「私たちにとって最善のプレースタイル。ほかの方法で勝てないことは示されていた。このやり方なら多くのチャンスがあり、希望はこれしかない。勝ち続けられるかどうか、これから証明されるだろう」 現地時間3月2日、ニューヨークでのニックス戦の際、ヒュ…

「私たちにとって最善のプレースタイル。ほかの方法で勝てないことは示されていた。このやり方なら多くのチャンスがあり、希望はこれしかない。勝ち続けられるかどうか、これから証明されるだろう」

 現地時間3月2日、ニューヨークでのニックス戦の際、ヒューストン・ロケッツのマイク・ダントーニHCは笑顔でそう述べた。コーチの言葉に、「今後は未知数」という含みを感じたのは筆者だけではないだろう。




ロケッツのラッセル・ウェストブルック(左)とジェームズ・ハーデン(右)

 極端な”スモールボール”路線に舵を切ったロケッツの行方が、業界全体の好奇心をかきたてている。スタメンに身長6フィート7インチ(約201cm)以上の選手はゼロというスモールボールラインナップを採用したのだ。

 トレード期限間際の2月5日、ロケッツは平均13.8リバウンドをマークしていたセンターのクリント・カペラを放出し、ウィングプレイヤーのロバート・コビントンを獲得。以降、ジェームズ・ハーデン、ラッセル・ウェストブルックという2大スターを軸にして戦っている。

 6フィート5インチ(約196cm)のPJ・タッカーがセンター、6フィート7インチのコビントンがパワーフォワードのポジションに入っているが、メインのローテーションにトラディショナルな意味でのセンターはいない。

 これほどサイズが不足していては、「勝てるはずがない」と思ったファンも多いだろう。試合内容がエキサイティングになるとしても、とくにディフェンス面での苦戦は必至。実際に、トレード期限後の反応はネガティブなものが少なくなかった。

 しかし、ロケッツのスモールボールは一定以上の成果を挙げている。2月は9勝3敗と大きく勝ち越し、3月2日のニックス戦の前まで6連勝。2月はロサンゼルス・レイカーズ、ボストン・セルティックス、ユタ・ジャズも3桁得点で撃破した。

「(ビッグマンの代わりに)複数のシューターがフロアに立つことによって、ペリメーター(制限区域の外側で、かつスリーポイントラインの内側のエリア)でプレーしやすくなっているのは確かだ」

 ウェストブルックがそう証言するように、センターが不在になったことでハーデン、ウェストブルックに大きなスペースができた。ロケッツへのフィットが疑問視されていたウェストブルックも、水を得た魚のように調子を上げている。

 また、チームはディフェンス面でも予想以上の頑張りを見せている。

「このチームのガード陣は、(相手の)ビッグマンもガードできるんだ」

 そんなダントーニHCの言葉どおり、強靭なタッカー、多才なコビントンをはじめ、ロケッツの主力選手はフィジカルに恵まれた選手が多い。ディフェンス面は無関心と指摘されてきたハーデンも、その気になればポストディフェンスをこなせる強さと巧さを持つ。

 昨季のハーデンは、ポストでの212回の守備機会で平均0.68得点しか許さず、この数字は(守備機会が50回以上あった選手のなかで)リーグ2位という意外なデータも残っている。それらの要素を考慮すれば、スモールボールはロケッツに”最も適している”という見方もできるかもしれない。

 もともと2月5日のトレード断行前まで、カペラがケガで不在だったゲームでは10勝1敗という成績だった。スモールボールに変更する前のスタイルでは、レイカーズ、ロサンゼルス・クリッパーズなどの上位チームには敵わないと判断したならば、失うものはなく「理にかなった挑戦だった」と考えることもできる。

 しかし多くの専門家が指摘するとおり、スモールボールには明白な欠点が存在する。最大のウィークポイントはリバウンド力不足だ。新ラインナップを採用してから10戦目のニックス戦では、リバウンド争いで34-65と惨敗。それが、低迷中のニックスにオーバータイムで敗れる要因となった。

「ペイント内の強さという僕たちのアドバンテージを生かしたんだ。ロケッツはスモールボールで挑んでくるから、ショットをミスしても、オフェンシブ・リバウンドを取ることによってセカンドチャンスが掴めることはわかっていた」

 ニックスのジュリアス・ランドルは試合後にそう述べたが、平均身長196.4cmのスタメンで臨んだロケッツは、同199.8cmの相手に20のオフェンシブ・リバウンド、21のセカンドチャンス・ポイントを許している。その後、5日のクリッパーズ(スタメン平均身長201cm)戦、8日のマジック(同200.2cm)戦でもリバウンド争いで後れを取り、マジック戦まで4連敗。この4試合を見たファンが、ロケッツの今後を楽観できなくなったとしても無理はない。

 ニックス、クリッパーズ、マジックはサイズに恵まれたチームで、相性が悪かったことは事実だろう。なかでも、213cmセンターのイビツァ・ズバッツを擁するクリッパーズとは、スタメンの平均身長に4.6cmもの差があった。

 また、ウェスタン・カンファレンスを勝ち進むためには、2位のクリッパーズはもちろん、アンソニー・デイビス、ドワイト・ハワード、ジャベール・マギー、レブロン・ジェームズといった錚々たる選手たちが揃う、同1位のレイカーズを倒さなければいけない。

 スモールボールを採用して以降、ロケッツのディフェンシブ・リバウンド率はリーグ最下位。今の陣容とプレースタイルで、デンバー・ナゲッツ(オフェンシブ・リバウンド率リーグ3位)、レイカーズ(同4位)、クリッパーズ(同6位)といったウェスタンの上位陣に対抗できるかは不透明だ。

 ポジションレス化が進むNBAでは、スモールボールは取り立てて目新しいわけではない。それでも、今のロケッツほど極端なスタイルは斬新で、ひとつのモデルケースになるだろう。

 試合の早い段階からプレスをかける積極的なディフェンスと、小柄な選手たちの運動量で、長期的に結果を出せるのか。1on1でNBA屈指の能力を持つ2大ガードの得点力を生かしてどこまで勝ち進めるのか。ファンだけでなく、多くの関係者がロケッツの行方に熱い視線を送り続けることは間違いない。