「(八村塁にとって)今日は今季のベストゲームのひとつだったと思う」 ワシントン・ウィザーズのスコット・ブルックスHC(ヘッドコーチ)が、八村塁の働きをそう絶賛したゲームがある。現地時間2月24日、ワシントンDCで行なわれたミルウォーキー・バ…

「(八村塁にとって)今日は今季のベストゲームのひとつだったと思う」

 ワシントン・ウィザーズのスコット・ブルックスHC(ヘッドコーチ)が、八村塁の働きをそう絶賛したゲームがある。現地時間2月24日、ワシントンDCで行なわれたミルウォーキー・バックス戦だ。




バックスのエース、ヤニス・アデトクンボ(右)とのマッチアップで奮闘した八村(左)

 この日の八村は12得点、4リバウンドと目を引く数字を残したわけではない。ウィザーズもオーバータイムの末にバックスに134-137で敗れている。それでも高評価を勝ち得たのは、八村がバックスの大黒柱ヤニス・アデトクンボを相手にディフェンス面で大健闘したからだ。

 アデトクンボは昨季にMVPを初受賞し、今季もこの日まで平均30.0得点(リーグ2位)、13.6リバウンド(同4位)をマークしていたスーパースター。オールスターのキャプテンも2年連続で務めるなど、通称”グリーク・フリーク(ギリシャの怪物)”は25歳にしてNBAの看板選手として確立した感がある。

 2年連続MVP受賞も有力と目されるそのアデトクンボを相手に、この日の八村は一歩も引かなかった。腰を落とし、機動力を生かし、相手の持ち味である迫力たっぷりのドライブを複数回にわたってストップ。「フィジカルなプレーを頑張ってできた」という本人の言葉どおり、体を張ったディフェンスからは断固たる決意が感じられた。

 結果として、ウィザーズ戦でのアデトクンボは前半だけで6ターンオーバーを犯し、ゲーム全体でも自身の平均を大きく下回る22得点のみ。前半からファウルトラブルに陥り、最終クォーターには6ファウルで退場になった。

「(八村は)ディフェンスですごいインパクトをもたらしてくれた。多くのプレーに絡んでいたのも成長の証だ。若手選手は得点しないと活躍していないように感じるかもしれない。ネット上のハイライトやインスタグラムで結果を見る際、多くの人は得点に意識を置きがちだが、スコアラーとしてだけでなく、塁は今日、ディフェンスでも貢献した」

 試合後、ブルックスHCは八村の頑張りに称賛を惜しまなかった。もちろんアデトクンボをガードしたのは八村だけでなく、独力でファウルアウトに追いやったわけではない。だが、バックス戦での背番号8の守備面の頑張りが、ルーキーとは思えないものだったことは誰も否定できないだろう。この日は、チームメイトのブラッドリー・ビールが自己最多の55得点を挙げて気を吐いたが、八村の奮闘がなければ、そもそも接戦にすらならなかったはずだ。

 ここで断っておくと、プロ生活1年目の八村は、ディフェンス面で高い評価を受けてきたわけではない。中間距離のジャンプシュートや、ゴール周辺のプットバック(オフェンスリバウンドのボールをそのままダンクするシュート)などで得点を稼ぎ、平均13.9得点は及第点。ただ、数字に残りにくいディフェンス面でのミスは少なくなかった。経験不足ゆえポジショニングに難がある上に、スピードへの対応の難しさは攻撃時よりも守備時に目立っているように思えた。

 2月19日、スポーツウェブサイトの『ブリーチャーズ・レポート』は、今季のNBAにおける各ポジションの「ワーストディフェンダー」を選定した。『ESPN』、『バスケットボール・リファレンス』などの分析を基準にしたこの企画で、PF部門には八村の名前も含まれていた。その守備難はオフェンス偏重のウィザーズのシステムに影響されている感もあり、手厳しい評価に思えるが、もちろん八村に改善の余地があるのは事実だろう。

 しかし心強いのは、八村も現時点での自身の課題をしっかりと認識していることだ。今季を通じて「ディフェンスでもオフェンスでもインパクトを与えられるようになりたい」と語っており、オールスターブレイクにも今後の課題として守備力を挙げていた。そして、その直後に迎えたバックス戦で、しかもMVP候補を相手に優れたディフェンスを見せたことには大きな意味があったはずだ。

「(アデトクンボは)やっぱりベストプレーヤーってことで、すごい気合入れて今日はゲームに入りました。力強く、フィジカルなプレーを頑張ってできたんじゃないかなと思います」

 敗戦後の八村は言葉数が少ないことが多いが、バックス戦は”やるべきことはやった”という満足感が感じられた。米メディアの取材には「彼をガードするのは僕の仕事なので、恐れはありませんでした」とも答えるなど、この日の出来には少なからず手応えを感じたのだろう。

 もちろんこの1戦で、八村がディフェンス面で開眼したというわけではなく、その後の数試合では守備の不安定さを垣間見せている。最強プレーヤーとマッチアップしたバックス戦ではディフェンス中心に臨む心構えが感じられたが、普段のゲームでは、集中力を保つのに苦労している印象もある。攻守両面をハイレベルで安定させることが、今季終盤の課題になりそうだ。

 ただ、経験不足のルーキーが、1年目にディフェンスに苦しむのは当たり前のこと。まだ学ぶべきところは山ほどあるにしても、少なくともバックス戦でディフェンス面のポテンシャルも見せたことに、本人、周囲ともに勇気づけられたのではないか。

“エリートディフェンダー”と呼ばれる位置にまでたどり着けるかは微妙だとしても、フィジカルの強さ、身体能力、クイックネスなど、八村は上質な”2ウェイプレイヤー(攻守両面に優れた選手)”になる素養は持っている。それを生かすも殺すも、今後の努力次第。アデトクンボとの対戦で新たな自信を手にした八村なら、ディフェンス面も伸びやかに向上させられるはずだ。