見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。 六大学を背負って白球を追うのは、硬式野球部だけではない。5月8日、硬式野球より一足早く春を終えた東京六大学軟式野球リーグ。彼らの大きな特徴は、審判やコーチだけでなく監督まで学生が担…

見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。

六大学を背負って白球を追うのは、硬式野球部だけではない。5月8日、硬式野球より一足早く春を終えた東京六大学軟式野球リーグ。彼らの大きな特徴は、審判やコーチだけでなく監督まで学生が担当している点だ。今回はもう一つのBIG6を“支える人”に迫った。

「チームに所属している以上、どうやって貢献するか考え、自分の価値を最大限に高めることが大事」

※相手チームを分析する西牟田主務兼学生コーチ(写真左)と福田学生監督

最初にご紹介するのは、慶應義塾大学軟式野球部の西牟田主務兼学生コーチと福田学生監督。他の軟式野球部は選手が監督を務める中、彼らはプレーをやめて役職に専念している。一緒に汗を流してきたチームメイトを指導する立場に変わり、距離感に悩んだ時期もあった。しかし、その魅力ややりがいは何にも代えがたい。「チームの一員である以上、どうしたら勝利や運営に貢献できるか考えることが大事。監督として学生野球人生を終える人はほとんどいないし、選手との信頼関係や貴重な経験が得られる」と、福田学生監督は笑顔で語った。

「けがのリスクが少ない軟式野球なら、安心して長く続けられる」

※他大学の試合においてスコアボードを担当する稲垣選手(写真左)と、SNSで実況する井内選手

試合運営スタッフは、連盟から依頼された大学が持ち回り制で受け持つ。早稲田大学の試合が終わると、稲垣選手はスコアボード、井内選手は試合速報入力と、他大学の試合運営に携わった。また、同大学・野田選手はこの日、他大学の試合で二塁審判を担当。もともと硬式野球部に在籍していたが、けがのリスクや身体の負担が少ない軟式野球に魅力を感じ、大学でプレーする道を選んだ。

「部の雰囲気が良く、楽しく活動できている」

※場内アナウンスを行う高松マネージャー(写真左)と工藤マネージャー

試合の場内アナウンスは女子マネージャーの担当。早稲田大学軟式野球部・高松マネージャーは高校時代から野球部マネージャーを経験しており、大学入学後も「何らかの形で野球に関わりたい」と考えていた。入部の決め手は軟式野球が持つ雰囲気の良さと活気。学生主体の運営が、風通しの良いチーム作りを支えている。

「自分がその立場になって初めて、運営の方がいるから試合が成立することがわかった」

※「関東地方の球場は競争率が高く、確保が難しい」と語る松岡委員長。「秋以降は色々な球場に声をかけ、母数を増やしていきたい」

東京六大学軟式野球連盟は、各校の選手6名による連盟委員や理事を務める卒業生によって構成される。彼らを束ねているのが東京大学軟式野球部所属・松岡委員長だ。球場の予約や審判の派遣、さらには対戦カード決定も連盟の仕事。選手としてプレーするだけでなく、リーグ全体を俯瞰しなければならない。「自分が1人の選手としてプレーしていた時は、当たり前に試合が行われていると思っていた。連盟委員になって初めて、運営の方がいるから試合が成り立っていることがわかった」。秋季リーグの円滑な運営、そして後輩たちへの引き継ぎを見据え、春季リーグ戦が終わっても連盟のトップとして奮闘する日々は続く。

「点が入らないから面白い。1点の重みやエラーした流れの変わり方に注目」

※選手に混じってベンチ入りする渡邉連盟マネージャー長(写真左から3人目)

「軟式野球は硬式野球に比べて1点の重みがある。エラーによる流れの変わり方も魅力」と目を輝かせるのは、法政大学軟式野球部・渡邉マネージャー。連盟マネージャー長も務めている。試合でのベンチ入りや練習手伝いなど、硬式野球や準硬式野球に比べて選手と直接関われることが入部の決め手になった。軟式野球の面白さを多くの人に知ってもらいたいと考え、公式SNSや記事更新も担当する。

それぞれが助け合うことで、東京六大学軟式野球連盟は試合の質の高さを維持してきた。

※一塁審判を務める慶應義塾大学の選手

試合の塁審を務めるのも学生たちだ。自分の担当試合が終わると、急いでユニフォームを着替えて授業に向かう選手の姿も見られた。主審については全試合アマチュア資格を持った球審が務めるが、塁審までは確保することが難しい。公認の審判を講師に迎え、学生向けの審判講習会を実施するなど、それぞれが助け合うことで、東京六大学軟式野球連盟は試合の質の高さを維持してきた。

「学生が主体となったチーム運営」は大学スポーツの最大の魅力だが、メリットだけを生むわけではない。目の前に壁が現れた時、東京六大学軟式野球部は自分たちに今できることを探して全力で立ち向かってきた。チームのために、リーグのために、なぜそこまで彼らは頑張れるのだろう。組織への貢献を考え行動する学生たちの姿は、見る者に社会で生きていく上での大切なヒントを与えてくれている。

東京六大学軟式野球連盟(とうきょうろくだいがく・なんしきやきゅうれんめい)
1961(昭和36)年に創立。早稲田・慶應義塾・明治・法政・東京・立教の6校で構成されている。連盟運営を学生主体で行う、大学スポーツ界でも極めてユニークな活動方針を執ってきた。春季リーグの優勝校は全日本大学軟式野球選手権大会、秋季リーグの優勝校・準優勝校には東日本軟式野球選手権大会の出場権が与えられる。