見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。 60年以上の歴史と伝統を持つ駒澤大学体育会卓球部。28人の部員に対し、長﨑隆志監督が日頃から伝えている言葉がある。「姿即心(すがたすなわちこころ)」。自分の心の状態はすべて自分の姿…

見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。

60年以上の歴史と伝統を持つ駒澤大学体育会卓球部。28人の部員に対し、長﨑隆志監督が日頃から伝えている言葉がある。「姿即心(すがたすなわちこころ)」。自分の心の状態はすべて自分の姿となって現れる、という意味だ。それを実践し、選手たちは一球一球に思いを込めて練習に励んでいる。今回は紫の球魂を“支える人”に迫った。

「チーム全体のことを考えながら、個人のプレーに集中する」

※練習中に長﨑監督と話す藤田主務。選手と監督を繋ぐ中立的な立場として、監督からの信頼は厚い

選手兼主務として部に在籍している藤田主務。事務作業をこなすだけでなく、選手のことを考えてチーム全体をまとめる立場にいる。「選手との両立は負担ではない。自分が選手として“足りない”と感じている部分は、他の選手も同じように感じていることが多い。そこをサポートしていけば全体にとってプラスになる」。3年生の時に監督から声をかけられて副務に就任し、今年主務に昇格した。縁の下の力持ちは「主務の業務はミスが許されないものが多い。細かいところまでしっかりやりきるので、自分が適任だと監督に判断していただけたのでは」と、はにかんだ。大会の申し込み等をするため、選手の名前や誕生月をほとんど暗記しているという。丁寧で地道な姿勢が、チームを支えている。

「高校時代に長﨑監督に出会って、駒澤大学で卓球部に入ろうと決めた」

※選手たちが使用した卓球台を掃除する加藤マネージャー。後輩の小川マネージャーは「しっかりしていて何でも相談できる先輩」だという

4年生の加藤マネージャーは、高校時代まで卓球部に所属しており、当時の監督との繋がりで長﨑監督に出会った。「卓球を続けるか迷っていたけれど、自分の経験がマネージャーをやる上で活きるのではないかと思った」。業務内容は練習中のボール拾いをはじめとする環境整備、大学やキャンパスとのやりとり、試合の記録係、お金の管理など多岐にわたる。試合で結果を出すのは選手たちだが、一番近くで見守り支えてきた立場として、最後まで全力を尽くす。「秋季リーグはみんなの力で昇格して、来年後輩たちが1部で輝けるように4年生としてサポートしたい」。

「卓球部に入ったことで、他の学生にはない経験が強みになっている」

※練習中に選手が飛ばした球を拾う笠原マネージャー。後輩の小川マネージャーいわく「天然ですごく優しくて、色々な話を聞いてくれる先輩」だそうだ

中高時代は女子校だったこともあり、大学入学を機に新しいことを始めたいと思っていた笠原マネージャー。けが等もあり、自身がスポーツをするのではなくマネージャーになろうと考えた。様々な部を見学する中で卓球部の雰囲気の良さが強く印象に残り、入部を決めたという。創部から半世紀以上経つが、卓球部にはマネージャーがいなかった“空白期間”がある。そのため、マネージャーの業務内容は自分で何が必要か考えて行動しなければならないものも少なくなかった。「あと1年で引退を迎えるけれど、まだまだ自分は未熟。チームに良い影響を与えられるマネージャーになりたい」。

「選手もスタッフも一丸となって勝利に向かう“団結力”が卓球部の武器」

※モップがけを行う小川マネージャー。卓球部は専用の練習場を持ち、ここで平日約3時間、休日約5時間の練習を行う

2年生の小川マネージャーは、高校までまったく卓球と関わりがなかった。「スポーツ観戦が好きで、大学に入ってからも何らかの形でスポーツを見たいと考えていた」。レベルの高い選手たちを一番近くで見るためには、マネージャーになるのが良いのではないか。体育会の部活やサークルがマネージャーを募集するイベントに参加し、卓球部入部を決めた。1番印象に残っているのは「去年の秋の筑波大学戦。フルゲームまで試合がもつれて、全員が一丸となったことをすごく覚えている」。入部して初めて迎えた秋季リーグで、部のモットーである「団結力」を強く感じた瞬間だった。熱く闘志を燃やす選手たちを、2度目の秋も力強くサポートしていく。

卓球部には独自のルールがある。必ず相手の名前を呼んでから挨拶する、というものだ。駒澤大学には様々な部が存在するが、部員たちによると、こうした挨拶を交わすのは卓球部以外にはないという。下級生にとっては先輩や同期を覚えられるだけでなく、名前を呼ぶことで双方が好印象を持ちコミュニケーションが円滑に進む効果を持つ。卓球のプレーだけではなく、挨拶という小さな行動ひとつにも思いを込める。「姿即心(すがたすなわちこころ)」。礼儀を重んじる長﨑監督の教えは、卓球以外の場でも部員たちの意識に根付いている。

駒澤大学体育会卓球部(こまざわだいがく・たいいくかいたっきゅうぶ)
1951(昭和26)年創部。今季は2部リーグを戦うが、春季リーグで中橋敬人選手が創部史上初の関東学生シングルス準優勝を果たすなど、好調ぶりをアピールしている。長﨑隆志監督の指導のもと、「団結力」を武器に、9月11日より開幕する秋季リーグで悲願の1部昇格を目指す。