サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム。今回のテーマは、世界に知られる前の「将軍」と「イレブン」との予期せぬ遭遇。

■「15分」の監督インタビューが…

 ロンドンのヒースロー空港に着いて、そのまま「サッカー教室」参加の少年たちとともにバスでシェフィールドへ。その夏のイングランドは好天続きで異常に気温が高く、車窓から見える野原の芝が一面黄色く枯れていたのが印象的だった。3日間は「サッカー教室」を取材し、「これでいいだろう」と、19日木曜日にいよいよマンチェスター通いが始まった。

 シェフィールド大学は町の中心からやや西に離れた丘の上にあり、大学前のバス停に立ったときが私の「旅」の始まりだった。マンチェスターまでは鉄道で約1時間。オールドトラフォードで土曜日の試合の取材チケットを受け取り、「監督にインタビューしたい」と話すと、「それなら監督に直接頼め」とあっさりしたものだった。

 このインタビューについては、この「連載」の第1回、2020年の4月に書いた。1時間の申し込みに対し、ドカティ監督は大笑いして「5分だけ」と言った。粘って「15分間」ということになったが、翌日インタビューを始めると、監督も対話を楽しみ、キッチリ1時間になった。これで本文4ページはOKである。

■スタンドを沸かせた「多彩なプレー」

 土曜日のリーグ開幕戦、バーミンガム・シティを迎えての一戦は、2-2の引き分けだったが、非常にエキサイティングな試合だった。ドカティ監督の約束どおり、ユナイテッドは多彩なアタッキングプレーでスタンドを沸かせ続けた。

 8月のイングランド。午後3時キックオフの試合は、後半まで明るく、5万8898人のサポーターで埋まったオールドトラフォードは美しく輝いていた。これで表紙とカラー10ページも大丈夫だろう。

マンチェスター・ユナイテッド34ページ大特集」の現地での取材は何の支障もなく終了し、私には帰国まで1週間の時間が与えられた。日曜早朝にシェフィールド大学の寮を抜け出し、マンチェスターで前日の試合を一緒に取材した倉井美行カメラマンとロンドンからドイツのデュッセルドルフに飛んだ。1年前からケルン体育大学に通っている友人に会うためだった。

 たまたま、その友人の兄が新婚旅行でドイツに来ており、モーゼル川に面した小さな村の民宿に泊まっていた。私たちはそのまま列車に乗り、新婚夫婦の邪魔者になるべく、その村に向かった。

■日本に輸出する「最高級ワイン」

 美しい村だった。民宿の前から小さな渡し船でモーゼル川を対岸に渡ると、小高い丘が連なっており、その丘すべてがその民宿が持つぶどう畑だった。民宿の本業はワイン製造農家だった。民宿の小さな女の子たちを連れての(というより、彼女たちはぶどう畑の急な坂道を駆け上がっていったから引っぱられるように)散歩から戻ると、居間には、ラベルなどなくコルクの栓をしただけの白ワインが表面に水滴をつけて待っていた。喉の渇きを覚えてゴクゴクと飲んだが、すばらしくおいしかった。

 聞くと、ドイツのこうしたワイン農家では、最もよくできたものは自家用にするために地下にしまい、次のランクのものをドイツ国内向けに高級ワインとして出荷、さらにその次のものを日本向けに「最高級ワイン」として輸出するのだという。なるほど。私はその1杯で完全に酔ってしまい、夕食もそこそこにベッドに倒れ込んだ。

 その村に2泊し、8月24日の朝に倉井カメラマン、友人と3人でパリに向かった。「サッカー教室」は最後にパリ観光をして、8月27日にパリから帰国の途につくことになっていた。列車はパリ行きの鈍行である。早朝に出たが、ルクセンブルクを経由し、パリに着いたのは、午後もそう早い時間ではなかったはずだ。

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