箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、國學院大學・前田康弘監督が今季の戦いを展望 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――。「…

箱根駅伝「ダークホース校の指導論」、國學院大學・前田康弘監督が今季の戦いを展望

 毎年1月2日と3日に行われる正月の風物詩、箱根駅伝の開催が近づいている。今年度の大学駅伝は例年以上に混戦模様。各校はいかにして“戦国時代”を生き抜くのか――。「THE ANSWER」では、強豪校に挑む「ダークホース校」の監督に注目。10月の出雲、11月の全日本と今季の大学駅伝で連続4位、上位を窺う國學院大學の前田康弘監督に、今季の箱根駅伝の展望と本番に向けた準備を聞いた。(取材・文=佐藤 俊)

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 箱根駅伝に向けて國學院大学は今、調整期間に入っている。一昨年は総合3位、昨年は9位、今回は2か年計画の集大成として臨む。藤木宏太(4年)ら4年生が中心で、3年の中西大翔、2年の伊地知賢造、1年の平林清澄らの各学年が万遍なく融合したチームは、土方英和(現Honda)&浦野雄平(現富士通)のダブルエースで臨んだ時よりも期待感が膨らむ。

 前田監督も過去最高にチャレンジできるチームを作れたと自信に満ちている。

――今の國學院大の強さは選手層の厚さもありますが、その強さを維持するために大事にしていることはありますか?

「それは浦野たちの代が築いてくれました。ポイント練習の前日に自ら追い込んで、それでポイントをこなしていましたし、風雨とか悪い状況の中でも距離を踏んで強くなっていった。それを浦野たちは今のキャプテンの木付(琳)らに見せていた。今は木付が後輩たちに見せて、後輩たちは『だから先輩たちは強くなったのか』というのを理解していると思うんです。そういう法則が根付いてきているのが大きいですね」

――法則がないと強くならないということですね。

「そうとも限りませんが、強くなるチームには独自の法則があるように感じています。後輩がその法則を知り、自分もトライしてみようと思うことが大事ですし、それができる環境作りも重要です。今、木付たち4年生が箱根の強豪校相手にビビることなく、堂々と勝負できているのは、その法則を受け継ぎ、やるべきことをやっているからです。そういう意味では、うちは今、箱根の常連校から上位で戦えるチームに変貌を遂げている途中だと思っています」

 今年の箱根駅伝は、選手層の違いはあるものの実力が拮抗し、サバイバルな駅伝と言われている。実際、出雲駅伝は東京国際大が優勝し、全日本大学駅伝は区間ごとにトップチームが入れ替わる苛烈な争いとなり、駒澤大がアンカー勝負で優勝した。

――箱根駅伝の本番まで、調整と区間配置が大変ですね。

「往路を走る選手については、ほぼ固まっているので、あとは復路ですね。復路の調整を(12月)30日にするので、そこを見ないと最終的な結論を出せません。この時期は、実績よりもコンディションを見ます。持ちタイムがあるから箱根を任せるということにはならないと選手に伝えています。もちろん、中西、藤木とか絶対に外せない選手がいるので、それは例外ですけど」

勝つために「どこの区間にアクションを持っていくか」

――当確ぎりぎりの選手が出場の椅子を巡り、削り合うことはありますか?

「それは、気をつけないといけないと思っています。削り合って疲弊して、本番で力を発揮できないというのが一番マイナスなので。だから、うちはこの練習で決めるとかはしないんですよ。今までのトータルと、今のコンディションで決めるというスタンスを最初に打ち出しています。大学によってはトラックの一発勝負で選考を決めるところもあります。確かにそれだと白黒つくし、明確だと思うんですけど、逆に選手は疲弊して大丈夫かなと思うんですよ。それに1秒差で勝った選手よりも負けた選手の方が内容的にも良くて、伸びていきそうだなと思っても、負けたらその選手は使えないですからね」

――どうやって調子の良い選手を見極めるのですか?

「この時期は、直に選手が走っている姿と余裕度を見ます。全体を見ないでマネージャーから上がってきたタイムだけ見ると、必ず失敗します。実際、私が見ていない練習後に、選手に『どうだった?』と聞くと、『余裕ありました』って嘘をつくんです、みんな、箱根に出たいから。でも、練習を見ていると誤魔化せないですからね。そういう意味では私は練習を見て、タイムを超えたものがあるかどうかというのを見極める力が、指導者にはないとダメかなと思います」

 12月29日に区間エントリーが発表された翌日、國學院大では復路の調整をして、いよいよ本番を迎えることになる。優勝候補には駒澤大、青山学院大、早稲田大など強豪校の名前が挙がっているが、陸上選手や関係者の間では“ダークホース”ではなく、優勝を争うチームとして國學院大を推す声も大きくなっている。

――箱根駅伝で國學院大が勝つために大事なことは、どういうことでしょうか?

「我々が勝つためには、まずミスをなくすこと。ゲームチェンジャーがいないので、ミスが出て、大きな遅れが出てしまうと苦しくなる。あと、どこの区間にアクションを持っていくかですね。流れだけ作って惰性で押していくのは、シードを狙う時の戦い方。うちは流れを作った上で山で勝負するとか、何かしらのアクションを起こさないと上には行けないと思っています」

――山は、一つのポイントになりますか?

「もちろん、山は重要です。でも、個人的には1区の攻防が今回の箱根の結果を左右するんじゃないかと思います。おそらくですが、三浦(龍司/順天堂大2年)くんと吉居(大和/中央大2年)くんが来るので、ラストの叩き合いは相当なレベルになると思います。そこで20秒とか30秒差がついてしまうと、2区の走りを大きく変えてしまうことになる。そうなると、うちは厳しくなります。ゲームチェンジャーがいないので」

勝負の1区を乗り切れば「良い流れに乗れる」

――序盤で流れに乗れば往路制覇も見えてきますね。

「1区というツボを押さえられれば、良い流れに乗れると思います。そしてうちは、10人がベストを尽くせる状況になれば面白い戦いができる。ただ、10人全員が絶好調ということもなかなかないですし、不安と期待が区間によってあるので、そこが上手く噛み合うかどうか。そこに運とかが絡んでくるとチャンスが出てくるかなと。それが箱根の面白さであり、難しさでもありますが、楽しみです」

――将来、國學院大をこういうチームにしたいという目標はありますか?

「常に上位で戦えるチームになったら、今度は全日本や箱根を獲りに行くチーム力を身につけたいと思っています。まだ、うちは駒澤大や青学大に比べると線が細いですし、相手にベストメンバーを組まれてしまうと勝つのが難しい。でも、いずれは箱根の優勝予想で常に最初に名前が出てくるようなチームにしたいと思っています」

 駅伝は勝負事なので、もちろん勝った方がいい。ただ、前田監督が重視しているのは、駅伝というレースの中身にあると思われる。走っている選手がどのくらい成長しているのか。個が伸び、個の総和が大きくなればチームは必然的に強くなり、頂点も見えてくる。

 それを前田監督は一番、楽しみにしているのではないだろうか。(佐藤 俊 / Shun Sato)

佐藤 俊
1963年生まれ。青山学院大学経営学部を卒業後、出版社勤務を経て1993年にフリーランスとして独立。W杯や五輪を現地取材するなどサッカーを中心に追いながら、大学駅伝などの陸上競技や卓球、伝統芸能まで幅広く執筆する。『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)、『学ぶ人 宮本恒靖』(文藝春秋)、『越境フットボーラー』(角川書店)、『箱根奪取』(集英社)など著書多数。2019年からは自ら本格的にマラソンを始め、記録更新を追い求めている。