実業団・十六銀行のエース、安藤みなみが突然のプロ転向を発表した。所属するのは卓球Tリーグ女子のトップおとめピンポンズ名古屋だ。愛知県出身の安藤にとって、地元への凱旋でもある。ただ、トップ名古屋は、広報を兼任している井林茉里奈以外は、高校、大…

実業団・十六銀行のエース、安藤みなみが突然のプロ転向を発表した。所属するのは卓球Tリーグ女子のトップおとめピンポンズ名古屋だ。愛知県出身の安藤にとって、地元への凱旋でもある。

ただ、トップ名古屋は、広報を兼任している井林茉里奈以外は、高校、大学、実業団と兼任の選手が多く、プロ一本で活動する日本人選手は安藤みなみ、ただ1人だ。

躊躇はなかったのだろうか。




【安藤みなみ(あんどうみなみ)】1997年2月12日生まれ。愛知県出身の女子プロ卓球選手。専修大学では2年連続全日学2冠、十六銀行では2019年前期日本卓球リーグで最高殊勲選手賞を受賞。バックの変化系表ソフトとフォアスマッシュという独特の戦型で活躍。世界ランキング最高29位。(撮影:田口沙織)

不安を上回る喜びと地元の温かさ




写真:安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

安藤はこれまで、十六銀行のある岐阜で暮らしていたが、実業団を辞め、プロになったことで愛知県に拠点を移す。「今、引っ越しで住民票変更とかが大変なんですよね」と笑い、不安な様子はない。「自分が行ったらそこで頑張るだけ」とあっけらかんとしている。

Tリーグ女子の他3チームと違い、トップ名古屋には拠点となる広い専用練習場はない。プロと言えども、これまでの安藤の練習環境よりも恵まれたとは言えないかもしれない。




「自分が行ったらそこで頑張るだけ」/撮影:田口沙織

「もちろん練習環境には不安な面はある。でも大学の先生や愛知県の知り合いなども練習に来ていいと言ってくれているので乗り切れるのかなと。思うようにできない中でやっていくのも、きっとプロとして、違う形でプラスになる」。

自分が生まれ、卓球を始めた地元のプロチームでプレーできる。

安藤にとってその喜びは、練習環境への不安をはるかに上回るものだった。




写真:笑顔を見せる安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

「1季目のTリーグで、ファンの方がたくさん差し入れをくれたり、私のタオルを持って応援してくれたり、母の知り合いやその子供が応援に来てくれたり温かかった。トップ名古屋でいつかまたプレーできたらという気持ちはありました」。

“可愛い後輩”木村香純とはもう対戦したくない!?




写真:安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

Tリーグに再び参戦して対戦してみたい選手はいるか、と聞いてみた。

「えー。特にないんですけど…」と考え込んだので、こちらから「木村香純選手とはどうですか」と尋ねた。

すると「木村はもうやりたくないです(笑)」と即答。「30日、また勝ってましたよね?」と返ってきた。

木村香純(専修大/木下アビエル神奈川)は、今季Tリーグで大ブレイク中のニューヒロインだ。開幕戦で早田ひな(日本生命レッドエルフ)を破ると、その後、格上海外選手も下し破竹の4連勝を果たす。1月30日には平野美宇(日本生命レッドエルフ)にも勝利し、現在シングルス5勝2敗と波に乗っている。




写真:Tリーグで格上から勝ち星を挙げている木村香純(木下アビエル神奈川)/撮影:ラリーズ編集部

木村は、安藤が4年生のとき、専修大学に入学してきた。先輩後輩の間柄だ。「安藤さんがいたから強くなれた」と木村は安藤を慕っている。

両者は何の因縁か、2021年全日本選手権5回戦でランク入りを懸けて相まみえた。




写真:2021年全日本選手権での木村香純(写真手前)・安藤みなみ/撮影:ラリーズ編集部

「木村のTリーグの結果は見てて、どんだけ強くなってんだと思ってました。そのあと全日本の組み合わせ見て、え、当たるなって(笑)。ちょっと不安でした」と安藤は振り返ったが、しっかりとフルゲームの激戦を制し、先輩の意地を見せつけた。




写真:2021年全日本選手権での安藤みなみ/撮影:ラリーズ編集部

「木村には本当にたくさん遊んでもらってました。全日本が終わってからも連絡を取って、コロナが落ち着いたら遊びに行こうって話になって。相変わらず可愛い後輩です(笑)」。

地元愛知のチームを盛り上げ次世代へ




写真:安藤みなみ(トップおとめピンポンズ名古屋)/撮影:田口沙織

「井林さんの試合、ライブで見ていて感動しました」と語るように、安藤はTリーグ、とりわけトップ名古屋の試合をよく見ている。

「井林さんの試合」とは、広報を兼任する井林が2勝を挙げた、1月30日の日本ペイントマレッツ戦のことだ。今季現役復帰を果たした井林は、第4マッチでサウェータブット・スターシニー、ビクトリーマッチで馮天薇(フォンティエンウェイ)と格上選手の猛追を退け、トップ名古屋に今季2勝目をもたらした。これが今季シングルス初白星でもあった井林は、勝利後「やっとチームに貢献できた」と涙を浮かべた。




写真:涙の勝利を挙げた、広報も兼務する井林茉里奈(トップおとめピンポンズ名古屋)/提供:©T.LEAGUE

コロナ禍で想定した海外選手の多くが来日できない今季、トップ名古屋に限らず各チームは苦しい日程とローテーションでリーグ戦を戦っている。

地元愛知に戻った安藤が、数々の実績を引っさげてトップ名古屋に加入する意味は、リーグにとっても大きい。地域密着を理念の一つに掲げるTリーグが目指す「卓球を身近なものに」という理想の先駆けでもある。

「少しでも自分が結果を出したり、成長したところを見せたりすることで次世代に繋がって、トップ名古屋に入りたいと思う人が出てきたらいいな」。安藤の目線は先を見つめている。

トップ名古屋の試合を観る楽しみが、またひとつ増えた。




安藤の見つめる先は/撮影:田口沙織

取材・文:山下大志(ラリーズ編集部)