世界一を目指す福岡ソフトバンクホークス ゲーミング

 10月27日、福岡ソフトバンクホークスが21回目のパ・リーグ優勝を果たした。しかもここ10年で6度も日本一に輝いているなど、その存在感は他を圧倒している。

 そのホークスに、eスポーツチームがあることを知っているだろうか。2019年8月に「福岡ソフトバンクホークス ゲーミング(以下SHG)」を立ち上げ、「リーグ・オブ・レジェンド(以下LoL)」(※1)と「シャドウバース」(※2)の2つのゲームタイトルで、プロリーグに参戦している。
※1 5対5で戦うPC向け戦略対戦ゲーム。リリースから10年以上経っているが、世界で最も人気のあるeスポーツタイトルのひとつ。
※2 対戦的なストーリーのあるダークファンタジーの世界観をベースにしたデジタルカードゲーム。PC、スマホ向けに展開され若年層に人気が高い。

 ただ最初のシーズンはプロの洗礼を浴びた。LoL部門では8チーム中最下位、シャドウバース部門では8チーム中7位と苦戦を強いられた。しかし続くシーズンではLoL部門は5位に、シャドウバーズ部門は13節(全21節)終了時点で1位と大躍進を遂げている。

 この結果からもわかる通り、ホークスはeスポーツでも頂点を極めるべく、最大限の熱量を投入し始めた。その一つがゲーミングハウスの移転だ。LoL部門のマネージャー松谷はこう語る。

「ゲーミングハウスは間違いなくどこのチームよりも環境がいいと思います。3階建てで寝泊まりもできます。現在、選手がリザーブをあわせて6人、あとコーチ、マネージャー含め合計9人がここで暮らしています」

 以前のゲーミングハウスは千葉県の九十九里浜近くにあった。福岡ソフトバンクホークスという名前から拠点は福岡県にあると思われがちだが、オフライン大会が基本的に東京・渋谷で開催されるため、移動面を考慮して千葉県に拠点を置いていた。その場所をこの9月に渋谷から電車で1時間以内の都内近郊に移した。

 建物は南向きの斜面に建てられた瀟洒な洋館で、1階の木製デッキバルコニーには太陽光が降り注ぎ、館内には螺旋階段が設けられているなど、大富豪の別荘という印象だ。



ゲーミングハウスの玄関&ガレージ。斜面に建てられているため入り口が2階になる

 そもそも最近のeスポーツ大会はオンラインで開催されていて、練習も試合もすべてリモートで完結できるのだが、LoLのようにチームで対戦するゲームについては同じ場所で練習をするゲーミングハウスの存在が重要だという。

「LoLのようなチームスポーツは、必ず試合をした後にフィードバックがあります。その時に言い合いになって衝突することもときどきあります。オンラインでも練習は行なえますが、目と目を合わせて表情を近くで見ながら話し合うほうが、より深くコミュニケーションを取れてレベルアップを図るのに最適です。そのためLoLでは昔からゲーミングハウスで一緒にプレーするのが主流ですね」

 サッカー日本代表でもワールドカップなどの大きな大会の前には数週間の合宿生活を行う。それは練習のみならず寝食も共にすることで密なコミュニケーションが生まれ、チーム力の強化につながるからだ。eスポーツのチーム競技でもまったく同じ論理だ。ただ、eスポーツの場合はそれにプラスして別の理由もある。

「選手は夜遅く寝るなど不規則な生活になることが多いので、そのせいで大会の日に会場に遅刻しまうという危険性があります。もちろんそうしたことは絶対に許されません。だから団体で行動して、そんなことがないように、マネージャーと選手が一緒に住むようにしています」

 フィジカルスポーツの場合は、体の疲れを取る意味でも十分な休息を取るのが当たり前になっている。しかしeスポーツは、フィジカル的な疲れを感じることが少ない。そのため練習が長時間になることもしばしば。さらに不規則な生活にならざるを得ない事情もある。

