接戦でマウンドを託されるケースも少なくない伊勢。(C)産経新聞社胸にしまい込んだ悔しさ「火消しだったり、言葉があるポジションは、やっぱり『The仕事』って感じですよね」 チームの勝敗を背負うリリーバーという職を、伊勢大夢はこう表現する。【動…

接戦でマウンドを託されるケースも少なくない伊勢。(C)産経新聞社

胸にしまい込んだ悔しさ

「火消しだったり、言葉があるポジションは、やっぱり『The仕事』って感じですよね」

 チームの勝敗を背負うリリーバーという職を、伊勢大夢はこう表現する。

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 プロ入り5年間でDeNAのブルペンを支え続けた右腕は、昨オフに先発転向を直訴。オープン戦では5登板で防御率3.27とまずまずの結果を残しながらも「バウアーが戻ってきた時点でもうね……。やっぱり先発陣が状態良かったですし、リリーフは明らかに手薄でしたしね。監督自身も決断しやすかったと思いますよ」と中継ぎに戻った。

 悔しさはある。それでもチーム事情も理解した上で無念さを胸に仕舞い込んだ。そしてリリーバーとしてシーズンインした伊勢は、幾多のピンチを切り抜けた経験から得た底力を存分に発揮する。楽勝ペースから一転、9回に1点差に迫られ、更に一打逆転の場面となった12日のヤクルト戦では、2死一、三塁のピンチを落ち着いて切り抜けた。

 三浦大輔監督もバタついた継投に自責の念を示しつつ、「最後に伊勢がよく締めてくれました」と『The・仕事』を果たした男を評価。ブルペンを預かる小杉陽太投手コーチも「申し訳なかった。本当に信頼しています」と最大限の賛辞を送るなど、あらためてその存在感を見せつける形となった。

 結果的には叶わなかった先発への夢。ただ、その経験は伊勢を一回り大きくした。

「先発は打たれても簡単には変えてもらえない」

 特有の難しさも身を持って体感した伊勢は、「先発の人たちって自分の成績を見てる選手が多いような感じがして。チームに帯同しない時もあるし、ベクトルが自分に向いているんですよね。東(克樹)さんや、大貫(晋一)さんにも感じたことで、我が強いというかリリーフの人とは全然違うなって。これは結構いいなって1つ思いました」と同じチーム内の同じ投手陣でも、変え方の違いを実感。そして、こう続ける。

「結局ヘイト買うのは僕らなんで、それはどうもしようがないですね。SNSでなにか言われてても、誰が言ってんだろうなっていうぐらいしか思わない。僕自身ネットに書かれるぐらいじゃ全然刺さんないんで。気にしている選手がいたら声をかけてあげているくらいです」

 もともと、悪意のある“外野の声”に揺らがないタイプではある。しかし、試合終盤に迎えるマウンドでは「勝敗が決まるとこで投げることが多いポジションですから。きついですよね、正直それをずっとやるのって」と神経をすり減らしながらチームのためを思って投げ続けている。だからこそ、先発挑戦で得たメンタルを整える術をブラッシュアップした。

「先発の人たちのそういう姿を見たからこそ、もう1回自分のために野球やりやってみようかなって。この前点を取られちゃいましたけど、なんかそこに対して引っ張られることなく、全部ベクトルを自分に向けてる感じですね」

「相手に舐められている気がする」

 また、技術面でも磨きをかける。

 元投手コーチの斎藤隆氏にもらった「今持っている真っ直ぐ、スライダー、フォークをまず磨け」と助言を実践。特にスライダーには「先発では使わなきゃいけなかったから、使えるようになった気がするぐらいですよ。でも気がするだけで十分なんです」と投球の幅を広げられたと自信を掴んだ。

「投げないと相手はそのボールを頭の中から消せるので、変なボールでも1球投げられれば、相手バッターの見え方、考え方変わるんですよ。それも結構良かったなっていうポイントですね」

 チームに求められている役割は定まった。慣れ親しんだブルペンで、リーダー格の役割も担う伊勢は「ヤスさん(山﨑康晃)を含めて中心で回っていって、みんなを巻き込んで引っ張っていければ、他の球団にも劣らないリリーフ陣になれると思うので。みんなで頑張っていきたいですね」と胸を張る。

 ただ、「コントロールは良くなってきていますが、怖さがなくなっているからか、相手に舐められている気がするんですよね。入江(大生)とか(ローワン)ウィックとかは怖さがあるから踏み込めないと思うし」と意外な言葉も伊勢は残す。

 怖さがない――。その気づきを首脳陣はどう見ているのか。小杉投手コーチは「彼のもともと持っている素晴らしい入射角があるんです。71試合登板した2020年シーズンは、高めの真っ直ぐが、ライジング系の軌道できていたので空振りが取れていました」と指摘。そして、本人の意見を次のように総括している。

「でも投げミスをしないようにしていった結果、コマンドは良くなったけど本来の良さも消えていったところもあると思いますね。リリースの位置を少し高くしていければいいですね。まだまだ荒々しく行ける年齢ですよ」

 スタートした6年目のシーズン。「もう1回リリーバーとして輝くチャンスを自分で掴み取れるかもしれない。いい年もあったんですけど、やっぱり野球選手として、ピッチャーとして輝くことは本当に難しいと思ってるんで」と目を光らせる伊勢は同時に「最近野球選手ってエンターテイナーだと思ってきているんですよ」とポツり。「打たれるにしても、抑えても球場は盛り上がりますしね。結局アクション起こすのはピッチャーなんで、どっちにも絡むっていうのは面白さの1つだと思うんですよね」と、どこか達観した言葉を口にする。その独自の解釈も彼の魅力のひとつと言えよう。

 ボールは剛く、思考は柔らかく。ハマで愛される“伊勢大明神”は、今日も明日も淡々とブルペンで爪を研ぎ続ける。

[取材・文/萩原孝弘]

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