2017年のJ1初優勝以降、圧倒的な強さを誇ってきた川崎フロンターレが苦しんでいる。華麗なパス・サッカーでリーグを席巻し、「絶対王者」と呼ばれるも、現在の順位は11位と、中位にとどまっている。「強い川崎」は、どうすれば復活するのか、「パス…
2017年のJ1初優勝以降、圧倒的な強さを誇ってきた川崎フロンターレが苦しんでいる。華麗なパス・サッカーでリーグを席巻し、「絶対王者」と呼ばれるも、現在の順位は11位と、中位にとどまっている。「強い川崎」は、どうすれば復活するのか、「パス・サッカー」をこよなく愛するサッカージャーナリストの後藤健生が、鬼木達監督去りし後の川崎に思いを馳せる。
■鹿島ロッカールームから響いた「叫び声」
11月1日にUvanceとどろきスタジアム(等々力陸上競技場)で行われたJ1リーグ第35節、川崎フロンターレ対鹿島アントラーズの一戦。試合終了直後の鹿島のロッカールームからは、歓喜の叫び声が響いてきた。まるで優勝が決まったかのような騒ぎだった。
かつて、川崎が「絶対王者」と呼ばれていた頃、川崎はとくに鹿島戦には強かった。そして、鹿島はここ等々力で何度も大敗を喫していた。だから、鹿島にとってはリベンジの気持ちが強かったのだろう。
この試合、鹿島は前半10分に早々と先制ゴールを決めた。
右から柴崎岳が上げたボールを頭でとらえたのは、かつて川崎で活躍していた知念慶。鹿島ではランコ・ポポヴィッチ前監督によってボランチにコンバートされ、今ではボール奪取能力も高めてすっかり新しいポジションに馴染んでいた知念だが、等々力に戻ってきたことでストライカーの血が騒いだのだろうか。
その後も、MFの柴崎がうまく散らすパスを追って、鹿島の攻撃陣は川崎のゴールに襲い掛かった。
そして、18分、川崎がタッチライン沿いでつなごうとしたパスを、鹿島の左サイドバック安西幸輝がカットして、そのままドリブルで突破してクロスを入れると、ゴール前の混戦から最後は樋口雄太が決めて2点目。さらに、今度は右サイドバックの三竿健斗が、こぼれてきたボールに反応。狙いすましたシュートを決めて、28分までに鹿島は3点をリードした。
■「狙われた」パスカット、「封じられた」攻め手
たしかに、試合は鹿島が完全にコントロールしていたが、あれほど効率的にゴールが決まったのは鹿島側としても驚きだっただろう。
その後は、川崎がようやくボールを握って反撃に移り、後半の立ち上がりには立て続けに決定機を作ったが、こちらはボールにうまく足を合わせることができず、またクロスバーにも嫌われてどうしても得点できず、時間稼ぎも含めて鹿島が粘り強く守り切り、川崎は後半のアディショナルタイムに山本悠樹が直接FKを決めて1ゴールを返すにとどまった。
鹿島の2ゴール目が典型的だったが、この試合の前半、鹿島は川崎のパスのカットを狙っていた。先制点にしても、GKの鄭成龍(チョン・ソンリョン)からのボールを知念がカットして、すぐに前線に送ってCKを得たところから始まった得点だった。
それが必ずしも決定的ピンチに結びつかなくても、パスをカットされることによって(あるいは、パスカットを狙われることによって)、川崎の攻め手が封じられることになった。
川崎のように、パスをつなごうとする意図が明らかな相手に対して、そのパスをカットすることを狙うのは当然の対応ではある。
だが、全盛時の川崎はそこでパスをカットされたりすることはなかった。だから、結局、川崎と対戦する相手はゴール前に引いてブロックを作って守るしかなかったのだ。
等々力陸上競技場で鹿島が川崎に何度も大敗したのは、引いて守ることをよしとせずに前からパスカットを狙いに行って、そこでプレッシングを外されることが多かったからではなかったのか。
■時代の変化「パス・サッカーには苦難の時代」
では、どうして、今は川崎のパスがカットできるようになったのだろうか?
川崎の鬼木達監督は、うまくいかない試合が多い今シーズンも「自分たちのサッカーを貫く」ことを大事にしており、川崎の看板である「パス・サッカー」にこだわりを見せている。
昨年、J1リーグで優勝したヴィッセル神戸にしても、今シーズン、その神戸と優勝を争っているサンフレッチェ広島にしても、ポゼッション重視よりもハイプレスからのカウンターを狙うスタイルのチームだ。
川崎が全盛期だった頃と打って変わって、現在のJリーグでは、そうした「カウンタープレス」型のチームが上位を占めている。明らかに、時代は変わっているのだ。
現在、ポゼッションにこだわって「パス・サッカー」を追及しているのは川崎と、先日、YBCルヴァンカップで準優勝したアルビレックス新潟が双璧。だが、新潟はルヴァンカップでは決勝戦でカウンター型の名古屋グランパス相手に互角の勝負を挑んで3対3の引き分けに持ち込むことに成功したものの(PK戦で敗れる)、リーグ戦では16位と低迷している。
「パス・サッカー」を追求するチームにとっては、“苦難の時代”のようである。