パリ・パラリンピックの表彰台の真ん中で、メダルをかけられほほ笑んだ。「このメダルはウクライナの人たちにとって大切なものだ」。競泳男子100メートル自由形(運動機能障害S5)で、オレクサンドル・コマロフが今大会のウクライナ勢で初の金メダルに…

 パリ・パラリンピックの表彰台の真ん中で、メダルをかけられほほ笑んだ。「このメダルはウクライナの人たちにとって大切なものだ」。競泳男子100メートル自由形(運動機能障害S5)で、オレクサンドル・コマロフが今大会のウクライナ勢で初の金メダルに輝いた。

 レースは「肉体的にも精神的にも難しかった」と振り返る。

 筋力の低下につながる筋ジストロフィーの影響で、一度消耗すると回復までに時間がかかる。午前の予選と夕の決勝でペース配分が必要だった。

 さらに決勝では、左隣に個人資格で出場したロシア出身の選手がいた。心中は穏やかでなかった。

 だが、そこは4度目のパラリンピックという経験でカバーした。前半は抑えめで入り、2位で折り返すと、後半勝負に出た。予選より3秒49も早い1分7秒77で大会新記録を打ち立てた。

 2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻で、大規模な攻撃を受けたマリウポリ出身。実家は空襲を受け、過去のメダルは全て燃えた。国外に逃れ、ポーランドなどで練習を再開したものの、コーチは不在だった。

 そうした逆境をはねのけての頂点。レース後、報道陣にコメントを求められると、「私たちは勝つ」と言った。それから、スマートフォンで英単語を調べ、こう強調した。

 「Definitely(絶対に)」(藤野隆晃)