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 プロ、アマを問わず野球界にかかわるさまざまな人々にスポットを当てる連載。今回は、国際コーチ連盟プロフェッショナルコーチ資格を持つ清水隆一さんに、指導者がコーチングをする際に大切なことを、ご自身の経験を振り返りながら話してもらった。

■近所に住んでいた“世界のホームラン王”が道標に

──野球を始められたきっかけは?

清水 実家が町工場で、昼休みになると従業員がキャッチボールをする姿を見ていて、自分もやりたいと思ったことが野球にふれた始まりだったと思います。

 でも僕が小学生の頃は少年野球チームがなかった。だから友達と集まって木の棒やゴムボールを使ってよく三角ベースをやっていました。本格的に野球を始めたのは、中学生になってからです。

──中学は、王貞治さんと同じ墨田区立本所中学校に通われていたんですよね。

清水 はい。同じ中学の先輩王さんと同じようにプロ野球選手になってジャイアンツでプレーしたいと夢見ていました。また、高校(早稲田実業高)も王さんと同じ道をたどっていますから、私の野球人生の道標にもなったと思います。

 プロという夢は叶いませんでしたが、社会人時代に立てた全日本メンバーという目標は達成できましたから、一生懸命やってきてよかったと思っています。

■選手時代は、支配欲求が異常に強かった

──プレーヤー時代は、どんな選手だったのですか?

清水 中学校のときは、ピッチャーで4番、さらにキャプテンだったので、支配欲求が異常に強くなったのかなと思います。なんでも自分の思い通りにさせたいタイプ。

 中学から社会人まで、どのチームでも主将を経験しましたが、自分が言ったことをわかってもらえないと、“なんでわかんないの!”と、よく癇癪をおこしていましたよ。そんな過去を反省するかのように、今のような仕事をしているのかもしれませんね(笑)。

──主将として、かなり厳しくチームをまとめられていたんですね。

清水 チームをまとめる一番簡単な方法は、がんじがらめにして個を集団として扱うこと。個々が自由なことをしてしまうと収拾がつかなくなりますから。早稲田大学の野球部は本当に厳しい環境でもあったので、僕が主将になったときは、自由な行動はとらせませんでしたね。

 でも、がんじがらめにしたからって僕の言っていることが全員に理解してもらえることはなかった。俺がすべての基本だという考えでしたから、人の気持ちをわかろうとはしませんでした。学生時代は、そこが一番の失敗でしたね。

■個を集団にするのではなく、個をアピールする環境を作る

──清水さんが支配型の主将ではいけないと気付いたのはいつ頃だったのでしょうか?

清水 僕が熊谷組の主将になった1988年ですね。その頃の熊谷組は、都市対抗に出場できない年もあれば、出場しても1回戦負けと結果を出せていなかったんです。

 そんな状況を目の当たりにして、どうしてもチームを変えたいと本当のキャプテンシーを学び始めたんです。そして僕の気持ちが変わるきっかけとなる早稲田大学の心理学の先生と出会ったんです。

 その先生から「個を集団にするのは簡単。一番大切なのは、集団に属していながら、俺はこんなにすごいんだと、個をアピールさせる環境を作ること」と言われたんです。この言葉を聞いて、今までの自分は、ずっと真逆のことをやってきたんだと反省したんです。そこから、ガラリと考え方を変えていきましたね。

──目からうろこといった感じだったんですね。

清水 先生には、熊谷組メンタルトレーニングコーチもやっていただいたんです。だから四六時中一緒にいて、心理学のノウハウとして、怒っちゃいけない、抑えつけちゃいけない、最低限はみ出さないように見守らなきゃいけないとかね。

 個をアピールさせる環境を作る具体例としてわかりやすかったのは、小さな円に人を集めた場合と大きな円に人を集めた場合ですね。小さな円ではチャレンジしたくても円からはみ出してしまうが、円を大きくしこの中で自由に動いてみなという方が、創造性・積極性が発揮され、パフォーマンスが上がるとい言われたこと。

 つまり、キャパシティ広げる(個を尊重する)ということなんです。

■今の野球界に必要なことは原点回帰!

──現役時代にコーチングの大切さ学び、監督やコーチとしても成果を出した清水さんが、コーチングのプロとして必ず伝えていることは何でしょうか?

清水 組織を作ったときは、組織目標が何であるかをしっかり把握することが重要なんです。その組織の中で個人がどういう立ち位置にいるかを俯瞰し、何をすることが組織目標の達成につながるかを考え、個人目標を立てるということも大切です。

 さらにいえば、個人目標はワンランクアップのための具体的な目標にし、スモールステップで常にチャレンジできるような環境を作ることが大事なファクターになります。

──コーチング業のやりがいは何になりますか?

清水 接した人接した人が、野球を楽しくてもっとやりたいと言ってくれること。人間は、自分からやってみたいと思わない限り、本気にならないんです。だから、人からああしろ、こうしろと言われても変わらない。

 だから、僕のコーチングを受けた人から、楽しかった、またやってみたいという言葉を聞くのが一番のやりがいにつながりますよね。

──野球が楽しいと思う人が増えれば、今問題となっている野球人口減少に少しは歯止めがかかるかもしれませんよね。

清水 今の野球界に必要なのは原点回帰だと思います。捕る、打つ、投げるの野球の基本を教えれば、あとは遊びでルールは勝手に決めさせる。道具にお金がかかるという人も多いですが、野球の楽しさを知るのであれば、ゴムボールがあればいいんです。ゴムボールを素手で打って、それを手で捕るだけでも楽しんで遊んでもらえる。
 
 さっきも言ったように、野球が楽しい、やってみたいと思わなければ続かないわけですから。

▼プロフィール
清水隆一(しみず・りゅういち)/1959年生まれ、東京都墨田区出身。
早稲田実業高校在学時に春夏合わせて2度の甲子園出場。
その後早稲田大学に進み、4年時には主将を務める。
大学卒業後は熊谷組へ入社。社会人日本代表にも選出されるなど活躍。
現役引退後は、1992年に熊谷組の監督に就任し、同年の都市対抗野球で準優勝に導く。
2001年には埼玉・花咲徳栄高校の総監督に就任し、夏の甲子園出場に貢献。指導者として従事。
現在は清水隆一コーチングカレッジ株式会社代表取締役社長として、選手への指導だけでなく、コーチングに関する講演などを行っている。
著書には、『ベースボール基本の「き」』、『聴き上手が人を動かす』(いずれもベースボールマガジン社)などがある。