった。今年も462人から目標を超える640万7000円が支援されている。会場の福井県営陸上競技場は、桐生祥秀(日本生命)が2017年に日本勢初の9秒台、9.98を叩き出した場所ということから、愛称が「9.98スタジアム」に決まっている。

 同会場の特徴は、ホームストレート方向にいい追い風が吹くこと。実施する競技は男子走り幅跳びと、男女の短距離レース。地の利を活かせる競技に絞っている。

 昨年は男子走り幅跳びで城山正太郎(ゼンリン)が8メートル40、男子110メートル障害で高山峻野(ゼンリン)が13秒25をマークし、それぞれ日本新記録を樹立。女子100メートル障害でも寺田明日香(パソナグループ)が13秒00と、当時の日本タイ記録を打ち立てている。

 そして今年も好記録が連発した。まずは女子100メートル障害。予選で追い風参考2.3メートルながら、寺田が日本記録12秒97を上回る12秒92で全体1位になると、決勝でも追い風参考2.1メートルで12秒93を記録。その寺田を青木が決勝では上回り、12秒87で優勝した。

 男子110メートル障害でも2018年日本選手権王者・金井大旺(ミズノ)が日本歴代2位となる13秒27で優勝。最後を飾った男子100メートルではケンブリッジ飛鳥(ナイキ)が自己ベストを3年ぶりに更新。予選で10秒05をマークし、決勝では日本歴代7位の好タイムで優勝した。

出場者も好意的な声 桐生「毎年来たい」ケンブリッジ「ここにきてよかった」

 続々と生まれた好記録を後押ししたと考えられる要因は追い風だけではない。大会の演出と観客の存在も大きかったようだ。欧米で行われているナイター陸上をヒントに、エンターテインメント性を含ませることで観客も選手も楽しめる大会にすることがコンセプトの一つ。スタジアムにはアップテンポなBGMが流れ、大型スクリーンでの演出、MCによる進行などにより、会場の盛り上がりを作り上げていた。

 新型コロナウイルス対策を万全とし、集まった観客は2700人。スタンド席だけではなく、フィールド内にも特別観覧席を設け、選手と同じ目線でレースの臨場感を楽しめるものとなっていた。

 久々の有観客試合となった同大会。お祭り要素も含まれた雰囲気に、参加したアスリートも“乗せられた”。100m決勝で自己ベストを更新したケンブリッジは、レース後の会見でこう語っている。

「こうやってたくさんの人に応援してもらうと、自分のモチベーションも上がるし、気持ちの高ぶりも違うなというのはすごく感じて、やっぱり応援してもらえるっていいなというのをすごく感じられたレース。ここにきてよかったなと思います。

 いい風が吹きますし、それ以上に湿度も低くて、体が重く感じたりしない。気持ちよくレースに挑める、重たい感じがないので、そこが福井の一番いいところなのかなと思います」

 昨年に続いて出場した寺田も「観客の皆さんの声援が力になるというのは私は大きくある。今回負けてしまったんですけど、元気よく走ってる姿を見ていただけたのはすごくよかったなと思います。福井陸協さんが演出や音声とか、いろんな配慮をしていただいて感謝の気持ちしかないです」と観客の声援と運営の努力に感謝を述べている。

 また、ケンブリッジに敗れたものの10秒06の好タイムを出した桐生祥秀は「毎年来たい。毎年来るには、招待してもらわないといけないし、もちろん9.98のタイムを更新していけたら、思い出、記録に残る。クラウドファウンディングという形で還元してもらっているので、しっかり走りたい」と今大会のような新しい形の開催を歓迎。「こういうナイターの雰囲気というのが、陸上はまだそんなに浸透していない。コロナが落ち着いたら、こういう大会がもっと各地で広がっていけばいいと思う」と笑顔だった。

「やっぱり観客がいる大会はいいなと思います。こういう大会を見て、今日見に来ている約3000人が友達や家族に伝えて、『楽しかったよ、陸上見に行こう』というのが増えれば、もっともっと陸上を見に来る人口は増えると思う。こういう時だからこそ、元気づけられるような走りをしたい」と、思い出の福井での大会の意義を説いた桐生。2年連続で好記録が続出し、これまでにない大会を提供している夏の福井が、陸上界に新たな流れを作り出している。(THE ANSWER編集部・宮内 宏哉 / Hiroya Miyauchi)