目にも止まらぬ、素早い手さばき。一瞬の隙を見逃さない、真剣な眼差し。緊張感が漂う会場で、観客は固唾を呑む。コンマ1秒を争う、一進一退の激しい攻防。そして勝負が決すると、ヘッドホンを外したプロプレイヤーは、拳を突き上げ、笑顔がはじける。これ…

 目にも止まらぬ、素早い手さばき。一瞬の隙を見逃さない、真剣な眼差し。緊張感が漂う会場で、観客は固唾を呑む。コンマ1秒を争う、一進一退の激しい攻防。そして勝負が決すると、ヘッドホンを外したプロプレイヤーは、拳を突き上げ、笑顔がはじける。これは、eスポーツの世界に広がっている光景だ。年齢、性別に関係なく、誰もが勝負できるeスポーツの人気は、どんどん上がっている。野球に関連したeスポーツでは、プロ野球eスポーツリーグ『eBASEBALLプロリーグ』が、2018年にスタートした。そこで、『eBASEBALL プロリーグ』の統括プロデューサーを務める谷渕弘氏に、eスポーツの魅力、そしてこれからの展望を伺った。


『eBASEBALL プロリーグ』統括プロデューサーの谷渕氏

 2018年にスタートし、今年3シーズン目を迎える『eBASEBALL プロリーグ』。「新しい野球の楽しみ方を提供することにより、既存の野球ファンに加え、さらなる野球ファン層の拡大を目指す」という目的から発足された。だが、「『eBASEBALL プロリーグ』を始めた頃は、右も左もわからない、課題だらけでした(笑)」という谷渕氏。eスポーツ後進国とも言われる日本では、知名度、評判も低かった。そこで、eスポーツが発展している海外の例を参考に、試行錯誤を重ねてきている。2019シーズンは、それまでの3人制から1チーム4人のチームを組んでの戦いに。さらに、もともとeペナントレース、eクライマックスシリーズ、e日本シリーズを行っていたところにセ・パe交流戦を導入し、eペナントレースのイニング数変更(6から5)も行うなど、ルールも変化を続けてきた。

 2020年、新型コロナウイルスの影響で、プロ野球の開幕延期が決まる。日常からスポーツニュースが消えた時、『eBASEBALL プロリーグ』が動いた。「プロ野球ファンの皆様へ少しでもプロ野球をお楽しみいただける機会をお届けしたい、という思いから、プロ野球応援企画にご賛同いただいた協賛・協力企業様やプロ野球12球団とともに3月下旬には『プロ野球“バーチャル”開幕戦2020』を、6月のプロ野球開幕直前には『日本生命 “バーチャル”セ・パ交流戦』を企画・配信しました」と谷渕氏。ファンにとって、野球の楽しさを感じられたとともに、よりプロ野球の開幕が楽しみになるなど、社会に明るい話題を提供する貴重な存在となった。これからの2020シーズンでは、PlayStation®4版に加えて、Nintendo Switch™版でも参加が可能になったプロテストとeドラフト会議を経て、継続契約選手22名に追加される形で新たに26名のプロプレイヤーが誕生すると発表されている。


2019シーズンのSMBC e日本シリーズを制した『読売ジャイアンツ』

 「実際のところ、ここまで試合の勝敗に一喜一憂することができるコンテンツになるとは思っていませんでした」と、想像を超えるeスポーツの熱を感じている谷渕氏。勝利を全力で目指すプロプレイヤーたちの姿を見て、感動の涙を流してきた。2019シーズンのSMBC e日本シリーズも、最後までハラハラドキドキの展開に。延長戦に突入した第2戦では、キャプテン同士が、チームを代表してコントローラーを握り、意地の戦いを魅せた。また9イニングを3人でプレイする方式のため、先々の展開を見据えて、投手交代や代打のカードを切らなくてはならないという、チーム一丸となった頭脳戦でもあり、大胆な選手起用に会場が盛り上がった。さらに、『eBASEBALL プロリーグ』応援監督に就任している真中満氏をはじめ、プロ野球OBが解説をするなど、『eBASEBALL プロリーグ』を盛り上げている。

 ではeスポーツ選手にはどのような力が求められるだろうか。『eBASEBALL プロリーグ』では、『実況パワフルプロ野球』シリーズが使用されているが、カーソルを合わせ、スイングや投球のタイミングでボタンを押すという、比較的シンプルな操作でプレイできる。だからこそ、メンタルの影響が出やすい。「『eBASEBALL プロリーグ』で勝つ人は、負けていてもここ一番で信じられないプレイで逆転したりするので、メンタルが強く、プロのアスリート(競技者)だと感じます」と谷渕氏も、メンタルの強さが、勝利に直結すると見ている。技術力や精神力だけでなく、チームでの戦いが多いことからも、仲間とのコミュニケーション能力も重要だ。またプロプレイヤーとしての立場にふさわしい、社会人としての資質も欠かせない。実際にeドラフト会議で指名を受けたプロプレイヤーたちは、研修会でプロ野球の歴史や矜持、球団を代表するプロプレイヤーとしての立ち居振る舞いなどを学ぶ。どのような人に『eBASEBALL プロリーグ』のプロプレイヤーを目指してほしいかという質問に、谷渕氏は「これから出てくるプロプレイヤーがeスポーツ業界・市場を作っていくと思うので、自らこの道を切り開いていきたいというようなエネルギッシュな人にどんどんと挑戦してもらいたい」と、答えてくれた。


『eBASEBALL プロリーグ』2019シーズンのプロプレイヤーの集合写真

 これからのeスポーツは、「ひとつのビジネスとして成り立つような存在になってほしい、いやならないといけないです。存続のためにも。言い換えれば、エンターテイメントとして、世の中に認められた業界、必要とされる存在になってほしい」と、谷渕氏は決意を持っている。eスポーツに対する、国内の知名度や評価は、まだまだ海外と比べて低いのが現状だ。日本のスポーツ界で、屈指の人気を誇るプロ野球との相互関係を発展させていき、新たな野球、スポーツを楽しむ形の実現を目指す。最近では、『eBASEBALL プロリーグ』をより身近に楽しめるよう、対戦や大会機能に力を入れてきた。新たなエンターテイメントの確立へ、これからを担う学生にも参画してもらえたらと、若い力を歓迎している。めざましい進化を続ける、eスポーツの未来が楽しみだ。

(記事 樋本岳、写真 株式会社コナミデジタルエンタテインメント提供)

★『実況パワフルプロ野球』とは


7月9日に発売されたシリーズ最新作『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』のメインビジュアル

 株式会社コナミデジタルエンタテインメントから発売されている野球ゲームシリーズ。実在のプロ野球選手を操作して対戦ができるほか、自分オリジナルの選手を育成できる『サクセス』や高校野球の監督として全国制覇を目指す『栄冠ナイン』など様々なモードが楽しめる。1994年の第1作発売以来野球ファンからの人気を博し、昨年にはシリーズ25周年を迎えた。7月9日にはシリーズ史上最大級のボリュームの最新作『eBASEBALLパワフルプロ野球2020』を発売。『eBASEBALL プロリーグ2020シーズン』ではこの作品が使用される。

(記事 足立優大、写真 株式会社コナミデジタルエンタテインメント提供)