川崎フロンターレ・知念慶インタビュー@前編 失礼を承知のうえで言わせてもらえば、川崎フロンターレに加入する前の知念慶は、無名のストライカーだった。 2017年に愛知学院大学から川崎フロンターレに加入。その年、J1初優勝を遂げることになる…

川崎フロンターレ・知念慶インタビュー@前編

 失礼を承知のうえで言わせてもらえば、川崎フロンターレに加入する前の知念慶は、無名のストライカーだった。

 2017年に愛知学院大学から川崎フロンターレに加入。その年、J1初優勝を遂げることになるチームで貴重な1得点こそ挙げたが、リーグ戦の出場は4試合に終わった。昨季は開幕スタメンに名を連ねたが、年間で見れば4得点を決めたものの、途中出場も多かった。

 ところが3年目となる今季は、J1第5節の松本山雅FC戦から4試合連続ゴールを記録。その後は体調を崩したこともあって戦列を離れたが、ポジションを争っているのは、J1得点王にも輝いた小林悠であり、ブラジル代表歴もあるレアンドロ・ダミアンである。

 無名だったストライカーは、J1連覇を達成したチームで、いかに揉まれてきたのか。近い将来、川崎のエースへと登り詰めていくであろう彼に、ここまでの葛藤と成長曲線を聞いた。



4試合連続ゴールを決めて注目を集めた川崎フロンターレの知念慶

―― 川崎フロンターレに加入して3年目。過去2シーズンと比べて、自分自身のなかで変化はありますか?

知念慶(以下:知念) だいぶ、慣れてきましたね。試合に対してもそうですけど、プロの生活にも慣れて、自分自身がステップアップするために、いろんなことにチャレンジできるようになりました。そう思えるくらい気持ち的に余裕ができたところが、一番大きく変わったことかもしれないですね。

―― 変化について聞いたのは、プレーはもちろん、知念選手の表情が過去2シーズンと比べて、大きく違うように感じられたからなんです。

知念 そんなに違いますか(笑)。でも、昨年までは正直、いっぱいいっぱいだったんですよね。練習も試合も、毎日ストレスを抱えながらやっていたところがあって。

 でも今は、よくない時も前向きに取り組むことができるようになりました。気持ち的にちょっと余裕が出てきたことで、メンタル的にも強くなれてきたんじゃないかなと。

―― やはり3年目の今季は、自分のなかでもこれまでとは違う手応えがあるんですね。

知念 だからこそ、”慣れ”と言ったんです。実は、フロンターレに加入する前にもスカウトの(向島)建さんから、「慣れは大きいからな」と言われていました。実際、プロ1年目の時はプロのリズムに慣れることができなくて、ずっとしんどかったんです。

 学生の頃と何が変わったのかと聞かれれば、やっぱりフロンターレは選手全員、技術が高い。自分自身は技術を買われて加入した選手ではないので、そこの差を一番感じましたし、苦しみました。差を感じているのは、今もなんですけどね(苦笑)。

―― フロンターレといえば、中村憲剛選手や大島僚太選手を筆頭に、技術の高い選手が多く在籍しています。そのなかで、「自分の特徴は技術ではない」という自覚はあった?

知念 自己分析はできるほうだと思っているので、そこじゃないことはわかっていました。だからこそ、苦しかったんです。

 1年目は外から試合を眺めることが多くて、そういう経験自体も今までにない光景だった。おまけに、ピッチを見ればチームメイトが躍動していて、楽しそうにサッカーをしている。その姿を見れば見るほど、「自分はこのピッチに立つことができるのだろうか」という不安を感じていたんです。

―― 時には自暴自棄になりそうになったことも?

