早稲田大学競走部駅伝監督花田勝彦インタビュー・後編前編はこちら>>「早稲田大学新駅伝監督・花田勝彦の目に映った問題点」10月15日は箱根駅伝予選会だ。早稲田大は前回の箱根駅伝は13位という結果に終わり、シード権を失った。強い4年生たちがいた…

早稲田大学競走部駅伝監督
花田勝彦インタビュー・後編
前編はこちら>>「早稲田大学新駅伝監督・花田勝彦の目に映った問題点」

10月15日は箱根駅伝予選会だ。早稲田大は前回の箱根駅伝は13位という結果に終わり、シード権を失った。強い4年生たちがいたが、結果が出ず、チームに危機感が溢れた。そこで早大OBで上武大、GMOでの指導経験を持つ花田勝彦が競走部駅伝監督に就任し、チーム改革がスタートした。選手の状態を把握し、故障者をなくして、まずは走れる体にしていく。そのプロセスを踏んでいくなかで、駅伝で戦うために、どのような強化が進んでいるのだろうか。



古豪復活を託された早稲田大学・花田勝彦新駅伝監督

──駅伝を戦ううえで、どこの大学も中間層をいかに厚くしていくかをひとつのテーマにしているところが多いと思います。早稲田大は、部員の数が少ないこともあり、選手層の薄さがよく指摘されていますが、その点について監督はどう考えていますか。

「そこはよく周囲に指摘されるところですが、自分はそうは思っていないですね。上武の時、人数がたくさんいましたけど、戦える選手はそんなに多くいなくて、やっぱり4年かけて走れる選手を作るというところが大きかったんです。でも、早稲田は早ければ1年目から活躍する選手がいます。もちろん青学大や駒澤大のように一学年に優秀な選手が10人前後入ってくるわけではないですが、それだけ入っても全員が箱根を走れるわけではない。走れるのは10人だけで、早稲田大にもその10名はいるんですよ。そういう選手たちに加え、一般入試で入ってくる選手もいて、そこにも能力が高い選手がいるので、私がそういう選手を伸ばしていけるような指導ができれば、選手層が厚いと言われているチームにひけはとらないと思っています」

──選手層を厚くするために、必要な要素はどういうことが挙げられますか。

「自分は早稲田で4年間、走って強くなりましたけど、チーム内での競争が必要ですね。そこで切磋琢磨していくとチームはどんどん強くなっていきます。あとは、自分の時は、3年後にこの位置にいないと次のステップに進めないということを当時、コーチだった瀬古(利彦)さんに言われていたので、そういう意識づけをしていきたいですね。1年目はここまで、2年目はここにいく、そうしてステップを踏んでいかないと箱根駅伝も走れないだろうし、その先にはいけないよっていうのを選手としっかり話をして、自覚してもらったなかで進めていくことが大事だと思っています」

──ただ、早稲田大の場合、トップ選手だけではなく、力の差がある選手もいます。彼らは4年間で出てくればいいという感じですか。

「すべての部員に言えることですが、目標が箱根駅伝に出ることなのか、シード権を獲ることなのか、優勝を狙うのかで取り組みが変わってくると思うんです。やっぱり優勝しようと思ったらつなぎの区間でも5位以内、最低でもひと桁でこなきゃいけない。そこのレベルにいくために私も指導しますけど、本人の覚悟、努力が必要で、そこは他大学以上にやらないといけない。自分が部員に言っているのは、『早稲田は朝練習、午後練習も管理しない。監督が見ていないところできっちりやれるようにならないと本当の意味で自立にならないし、強くはなれないよ』ということです。自分たちが強くなりたい、勝ちたいと思うなかで練習し、その足りない部分を私の指導でうまく補完していくことばできればチームの層は厚くなり、強くなっていくと思います」

 花田監督は6月から指導しているが、すでにチーム内に変化の波を感じている。とりわけ、ポジティブな姿勢を感じているのが上級生だという。

──6月の指導から夏合宿を経て今、選手に変化は見られますか?