「海外チームと練習試合をすることが多く、そこに合わせないといけない事情もあります。基本的に選手は昼の12時に起きてきて、15時から練習試合を3セット、3時間以上行なって、また20時から同じように3セット行ないます。そこからそれぞれが個人練習をやるので、寝るのは深夜の3時くらいになりますね」



練習部屋。配線をコンパクトにして掃除しやすくするなど衛生面も配慮

 単純計算をしても1日7~9時間は試合や練習をすることになる。そのため長時間椅子に座ることで腰痛になる選手も多い。またゲームは高い集中力が要求されるために、エナジードリンクを飲んで集中力を持続させようとする選手が多く、栄養面での偏りも心配されている。SHGではこの面でも改善に着手している。

「選手たちは糖分の摂り過ぎかなと思い、ここでは食事を作って出しているんです。野菜、肉、魚など栄養のバランスを考えて出しているんですが、好き嫌いのある選手もいて、残してしまうことも多いです。プロ野球選手もそうですが、コンディションはやはり個々人で整えていくのが基本。eスポーツプレーヤーも個々人で体調管理をやってもらうように伝えています」

 まだ選手たちの意識改革は必要だが、食事も提供することにより、栄養面での改善も見られている。またゲーミングハウスには小規模ながらトレーニングルームも完備するなど、いつでも体を動かせる環境を整えた。さらに競技面でも強化を図り、7月には新たに2人の韓国人コーチを就任させるなど、万全の体制を敷いた。しかしまだ課題はあるという。

「日本はそもそも海外のゲーム先進国に比べてLoLのプレーヤー人口が少なくて、選手の入れ替わりも少ないんですよ。海外で言うと18歳からデビューして2、3年がピークです。しかし国内では高年齢化していて、29歳でも現役としてやっている状況です。選手層の薄さによる新陳代謝の低さがリーグ全体の問題点の一つですね」

 ピークが20歳前後で、30歳に近づけば大ベテランという過酷な競争社会。SHGはこの世界的な潮流も考慮に入れて、スカウティング活動を強化。「若手の有望な選手を練習生として取ることにしている」という。今後、練習生として5名を採用し、トップチームで活躍できる選手を育成していく計画だ。

 このようにプロ野球のトップ球団の名に恥じぬよう、一気に資金を投入して、恵まれた環境と万全の体制を整えているが、SHGだけで黒字化するのはまだまだ先の話だという。

「個人のゲーマーが配信で黒字になることはありますが、eスポーツのプロチームで黒字を出すのは現状では難しいと思います。LoLに関して言えば先行投資の段階ですね」

 日本ではまだeスポーツ市場が成熟しておらず、チームや選手の知名度は低い。そのため大口のスポンサーを見つけたり、SHGのように母体となるプロスポーツチームの一組織として活動することが多い。チーム自体は赤字であっても先行投資をするのは、eスポーツに大きな可能性を感じているからだ。

 LoLの競技人口(アクティブプレーヤー)は月間で1億人超。世界大会も開催されていて、世界一への階段が用意されている。その世界大会の総視聴者数は約1億人で、最大同時視聴者数が4400万人と、世界大会に出場するだけでもブランド価値は高い。また賞金総額も7億2000万円と大きい。先んじてLoLのプロチームを強化し、日本屈指のチームへと成長させれば、世界一という目標も夢ではない。

「LoLは、リーグ自体の規模が大きいので、チームとして参入しているのはかなり大きなメリットだと思っています。世界への道のりはまだ遠いのですが、世界一を目指すことに変わりはありません」

 プロ野球、福岡ソフトバンクホークスの強みの一つは育成力。じっくりと時間をかけて選手を育て上げて今の圧倒的な地位を築き上げた。SHGの野望はすでに定まり、高い熱量を持って取り組み始めた。あとは今いる選手たちを強化しつつ、発掘した選手たちを育て上げ、世界一に向けて成長していくだけだ。