見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。 日本にアメリカンフットボールを普及させたのは、立教大学教授・ポール・ラッシュ氏。彼の名前を冠し、競技の先駆者として広く知られているチームこそ、立教大学体育会アメリカンフットボール部…

見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。

日本にアメリカンフットボールを普及させたのは、立教大学教授・ポール・ラッシュ氏。彼の名前を冠し、競技の先駆者として広く知られているチームこそ、立教大学体育会アメリカンフットボール部・St.Paul’s Rushersだ。今回は大学アメフトのルーツを“支える人”に迫った。

「同期、後輩たちとアメフトをやれる今が一番幸せ。それ以外でプレーすることは考えられない」

※練習前の円陣で選手たちに想いを伝える田邉主将。大学生活を最後に、自身のアメフト人生に終止符を打つ予定だという

田邉主将は、立教新座高でもアメフト部主将を務めた。「高校までは授業の時間が皆一緒だったが、大学ではそれぞれ違う。競技だけに集中できない部分が難しい」。その中でも選手スタッフが一丸となることを目指し、部をまとめてきた。印象に残っているのは、4年生が就職活動のため不在にした時期にチームを運営していた下級生の姿。彼らのおかげで今のチームがある。後輩たちに感謝を伝えるため、そして全員で甲子園ボウルに出場するために、今日も休むことなく汗を流している。

「テーピングしてあげた選手がタッチダウンを決めた時、自分も勝利に貢献できたと感じる」

※選手の足にテーピングする田中トレーナー。兄がアメフト経験者だったこともあり、Rushersに入部した

田中トレーナーは現在、チームのトレーナー長を務める。選手のテーピングだけでなく、練習中のけが人の対処やアイシングの準備、選手の保険関係、ケータリングの発注まで幅広い業務をこなす。中高では剣道部に所属しており、大学でも選手として体育会に所属するか当初は悩んだ。しかし、「自分が一人の人間として輝けるか考え、限られた人数の中で選手を支える任務を担いたい」と思い、Rushersに青春を捧げることを決めた。現在は4年生トレーナーがいないため、3年生ながら最高学年として選手をより良くサポートすることを常に考えている。

「男性が多い中で頑張る女性の姿を発信したい。女だから、という理由で皆に夢を諦めて欲しくない」

※クラブハウスで作業する小谷アナライザー。チーム初の女性アナライザーだ

オフェンス担当のアナライザーとして、選手だけでなく戦術を考えるコーチも支えているのが小谷アナライザーだ。彼女にとってアメフトは幼い頃から身近な存在。父が選手であり、引退後はコーチも務めていたため、フィールドに連れて行ってもらうことが多かった。その影響もあって昔からアナライザーになりたいと考え、大学でその夢を叶えた。目標はコーディネーターとオフェンスアナライザーを兼任していた先輩。「オフェンスをコーディネートしている姿に憧れた。4年生になるまでに先輩のようになりたい」。

「人を引っ張ることが苦手だったが、大学アメフトを通じて克服できた」

※プレイや戦略の分析を行う岩月アナライザー。競技とチームを心から愛している

兄2人、さらには現在大学1年生の弟もRushersの選手という、立教アメフト一家に育った岩月アナライザー。自身も元選手だが、けがが原因で競技断念を余儀なくされた。「他の競技をやることも考えたが、やっぱりアメフトが好き」。たとえプレーはできなくても、大好きなアメフトに貢献したかった。高校の時に叶えられなかった日本一を大学で達成すべく、練習中は選手への指導、練習外では対戦チームの映像分析と、部のリーダー的ポジションを担っている。

「部で培った一足先の行動を読む力を活かして、自分がやるからこそ生み出せる価値を提供できる大人になりたい」

※練習中に選手のドリンクを準備する寺澤マネージャー。マネージャーだけではなく、スタッフ全体を束ねている

現在唯一の4年生である寺澤マネージャー。準備やビデオ撮影といった練習に関わる業務にとどまらず、グッズ販売まで行っている。女子校出身だったため、男性中心の部活に馴染むまでには苦労もあった。「大変なこともあったけれど、選手やコーチから感謝された時、チームが試合に勝った時にやりがいを感じる」。日頃は後輩マネージャーたちと密にコミュニケーションを取り、風通しの良い関係を構築している。彼女たちもまた、一つのチームなのだ。

「広い視野を持って、目の前にある色々なことに挑戦していける人間になりたい」

※グラウンドで作業する冨田マネージャー。イベント担当として様々な職務をこなしている

冨田マネージャーは4月の新入生歓迎シーズン、7月のファミリーデーなど、イベント企画運営を任されている。新歓期には選手候補の1年生たちの進捗状況を選手たちと共有し、出身校や経験してきたスポーツ、身長、体重などの情報を管理することで効率的に部員募集を行った。「中高時代は、マネージャーはお手伝いさんに近いイメージがあった。実際にやってみて、試合の運営やイベント企画など主体的にマネージメントしていく立場だとわかった。マネージャーに対する認識が大きく変わった」という。中高までチアリーディングをやっていた富田。現在はチームの裏方から選手たちを応援している。

「日本フットボールの父」と呼ばれるラッシュ氏は、かつてこのように言った。“Do your best, and it must be first class.”人々の目標になるようなベストを尽くせ。しかもそれは一流のものでなければならない。その精神を継ぐRushersの選手だけでなく、選手を支えるスタッフもまた、First classを目指して職務を全うしている。中でも目立ったのは、男性中心の環境で主体的に輝く女性スタッフの姿だ。競技は未経験でも、アメフトそしてチームに対する思いは選手に負けないほど強い。彼女たちを含めた部員たちの一挙手一投足からは、ルーツ校の伝統と誇りが感じられた。甲子園の舞台に立つために、そして、トップにふさわしいチームとなるために、一流を目指して走り続ける。

立教大学体育会アメリカンフットボール部(りっきょうだいがく・たいいくかいあめりかんふっとぼーるぶ)
1934(昭和9)年、当時の立教大学教授・ポール・ラッシュ氏を中心に創部。80年以上の歴史の中で、甲子園ボウル出場6回(優勝4回)という輝かしい成績を持つ。120名を超える選手・マネージャー・トレーナー、それぞれが周囲から目標とされる一流を目指して日々邁進している。