「一番変化を感じるのは、3、4年生ですね。夏合宿では、キャプテンの鈴木(創士)が一番早く起きて、集合前にアップしています。鈴木はキャプテンになった時、チームが崩壊状態で、うまくまとめきれていなかったんです。それで悩んでいた時期があったんですが、そういう時期に強引にまとめようとしても疲れるだけですから、まずは自分が元に戻り、背中で引っ張って行けるようになればいいんじゃないかという話をしたんです。そこから無理せず、自分のすべきことをこなし、他の上級生も練習で積極的に動く姿勢が見られてきています」

──練習も変化があり、ロードでは厚底シューズNGも取り入れていると聞いています。

「シューズ効果で相対的に記録が上がったんですが、正直なところ全体のレベルが上がったとはあまり感じていません。走れる選手は増えたけど、実際に期待どおりに走れる選手が今まで増えたかというと、その部分は変わっていないですよね。選手は、厚底がラクに走れるのでそれでやりたいとは思いますけど、厚底シューズを使用することで故障が増えたのも事実です。うちも大腿骨や仙骨の疲労骨折が増えてきました。それで、意図的に厚底を履く頻度を減らしています」

──厚底に慣れしまうと薄底では物足りなさを感じてしまう選手も多いのではないかと思います。

「夏合宿の1次、2次は薄底重視でべーシックなトレーニングをしてきたんですが、やはり最初はカーボン入りじゃないので走れないんですよ。薄底で走れるようになって厚底を履くと、今度はそこでうまく走れない。この方向性で大丈夫なのかって心配する選手も結構いましたが、最近はようやく噛み合ってきています。ベーシックなトレーニングがなくても厚底をうまく使えるとポンと記録が出てしまうんですが、記録以上に走りすぎてしまって故障するリスクが高いので、そこはうまくバランスをとって、ここまでこれているのかなと思います」

 10月15日には箱根駅伝予選会が控えている。東海大、明治大、日体大、神奈川大、大東文化大ら総合優勝経験のあるチームと10枠をかけて戦うことになる。

──予選会に臨むにあたり、上武大時代と今回では違うものがありますか?

「上武大の時は越えないといけないハードルだったんですが、早稲田は越えて当たり前、本来はこの場所にいてはいけないチームです。その先に全日本大学駅伝や箱根駅伝の本戦もあるので、そこを見すえての予選会になるので、力の加減は上武大時代とはかなり違いますね。大事なことは、本戦を見すえた戦いができるかどうかだと思っています。確実に予選会を通るための戦い方だったら本戦は戦えないでしょう」

──予選会はトップ通過を目指すということでしょうか。

「順位は他大学との相対的な力具合もあるので、何とも言えないですけど、個々の選手が力を発揮した戦いができれば本戦は面白くなる。逆に、お互いに力を合わせて、上武の時のように集団走で力をセーブしながら確実にいくような戦いをしているようだったら本戦は結構厳しいかなと思います。本音を言えば本戦を考えて多くの選手をフリーで走らせる戦いをしたいですけど、それで失敗して落選したら何の意味もなくなりますからね。うちはまだ12人全員が自由に走れるだけの力がないので、ある程度は確実に走る選手も作っていこうかなと思っています」

──予選会が終わったあと、箱根の前哨戦とも言われる全日本大学駅伝があります。

「予選会で、まず他大学にどれだけプレッシャーをかけられるような戦い方ができるのか。まずは、そこが大事で、その後の全日本は箱根駅伝を走る強い大学との戦いになります。そこでは、ひょっとしたら早稲田が出てくるのかなって思われるような戦いができれば、本戦に向けて大きな自信になると思うので、しっかりシード権を獲りつつ、優勝争いに絡んでいきたいですね」

──箱根駅伝で早稲田大が目指すのは総合優勝でしょうか。

「選手たちは、全日本も箱根も勝ちたいと言っていますけど、そんなに甘くはない。勝負事なので、勝つことを目指すのは大事ですが、現実的にはまずは確実にシード権を獲ることですね。やっぱり上位を見ると青学大、駒澤大、順天堂大、東洋大、國學院大は選手層が厚いですし、相当、強いですよ。今、こういう大学と互角に戦えるかというとそこまできていないですし、そもそも強豪校は、早稲田をライバルだとも思っていないでしょう。そこでうちが優勝を目指すというよりも現実的な話をすると、ここ1、2年で強い大学に早稲田は怖いなと思われるところまで持っていく。まずは、そこからでしょうね」

 花田監督は、早稲田大での指導に楽しさを感じているという。昨年の成績を見て、この練習はできないだろうと思い、やらせてみるとできなかったりする。だが、「できませんでした」で終わるのではなく、次にできるようにするにはどうやっていけばいいのか。選手がトライ&エラーを繰り返しながら着実に成長しているのを感じられているからだ。

「上武大も最初の2、3年は弱かった。でも、徐々に強くなっていく楽しさが感じられた。早稲田では、すでにそれを感じている」

花田監督の指導した上武大が初めて予選を突破した後、8年連続で箱根を駆けた。花田流の強化育成で選手がまっすぐに伸びていけば、臙脂のユニフォームが箱根駅伝で躍動する日は、意外と早くやってくるかもしれない。