見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。 東日本インカレ準決勝で惜しくも敗れ、3位入賞となった中央大学バレーボール部。悔しさを胸に秋季リーグに向けて、さらにその先にある日本一を目指して練習に打ち込んでいる。彼らのユニフォー…

見返りを求めず、無心で誰かに尽くした経験はあるだろうか。

東日本インカレ準決勝で惜しくも敗れ、3位入賞となった中央大学バレーボール部。悔しさを胸に秋季リーグに向けて、さらにその先にある日本一を目指して練習に打ち込んでいる。彼らのユニフォームや練習着に刻まれているのが、大学名の頭文字「C」を象ったシンボルマーク。バレーボール部の栄光を長年見守ってきた、まさに中央大学の象徴だ。今回はCのシンボルマークを“支える人”に迫った。

「選手は自分たちだけのために勝つのではない。スタッフも含めた、チームのために勝利することを目指している」

※今季副将に就任した水野選手。愛知の名門・愛工大名電から進学した

バレーボールは、コミュニケーションが重要なスポーツだ。勝ち続けるためにはコートで戦う6人だけでなく、選手、スタッフを含めたチームが一丸となる必要がある。「スタッフは試合に勝ちたくても自分で点数を取ることはできない。選手のことを第一に考えて行動してくれるので、選手である自分たちが彼らを勝たせようという気持ちでやっている」と語る水野副将。特に思い入れがあるのは、同期である4年・重松アナリストだ。「選手がやりたくて入部してきたけれど、チームのためを思ってアナリストをやってくれている。1年生の頃から一緒にやってきて、勝たせてあげたいという気持ちがある」。場所は違えど共に戦ってきた仲間のためにも、学生生活最後のシーズンにすべてを賭ける。

「仕事が多くて自分の時間が全然取れなくても、選手から感謝を伝えてもらうだけで報われる」

※2階アリーナから練習の様子をビデオカメラで撮影する重松アナリスト(写真右)と市川アナリスト。手元のパソコンにはバレーボール専用分析ソフトが入っている

重松アナリストには忘れられない記憶がある。寮で同部屋の先輩アナリストが、たった一人で夜中まで作業する姿だ。最初は選手として入部したが「選手として限界を感じていた時期に監督からアナリストを打診されて、先輩の背中を思い出した。競技を続けたい気持ちは正直あったけれど、チームのことや先輩の負担を考えて決めた」。とはいえ、選手への未練を断ち切れずアナリストを辞めたいと思ったことも、夜遅くまで考えた自分の戦略が本当に役に立っているのか悩んだ時期もあった。4年間で一番印象に残っている出来事については、「1年生の時のインカレ決勝戦。サブアナリストをやっていて、対戦相手のデータを集めなければならず、中央大学の試合を全然見られなかった。最後の決勝戦(※)の時に応援席に入ることを許してもらって、優勝の瞬間にみんなに“重松のお陰だよ、ありがとう”と言われたことがが自分の宝物。選手から感謝を伝えられると、やってきたことが報われる」。現在は最上級生として、寮の同じ部屋で暮らす1年生・市川アナリストを指導する立場になった。引退まであと半年、持てるすべてを後輩に教え込む。

※中央大学は2016年インカレ決勝戦で東海大学を破り、3年連続15回目の優勝を決めた

「点数すべてがデータによるものではないけれど、どこか1点でも自分が貢献できた得点があれば、自分がアナリストをやっている意義がある」

※高校時代からデータを駆使した“データバレー”を実践し、大学でも経験を積む市川アナリスト

アナリストは選手と監督を繋ぐ、チームにおける中立的なポジション。監督と円滑にコミュニケーションを取りつつ、選手に戦術を伝えなければならない。1年生の市川アナリストは、半年後にはメインアナリストとして名門チームのブレーンとなる。4年生・重松アナリストから学ぶ部分は公私ともに大きい。「アナリストとしてだけではなく、日常生活でも大事だと思うことは取り入れるようにして、選手との関係構築に活かせるようにしたい」。素直さと真面目が彼の長所。業務に対する姿勢に加えて考えや生き様を吸収し、先輩を超えていく。

