写真提供:共同通信社痛恨。完敗だった。台湾にまさかの敗戦でアジアチャンピオンの2連覇はおろか、決勝にすら進むことができなくなった。 敗因は打てなかったことだ。ゲーム後、永田裕治監督の嘆き節がインタビューをおこなった静まり返った会議室に響いた…

写真提供:共同通信社

痛恨。完敗だった。
台湾にまさかの敗戦でアジアチャンピオンの2連覇はおろか、決勝にすら進むことができなくなった。

 敗因は打てなかったことだ。ゲーム後、永田裕治監督の嘆き節がインタビューをおこなった静まり返った会議室に響いた。
「ヒット2本ですか。チャンスらしいチャンスが野尻のエラーみたないやつですね。(チャンスが)作れなかった、最後まで」
日本の放ったヒットは記録上でも2本だけ。バントヒットと外野手が交錯して落球したものがヒット扱いになった。ノーヒットと言われても押し黙るしかない惨憺たる内容だった。
 1次リーグの韓国戦でも5安打。藤原恭大と小園海斗の2安打づつが目立つところ。打線のテコ入れが急務だったが、バッティングの調子は短期決戦で上げるのは難しい。

 永田監督は韓国戦が終わって「調子のいいもので打線を組み替える」と言っていた。
 翌日の休日練習の1箇所バッティングは1番の藤原から小園、根尾昂、野尻幸輝、中川卓也、蛭間拓哉という左バッターが並ぶ順番で行った。
 そして永田監督はこの大会の台湾チームのビデオを見て、「左が来る」と確信を持ったという。試合前の木の花ドームの練習でも地元の宮崎県の高校生ら、左ピッチャーをわざわざ呼び寄せて、生きたボールを打ち込ませた。
 ただ、様子を見ていると、いつものフリーバッティングの打球とは明らかに違って鈍かった。明らかに降り遅れて左打者は前に飛ばずに、囲まれたネットの左側に当てることが多かった。前日までは練習とはいえ、ライナーの打球がセンター奥のネット後方に突き刺さっていたのだ。

 台湾の左ピッチャー、ワンはやや、スリークォーター。藤原は「タイプは創成館の左ピッチャーに似ていた」と言った。実は大阪桐蔭の唯一の公式戦黒星が昨年の明治神宮大会で創成館に敗れたもの。エースの左腕は4回3分の2を0点に抑えている。そして、この日の打線にも大阪桐蔭の選手4人がスタメンに名を連ねていた。また、練習通りに1番から6番の蛭間まで左バッターが続く打線。「左が続きますが、それでも打ってくれるだろうと。振れてるものから並べた」と永田監督は期待を持っていたという。

 ワンは前半は140キロ前後のストレートを内外角に投げ分け、後半はスライダーの割合を増やしていた。
「序盤は強い打球を打とうというより、普通のただの内野ゴロに打ち取られましたね」(永田監督)
 例えば初回は内野ゴロが3つ。140キロ台のストレートに詰まらされている。2回も同じ。野尻はレフトへのファールフライだったが、蛭間以降は全て内野ゴロだった。九回まで30人の打者のうち内野ゴロが14もあった(最終的に三振2、フラウアウト11)。
 三者凡退が7イニングあり、さらにこの日は追い込まれる前に打ちにいったのか、早打ちが多かった。1番から3番の打順での三者凡退が三回もあっては得点は望めない。前日まで、「粘って球数をたくさん放らせる。日本の野球をする」とことあるごとに言っていたことが何もできなかった。
「バッティングになっていなかった。全く機能してない。練習ではいいんですが、難しいですね」
 と永田監督が言うように、ベンチではお手上げ状態だったようだ。結局、ワンに102球で完投を喫することになる。

藤原は甲子園の3回戦、高岡商以来のノーヒット。でも淡々としていた。
「特別にすごいボールではなかったんですがコントロールが良くて、狙っていたのと違うボールが来た。かわされた感じで投球術がうまいなという印象でした。相手が上だった。ストレート狙いで、変化球のキレはなかったんでいけるかなと。芯に当たったのはなかったですね。2ストライクに追い込まれてからはスイングも小さくなる。当てに行った打球が多かった」
 永田監督も同じことを言う。
「本当に、芯に当たらないというか。強い打球は根尾のセカンドゴロと小泉ぐらい(3打席とも右方向へ)。どうしようもないですね。本人たちはいけるっていうんですがね」
 主将の中川が木製バットの難しさを気丈に言う。
「金属は先っぽでも飛んでいくイメージがあるんですが、木製は失速してしまうんで。芯に当てようとボールを迎えに、当てにいってしまう傾向があるかなと。自分たちの実力がなかった」

日本の得点は四回。2番の小園がバントヒットを決めて出塁。根尾はいい当たりのセカンドゴロ。小園がセカンドで封殺されて根尾が残る。4番野尻が右中間に打ち上げるが、ライトとセンターが交錯して落とす幸運なツーベース。1死二、三塁から5番の中川がレフトに犠飛を打ち上げて、いったんは同点に追いついたのだが。

 日本の失点はまず、二回。先頭の四番バッターの鋭いショートゴロを小園が弾く(記録はヒット)。バントで送られて六番のリー。5球目のファーストへのファールフライを野尻がよもや落球するエラー。直後の6球目をレフト前に運ばれて先制を許す。
そして四回の裏から吉田輝星がマウンドに上がった。
「先発の柿木(蓮)が試合前のブルペンから調子が悪いとキャッチャーの小泉(航平)が言っていて、早めに代えようと。あとはスクランブルで誰でもいける体制。吉田が我慢して抑えている間にこちらが勝ち越す予定だった」と永田監督が説明する。
ところが今日の吉田は「ボールに力が伝わっていなくて、甘い球ばかりだった」と唇をかんだ。
先頭を初球、レフトファールフライに打ち取る。5番に初球のストレートをセンター前に。6番にはバントを決められた。7番に8球粘られて四球、そして8番にフォークをレフト前に持っていかれてセカンドランナーが返った。9番には2-2からセーフティーバント。中川の送球が高く、ファーストがセーフになって、三進していたランナーがホームインした。
「同点から自分が2点取られてしまったんで。流れを自分で引き寄せられなかった。自分が潰した試合で申し訳ない」
 もちろん、吉田に笑顔はなかった。

「選手は一生懸命にやってます。負けたのは首脳陣の責任。最後の2試合は全力でいきます」
 永田監督が虚ろな表情で振り絞って言った。
やるせない、とはこういうことを言うのだろう。

(文・清水岳志)