復活を遂げ、勝利の方程式の一角に入っている入江。(C)産経新聞社「呼ぶ予定はなかった」。急転直下の開幕一軍の舞台裏「今まで生きてきた中で、最高の景色だったと思います」 約2年ぶりにスポットライトを浴びたDeNAの入江大生は、万感の思いを言葉…

 

復活を遂げ、勝利の方程式の一角に入っている入江。(C)産経新聞社

 

「呼ぶ予定はなかった」。急転直下の開幕一軍の舞台裏

「今まで生きてきた中で、最高の景色だったと思います」

 約2年ぶりにスポットライトを浴びたDeNAの入江大生は、万感の思いを言葉にした。

【動画】歓喜の一軍マウンド! ハマの切り札・入江大生の竜封じをチェック

 ここに至る道のりは、長く厳しいものだった。20年のドラフト1位で明治大学から入団した右腕は、プロ2年目にリリーフへ転向。夏場にはセットアッパーへと格上げされるなど頭角を現した。そのオフには「ブルペンの30球と試合での30球は違う」と実戦にこだわり、オーストラリアへ武者修行と希望に満ち溢れていた。

 しかし、「技術面にフォーカスしすぎて、身体の変化に気付けなかった」。23年8月ぐらいから徐々に成績が低迷し、24年5月には右肩にメスを入れる決断に至った。

 ひたすらリハビリに明け暮れる日々に「しんどかったですね……」と素直にあの時を振り返る。それでも入江が辛い状況下で踏ん張れた原動力は、周囲の期待だった。

「地元に帰った時、友達が頑張れよって言ってくれたり、同僚であったり、もうほんとにこう、全ての気にかけてくれたんです。人の温かさをこう感じながらやっていました」

 さらに「チームが苦しい時に何もできない自分の無力さと、歓喜の輪に入れない悔しさを感じたとき、反骨心もなければダメだと思いました」とハートに火が着いた。

 迎えた今季、開幕一軍を掴んだ入江は、開幕戦で5点差ながら9回のマウンドに登板。先頭打者を四球で歩かせたものの、その後は圧巻の三者連続三振でゲームを締めた。カード3戦目にはキャリア初セーブも記録。ここまでは順調に復帰ロードを歩んでいる。

 もっとも、当初は開幕一軍の想定はなかった。小杉陽太投手コーチは「最初は一軍に呼ぶ予定はなかったんです」と告白する。

 急転直下の一軍入り。その裏側は、「キャンプからブルペンに入る頻度、あとはプログレッション(段階的に)のスケジュールを見たときに間隔が詰まってきていた」からだと語る小杉投手コーチは、こう続ける。

「ファームで登板の予定を1軍でできないかなって話を、まずトレーナー陣とハイパフォーマンスグループに相談をしたのが最初。実際にファームで2試合投げてましたけど、すごくいいボールでしたので、じゃあ『ベルーナで見てみよう』って話だったんです。そのプログレッションを1軍の最後のオープン戦でやったってところなんです」

 コンディションは100%ではない中で、多少の制限は付いた。それでも「監督は呼ぶって決めました」と三浦大輔監督が最終決定を下した。いわば、オープン戦終盤で舞い込んだ最終オーディションでの合格劇だった。

寄り添い続けた投手コーチが目を細める成長

 小杉投手コーチはオーストラリアへの武者修行にも帯同し、リハビリ期間中も近い距離で寄り添い続けた存在でもある。当然ながら離脱前よりも変化したフォームにも関与した。

「動作のところもバイオメカニストの人とフィードバックしながらやりましたね。ショートアームにすることのメリット、デメリットのも話しながら、下半身の使い方や前足の膝がちょっとホーム方向に流れてしまう癖があったので、しっかり受けれるように角度をちゃんと保って、床反力をうまく利用して投げれるようにみたいなところもやってました」

 苦心の末に進化を遂げた入江について「絶対やればパフォーマンス上がるからって話をして。今スクワットとかベンチプレスもやってますし、太ももとかすごくなりましたね」と目を細める小杉投手コーチは愛弟子の成長を語る。

「ベンチ外れる日もそうだし、投げた日でも絶対にトレーニングを欠かさないようにやろうって約束してるんですよ。マツダスタジアムでのセーブシチュエーションで失敗したじゃないですか? 本当はメンタル的にやりたくなかったでしょうけど、あいつはあの日もちゃんとウエイトやってますから」

 努力の成果もあり、自他共に認める順調なスタートを切った。それでも本人に満足感はない。「できることとか、やりたいことは少しずつできるようになってきたんですけど、まだやっぱり追い求めるものはまだまだ上のところにあります」と気を引き締める。

 今の課題は、「変化球の精度と再現性がまだちょっと低いので、そこは改善しなくちゃいけない部分だなと思ってます」と言うフォークの落ち幅。小杉投手コーチも「やっぱりフォークの質をあげた方がいい」と認め、「今はやっぱちょっと、バックスピンがちょっとかかっちゃっていて、なんか落ちないツーシームみたいな感じ」と指摘する。

「スピードも速いから146キロくらいまで出ちゃう。彼のストレートのスピードが155くらいなので、その90%で考えたら140いかないぐらいの球速帯で、変化量も縦の変化量をマイナスに持っていけたらいいってところですね。

 あとはストレートがちょっとカットっぽく入るんですよ。それを考えたら『ジャイロフォークの方がフィットするよ』って話をして毎日取り組んでいるんです。数値的にも良くなってきてるし、本人もフォークボールで空振り取れてきているので。ちょっとずつ成功体験を積んでるところですね」

 さらに入江は「初球や2球目はすごい大事になってくるんで。3球種、4球種あった方がバッターも嫌ですしね。自分もバッター経験が長かったので、対戦するピッチャーが入り江だったらどういう待ち方するかなって考えた時に、ツーサイドピッチングだとちょっときついなと思います」と、ストレートとフォークに続く、時に決め球となり得る新球種の取得も視野に入れる。

 暗いトンネルを抜け、成長を続ける剛腕は、怪我を経て「人間的な成長の部分が大きいと思いますね。少し気持ちが大人になったと思いますよ」と精神的な上積みを語る。続けて「改めて1人じゃ何もできない。支えられてここまで野球やってこれているので、もっと感謝しないといけないなと思ってますね。やっぱそれに尽きると思います」と深い謝意とともに、恩返しを誓う。

 リリーバーとしての役割は多々ある。だが、今や抑えの切り札となった入江は「常にマウンドに上がったら、自分が1番だと思って投げてきましたから。それは続けていきたい。ピンチの場面でも、どんな場面であっても、目の前の1試合1試合で自分の実力を発揮していきたいと思います」と任された場面で全力を尽くすと宣言する。

 苦しいリハビリ生活の中で見ていた熱い夢の続きは、今まさに始まったばかりだ。

[取材・文/萩原孝弘]

 

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