「選手たちが目標の4冠を達成するためには、自分たちマネージャーの支えが重要になってくる」

※選手にサーブを打つ濱田主務。主務としての業務だけでなく、自らも練習に参加する

3年生ながら合宿や大会の申し込みをはじめ、会計を担当している濱田主務。高校時代はバレーボール部に所属し、国公立大学を目指して勉学に励んでいたが、当時マネージャーがいなかった中央大学バレーボール部から声をかけられた。以来、縁の下の力持ちとして事務作業や練習の手伝いをこなしている。「チームは4冠を目標に掲げているが、選手の力だけで達成するのは難しい。そのためにはマネージャーたちが支えなければいけないし、コミュニケーションを取って環境を作ることが必要。自分に今やれることを精一杯頑張っていきたい」。

「マネージャーになって初めて体育館に入った時のことは一生忘れない。ここに4年間ずっと通えると思うと、すごく嬉しかった」

※憧れの中央大学バレーボール部で奮闘する赤松マネージャー。周囲に経験者が多かったため、以前からバレーボールは馴染み深い競技だった

赤松マネージャーは高校時代にバレーボール部に憧れて、中央大学受験を決めた。競技経験はなかったが「もし入学できたら、絶対にバレーボール部でマネージャーをやりたい」という強い思いがあった。女子マネージャーは各代に1人だけ。電話で決定の連絡を受けた時のことを、今でも鮮明に覚えている。「昼休みに連絡をもらって、嬉しさのあまり身体が震えた。その後に受けた授業で、ペンを持つ手が震えてノートが取れなかったくらい」。あれから3年、一番近くで常に選手たちを見守ってきた。「マネージャーの仕事がチームの勝利に直結することは少ないかもしれないけれど、下級生のフォローや自主練習の手伝いなど、部のために小さいことでも続けていきたい」。

「高校までは自分が選手として点を取る立場だったが、今は同じ1年生選手が得点を奪う姿に刺激を受ける」

※選手たちが練習で使用するボールを拭く松本マネージャー。スパイクされたボールが、作業中に猛スピードで飛んでくることもある

バレーボール部に所属していた松本マネージャーは、中学生の時に同じプレーヤーとして中央大学に憧れを持った。以前から中央大学の試合を見ており、入学が決まると、「今度は支える側に回ってみたい」という思いから迷わず部の門を叩いた。入部2ヶ月で迎えた東日本インカレでは、同じ1年生選手たちの活躍に刺激を受けたという。「高校まで自分は点を決めることしかやっていなかったし、誰かが得点しても何とも思わなかったけれど、マネージャーとして同期が得点を奪う姿を見て、こんなに嬉しくなるんだと思った」。

現在チームは春季リーグと東日本インカレを終え、多摩キャンパスにある第一体育館板張り球技場で秋季リーグに向けた練習に励む。しかし、ここは彼ら専用の練習場ではない。バスケットボール部やハンドボール部と日時を決めて、限られた時間の中で強くなるために努力し続ける。その陰には、選手たちが練習に集中し、試合で実力を最大限発揮できるように、昼夜問わず力を尽くす学生たちがいる。自由に使える時間が取れなかったとしても、バレーボールが好きだから、中央大学バレーボール部を愛しているから頑張れる。数々の有名選手を輩出した大学トップチームは、そんな彼らの情熱によって代々支えられてきた。いよいよ始まる秋のシーズン。ここまでの悔しさをバネに、選手とスタッフが一丸となって“最高到達点”を目指す。

中央大学バレーボール部(ちゅうおうだいがく・ばれーぼーるぶ)
1945(昭和20)年創部。全国から優秀な選手が集まっており、おもな卒業生に石川祐希選手、柳田貴洋選手らがいる。全日本インカレ優勝、天皇杯ベスト4、4冠達成など輝かしい成績を残し、大学バレーボール界を常に牽引してきた。今季は豊田昇平監督のもと、日本一奪還を目指して戦う。