6月の世界水泳選手権と9月のアジア大会の代表選考となる競泳の国際大会日本代表選手選考会が東京・辰巳で開催された。 新型コロナウイルス蔓延の影響から、今年5月に福岡で開催予定だった世界選手権は一度、来年の7月に順延された。しかし、今年の6月…

 6月の世界水泳選手権と9月のアジア大会の代表選考となる競泳の国際大会日本代表選手選考会が東京・辰巳で開催された。

 新型コロナウイルス蔓延の影響から、今年5月に福岡で開催予定だった世界選手権は一度、来年の7月に順延された。しかし、今年の6月にハンガリー・ブタペストで世界戦選手権を開催することが決定。状況が二転三転するなかで、例年ならば4月上旬に代表選考会を兼ねた日本選手権が行なわれるが、今年は1カ月ほど早い開催となった。



遅咲きながらもここからの成長に期待がかかる青木玲緒樹

 イレギュラーなタイミングでの大会ながらもリレーを含め女子3名、男子2名の計5名が初代表入りを果たした。また、女子400m個人メドレーでは、出場すれば内定の東京五輪金メダリストの大橋悠依(イトマン東進)が3位だった。その大橋を破って優勝したのは、東京五輪代表にも選ばれていた谷川亜華葉(あげは/イトマン)。大橋とともに代表内定となった。2位に入った中学3年生の成田実生(金町SC)は代表入りとはならなかったが、この先楽しみな選手のひとりとして今後も注目だ。

 そんななかで女子平泳ぎの青木玲緒樹(れおな/ミズノ)が、27歳にして"覚醒した"と言える泳ぎを披露した。大会初日の100mで、日本記録を0秒69更新し、昨年の東京五輪では2位に相当する1分05秒19で優勝を果たした。

 彼女が最初に注目されたのは、2016年リオデジャネイロ五輪終了後の、同年9月の全日本インカレだった。当時、東洋大4年の青木は100m、200mともにリオ五輪5位に相当する自己新で優勝。そして、2017年4月の日本選手権でブレークして大橋とともに、100mと200mで2冠を獲得して初の世界選手権代表に選ばれた。初の大舞台は2種目ともに準決勝敗退となったが、翌2018年の日本選手権でも2冠を達成し、アジア大会の100mでは銀メダル、200mでは銅メダルを獲得した。

【平井コーチも認める才能】

 青木を指導する平井伯昌コーチは、「小学生の時から才能はピカイチだと信じてやってきた」と、中学生時代から北島康介などトップ選手の高地合宿に毎年参加させていた。日本女子平泳ぎの牽引者になると期待されていたが、調子の波が大きい選手だった。2019年日本選手権は、100mで5位、200mは10位と惨敗。2カ月後のジャパンオープンの100mは1位で、200mが2位と世界選手権の代表に入り、本番では100mで4位と惜しい結果だったが、そこからは自己記録を更新できない日々が続いた。

 東京五輪の100mは出場したものの、自己記録より1秒39遅い1分07秒29で予選19位敗退という結果に。同時期にデビューした1学年下の大橋に大きな差をつけられた。

 五輪後は現役続行を決めたが気持ちが乗らず、何度も「やめる」と口にしていた。迷いを持ちながら出場した、1月末の「KOUSUKE KITAJIMA CUP 2022」の100mは、渡部香生子(USM)に敗れる2位だった。

「1カ月前は正直、選考会で泳ぐか泳がないかという話をしていた」という青木だったが、それでも今大会予選からすばらしい泳ぎを見せた。決勝でもスタートからの浮き上がりで頭ふたつほどリードすると、キレのある大きな泳ぎで前半の50mは渡部の日本記録の通過タイムを0秒87上回る30秒54で通過。後半も焦ったような動きはなくスムーズに泳ぎ、1分05秒19でゴールした。

「派遣標準Ⅲの1分06秒64を切れればいいと思っていたので、日本記録は信じられない気持ちです。すごく緊張していたけど、平井先生にはレースでは気をつけるポイントを意識することと周りを見ないようにと言われ、スタートからのタイミングや、ターン後も力まずに泳ぐというフォームに集中するということだけを考えていました。東京五輪は緊張して何もわからないまま終わったけど、今日のように気をつけるポイントを決めて焦らず冷静に泳ぐようにすれば、あまり緊張もしないのかなと思いました」

 技術的には、これまでは腕の掻きが深くなって肘を引きすぎていたところを、平井コーチのアドバイスで「水面に近いところを掻き、ストリームラインを保った体を前に持って行くように」と言われ、それを練習から気をつけていたという。そして今回、その泳ぎを本番で再現することができた。

「ここ2~3年は、ちょっと力づくな泳ぎになって技術がしっくりこない感じがあったのですが、アドバイスされたことをやってこういう結果が出ると、これまでの自分の考え方が間違っていたのかなとも思う。技術面をこれからもっと改善していけば、もっと速く泳げるようになると思いました」

 平井コーチは「そのことは何回も言ってきたが、玲緒樹の場合は『こうすれば速くなる』と自分で思い込んでいたものがあったので、なかなかやらなかった。レースのあとで『これって本当に速くなるんですね。当たっていました』と言ってきたので、『今まで俺を信じてなかったのか』と、ガクッとしましたよ」と笑う。

【今が一番の成長期】

「彼女は筋力も強いし、スタートもうまくて身体能力は高い選手です。池江璃花子(ルネサンス)のような天才肌の選手もいるが、20代後半になって、持っている才能にセルフマネージメントが追いついてくる選手もいて、人それぞれだと思っています。だから今回は、僕のところに移ってきてから強くなった寺川綾とか、27歳になったリオで金メダルを獲った金藤理絵のことを思い出しましたね。

 あのふたりと同じように、彼女にとってはここが一番の成長期だと考えてやっていきたいです。世界との戦いはそうは簡単にはいかないと思うけど、今回の代表には花車優(東洋大4年)も200m平泳ぎで優勝して入ってきてくれたので、マンツーマンにならずに指導できるから、玲緒樹も落ち着いて練習ができると思います」(平井)

 青木は2日目の50mでも、鈴木聡美(ミキハウス)が18年に出していた日本記録を、0秒37更新する30秒27で優勝して世界選手権代表を内定。最終日の200mは疲労もあって7位だったが、日本歴代4位の2分21秒85の自己記録を持っているだけに、今回の覚醒で今後は期待できる。

「自分が自分を信じる以上に、平井先生は自分を信じ続けていてくれた。今回の日本記録でひとつ恩返しができたと思うので、次の世界選手権は19年にメダルを逃した悔しさもあるので、きちんとメダルを獲得して恩返ししたいと思います」

 こう話す青木の世界選手権の目標は、これまで世界で7人しか出していない100mで1分04秒台に突入すること。今回の優勝で自信を得た彼女はしっかり欲を持ち、これから日本女子競泳の主柱になっていくはずだ。