取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎2019年末のウインターカップで福岡第一を優勝に導き、高校バスケを輝かしい勝利とともに終えた河村勇輝。ようやくホッと一息つける時期がやって来たと思いきや、世代No.1プレーヤーに休む暇はなかった。三遠…

取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

2019年末のウインターカップで福岡第一を優勝に導き、高校バスケを輝かしい勝利とともに終えた河村勇輝。ようやくホッと一息つける時期がやって来たと思いきや、世代No.1プレーヤーに休む暇はなかった。三遠ネオフェニックスのオファーを受けて、特別指定選手として加入することが発表されたのだ。大学生の特別指定選手は多数いるが、高校生はまだ少ない。河村勇輝が、そして高校から送り出す井手口孝コーチは、どんな目標と目論見を持ってBリーグへと挑戦するのだろうか。

送り出す井手口孝コーチ「河村なら大丈夫」

──河村選手が三遠ネオフェニックスに特別指定で加わることが発表されました。高校生が特別指定でBリーグに行くのは前例はあっても多くありません。河村選手だからオファーが来た、という認識で良いのでしょうか。

井手口 私が「春まで暇だろうからやったらどうだ」と話を持ち出しました。それが天皇杯予選で千葉ジェッツと対戦する前のことですね。ウインターカップの前からいくつかお話があって、大学生ならともかく高校生では実際にどうだろうか、練習だけじゃなく試合にも出れるのかなと、いろいろ話をさせていただいて。

河村 井手口先生から最初に特別指定選手の話を聞いた時は、まだウインターカップの前だったので気持ち半分といったところでした。それでも天皇杯での経験があり、短い期間でもプロでプレーできるなら自分にとって良い経験になるとは思っていました。やはり千葉との試合は自分の中ですごく大きかったです。通用した部分はありましたが、でも相手が上手く引き出してくれた印象もあります。特別指定であってもBリーグとなれば本当の勝負事なので、今の自分がB1でどこまで通用するか経験できたらいいと思います。

井手口 高校生がBリーグに特別指定で行くのは基本的には無理だと思っています。やっぱり差があります。それに、大人の中に飛び込むのは良いことばかりではありません。アマチュアらしさ、高校生らしさ、若者らしさというものを失わず、毒されることなくやれる選手じゃないと失敗します。これまでも飛び級で選手をフル代表に送り込んだ時は、あまり良くないことが多かったんです。ウチで優れた選手であれば誰でも彼でも行かせるわけにいきませんが、河村であればどこに行っても大丈夫かなと。また、私自身がプロだからという理由だけで信用しない部分があるので、信頼して預けられるチームが良いと話を進めていました。そういう意味では三遠は北郷謙二郎代表、鹿毛誠一郎GM、河内修斗ヘッドコーチとみんな仲間ですから、安心して任せられます。

──そこは選手というより生徒に対する接し方で、まだまだ井手口先生が道筋を作ってあげる感じなんですね。

井手口 選手ですけど、やっぱり生徒です。彼らにとっての私もコーチであり先生ですから。どんどん上を向いてチャレンジをしてほしい気持ちはありますが、やはりどこかで保険をかけてあげたい。ここで人生の失敗をさせるわけにはいかないという気持ちはあります。

「スタートで出ろ、大人たちを走らせろ」

──今回の特別指定はBリーグの社会見学なのか、やるからには結果を出すのか。どういう気持ちですか?

井手口 スタートで出ろ、と私は思っています。難しいこともあるにせよ「大人たちを走らせろ」と言っています(笑)。バスケットの原点は走ることですから、河村がチームを走らせればいい。ただ守りのところで、ガードはディフェンスが求められるので、どれだけボールにプレッシャーを掛けられるか。そこがカギになると思います。

河村 まずは自分の実力をちゃんと出して、上手くチームにアジャストすることだと思っています。ガードとして何をするかより、とにかくまずもらったプレータイムの中でどれだけアピールして、結果を出せるか。最初から簡単に行くとは思っていませんが、主力として出るようになるのが目標です。フィジカルも運動量ももっと上げないといけないし、三遠のバスケットもこれから学ばないといけないんですけど、不安はありません。上手く見極めながら自分の味を出したいです。

──福岡第一OBの選手が今もB1でたくさん活躍しています。井手口先生は彼らのパフォーマンスをどう見ていますか?

井手口 「一人ぐらい日本代表になれよ」とか「オシャレする暇があったらもっと練習したら」とかは、沖縄の選手と宇都宮の選手に先日言いました(笑)。Bリーグの試合を見る時間はなかなか取れませんが、見た時は連絡しています。天皇杯の決勝でも竜ちゃん(渡辺竜之佑、サンロッカーズ渋谷)が出ていたから「良かったね」とLINEして、ちゃんと返事が来ましたよ。

──プロで活躍する先輩たちも、なかなか日本代表には入れません。当然、簡単なことばかりではないですよね。

河村 プロで活躍するための第一歩として特別指定のこれからがあるので、一日一日で一つひとつ積み上げていくことが大事だと思っています。小さな目標をクリアしていき、最終的には大きな目標に向かっていけたらいいなと思っています。

「自分の速いスタイルで勝つことができれば最高」

──今回Bリーグに行くにあたって不安はないんですよね。もちろんB1のレベルに戸惑う部分もあるでしょうが、河村選手として「自分はこれをやる!」という公約みたいなものを挙げてもらえますか?

河村 チームを走らせます。周囲が走らなかったら自分がドリブルでレイアップに行きます。チームのスタイルもあると思いますが、自分がそうやれば走るプレーも出てくるはずです。自分の速いスタイルをヘッドコーチやチームメートの方々に気に入ってもらえて、それで勝つことができれば最高だと思っています。

井手口 ちょっとずれるかもしれませんが、プロの世界をのぞいて見て何をどう感じ取るのか。終着駅はまだまだ先だろうから、良い経験をしてもらいたいです。

──思ったより早く河村選手がここを離れてしまうので、井手口先生としては寂しくなりますね。

井手口 河村に限らず、生徒が卒業していくのは寂しいもので、もう一緒にバスケができないんだという思いがあります。だけど1月1日から現実は動いていて、そんなこと言ってられない。彼らは福岡第一にすごく良いイメージを与えてくれました。次のステージでも同じようにやれる力があると私は思っています。慌ただしいけど、高校生は寝て起きたらもう元気なんだから休まなくても大丈夫。今はチヤホヤされているけど一番小さい選手で、バスケットボールをやるには不利な体格ですから、その精神は忘れないでやってもらいたい。

──最後に、河村選手から福岡第一バスケ部へのメッセージをお願いします。

河村 これから主力になるハーパー(ハーパージャン・ローレンス・ジュニア)やアリ(キエキエトピー・アリ)には期待しているので、しっかり頑張ってほしい。ちょっと上からですけど(笑)。僕は福岡第一のバスケットが高校バスケのあるべき姿だと思っていて、それをこの2年間で結果を出して示すことができたんじゃないかと思います。後輩たちが結果を残すことで実際に高校バスケの基盤になると思うので、それに向かって頑張ってほしいです。

井手口 18歳でこれだけ騒がれたんだから、ここをピークにしないで頑張ってほしい。「かつての甲子園のヒーロー」みたいな番組で取り上げられないように(笑)。あくまでここをスタートラインにして、もっと上を目指してほしいですね。