アジア杯に入って、日本代表にとって初めての快勝とも言えた準決勝のイラン戦。だが、この試合にフル出場し、ダメ押しとなる3点目を決めた原口元気(ハノーファー)に、完勝を成し遂げた喜びや爽快さのようなものはなかった。 他の選手とともに一度、…

 アジア杯に入って、日本代表にとって初めての快勝とも言えた準決勝のイラン戦。だが、この試合にフル出場し、ダメ押しとなる3点目を決めた原口元気(ハノーファー)に、完勝を成し遂げた喜びや爽快さのようなものはなかった。

 他の選手とともに一度、ロッカールームでしばらく時間を過ごしていたからだろうか。試合後、ミックスゾーンに現れた原口は、ふだんブンデスリーガで見せるように、感情を生々しく露にすることもなかった。



イラン戦の終了間際、ダメ押しとなる3点目を挙げた原口元気

「いいゲームができた。(イランが自陣に)引きこもる相手よりもやりやすいということじゃないですけど、集中していい守備ができていたので、そこからの攻撃が今日は冴えていたと思います」

「集中していい守備ができていたので」というのが、この試合を端的に物語っているのだろう。前半の日本は、自陣の低い位置でボールを回すことこそできたが、イランのスピードとパワーに押されていた。イランのカウンターの切れ味やセットプレーの迫力は、日本にはないものだった。

 それでもイラン自慢のサイド攻撃を抑えきったのは、原口をはじめ攻撃陣の貢献度が高かったからと言えるだろう。後半に入って日本が試合を優位に進められたのも、彼らの粘りがイランの士気を奪ったことが大きい。

 現在所属するハノーファーでは、ゴール前の仕事を求められるようになった原口だが、ヘルタ・ベルリン時代は、攻撃力をさほど評価してもらえず、守備にパワーを割くことができるタイプということで評価されていた。

 原口はそんな状況を打開するために移籍の機会をうかがっていた。だが、移籍希望表明のタイミングがクラブの思惑と合わなかったことから出場機会が激減。結局、2部のフォルトゥナ・デュッセルドルフへと移籍することで出場機会を確保し、ロシアW杯へ向けてチャンスをつかんだという経緯がある。

 ある意味、ヘルタで不本意な扱いを受けるなかで、確実に手に入れたのが、90分間走り切れる体力と強いメンタルだった。それはこのイラン戦でもいかんなく発揮された。

 原口が得点したのは91分のこと。そのシーンを淡々と振り返る。

「あまり攻撃に関われていなかったので、最後1本くらいはリスクを冒して……と思ったら、うまくいった。あれだけ(攻撃に)関われてなかったら、昔だったら少しイライラしていた部分もあったと思うんですけど、最後まで冷静にプレーできて、結果が出た。それがメンタル的にすごく成長した部分かな、と」

 原口は以前、「厳しい試合の遅い時間こそ、自分が活躍できる時間帯」とも語っていた。耐えに耐えて、最後のチャンスを狙うことができるようになったということだ。

「まだまだいける感じはしたし、全然、フレッシュでしたね」

 原口はそう言って、ここまでのアジア杯の戦いを振り返った。

「もちろん、今日が今大会で一番いいゲームでした。(これまで)ひとつひとつ、苦しかったですけど、粘り強くやってきました。サコくん(大迫勇也)が入ったことはすごく大きかったし、やはり2列目は彼がいることによって生きた。それは大きかったですけど、(大迫が)いない中でもしっかり勝ち切ってこれたというのが、チームとして成長している部分かなと思います」 

 大会も残すは決勝のカタール戦のみ。

「勝たないと意味がないですし、別の試合なので、1からいいゲームを作り出さないといけない。そのための準備をしっかり今日からしたいです」

 ドイツに渡って4年半。そのすべてが血となり、肉となっている。そんな原口の成長を再確認できる決勝になるに違いない。