知念 とくに昨シーズンの序盤は、考えすぎてしまったところがありましたね。(小林)悠さんがケガしたことで出場のチャンスをもらったんですけど、なかなか結果を出せず、周りからもいろんなことを言われて……。それでどうしたらいいかわからなくなって、考えすぎてしまったんです。でもその後、スタメンを外されてからは気持ちが楽になって、「また新たにがんばろう」と思えるようになりました。

―― 試合に出たいという気持ちがありながらも、試合に出られなくなったことでリセットできた、というのはちょっと不思議な気もしますね。

知念 それくらい、先発で起用されていた時は鬼木(達)監督からもチームメイトからも要求されることが多くて、どうすればいいのか整理できなくなってしまっていたんです。でも一度、外から試合を見ることで、自分自身がやらなければいけないことが見えてきて。その甲斐があって、夏くらいからは前向きに取り組めるようになりました。

 出場機会は限られていましたけど、今の自分にやれることを継続していったら、ルヴァンカップや天皇杯でゴールという結果を出すことができた。それもあって、できないことを欲張るのではなく、自分のやれること、やるべきことを前向きに取り組むべきだなって思うことができたんです。

―― そのやるべきところというのは、どこだったんですか?

知念 FWなので得点するのが一番大事なことですけど、それ以外の部分でがんばりすぎていたかなと。身体を張ってボールをキープすることや、前線から守備をすることにがんばりすぎて、体力を奪われてしまっていた。

 そもそも僕、体力があるほうじゃないんですよ(苦笑)。結果的にそうしたプレーに体力を使いすぎて、肝心なゴール前で迫力が欠けてしまっていた。シュート力やゴール前での迫力が自分の持ち味なのに……。そうなると、味方とのコンビネーションも合わなかったり、トラップやパスをミスする回数も増えてしまう。

 経験のある選手がミスをするのと、僕がミスするのとでは、やっぱりその意味合いも変わってきますよね。経験が浅く、途中からピッチに入ってきた僕がミスをすれば、チームメイトも「おい!」ってなるじゃないですか。その力の配分やバランスをどうするかは、だいぶ考えましたし、悩みました。

―― チームとしてやらなければならないことは、最低限やる。一方で、サボるという言葉は適切じゃないかもしれないですけど、サボるところではサボって、勝負すべきゴール前に余力を残す。

知念 周りからも、「うまくサボれ」って言われるんですよね。今シーズンも得点できた試合は、それができていた。たしかに、悠さんや(レアンドロ・)ダミアンを見ていても、どこかで「俺の仕事はゴール前だから」というところがある。

 とくにダミアンは、練習や試合でもうまくサボっていますから(笑)。でも、結局のところ、ゴール前で得点を獲るのはダミアン。そういう姿を見て、やっぱりストライカーはゴール前でパワーを使うべきなんだと意識するようになりました。

―― 昨シーズンはすごく悩んでいたと言っていましたが、それは根本的な性格?

知念 めっちゃネガティブだと思います。もともとはプロになっても自信がなかったので、精神的な波もありましたし、気持ち的に沈んでしまう時期もありました。うまくいかなくて下を向きそうになった時には、いつも練習を見てくれている米山篤志コーチや吉田勇樹コーチが声をかけてもくれました。

 でも、結局は自分次第。自分で考えて、今はネガティブになりそうな時も持ちこたえる、持ち直せるように、自分をコントロールできるようになりました。

―― 気持ちを切り替える作業はどうやっているんですか?

知念 少しでも不安が先行してしまう時は、自問自答した結果、「そうじゃないだろ」と思って気持ちを戻すんです。だから、いつも自分と戦っている感じです。

 クルマに乗っている時はひとりなので、考えすぎて勝手に不安になってしまうこともありました。次の試合で決定機を外したらどうしよう……とか。前の試合でシュートを外してしまった時のことを思い出して、不安になったりするんです。

―― そんな時は?

知念 自分が得点した時の動画を見たりして、頭にいいイメージを植えつけるんです。『YouTube』を検索すると、僕のプレー集みたいな映像が出てくるんですよね。それを見て、「大丈夫だわ」って自信を取り戻すんです。そうやって、いつも自分を奮い立たせているんです。

(後編につづく)

【profile】
知念慶(ちねん・けい)
1995年3月17日生まれ、沖縄県島尻郡出身。2017年に愛知学院大から川崎フロンターレに加入。同年10月、ルヴァンカップ準決勝・ベガルタ仙台戦でプロ初ゴールを記録する。プロ2年目の2018年はリーグ戦27試合に出場して4ゴール。ポジション=FW。177cm、73kg。