秋の中国大会、1試合で4本のホームランを放って一躍、注目のバッターに名乗りを挙げた瀬戸内高校の門叶(とがの)直己外野手が甲子園に初見参した。
9回表に逆転を許し4対3。1点を追う最終回、1番から始まって内野安打と失策で2死走者3塁。4番の門叶に打順が最後に回って来た。
「ストライクだったら初球から行こうと思ってました」
明秀日立のエース、細川拓哉投手が最後に放った142球目は明らかに高い外角のストレート。門叶は言葉通りに振り抜いたが、球威に押されライトのグラブにボールは収まった。門叶はファーストを回ったところで、ヘルメットを両手で取って天を仰いだ。

 ゲーム後、捕手の芳賀大成が言う。
「実は監督からは敬遠の指示が出ていました。支持を守らなかったと言って欲しくないんですが、細川と話してボール球で外角を突いて、カウントが悪くなったら歩かそう、と。ボール球に手を出してくれて助かった」
 つまり、門叶がボール球を振らずにいたら、四球で歩いてチャンスが広がった可能性があった訳だ。
瀬戸内の長谷川義法監督が言う。
「彼が冷静になっていたら。力んで初球に手を出してしまった」
 キーポイントは1打席目にあったともいう。「(2死2塁のチャンスから)ストレートの四球で歩かされるような形で。打ちたかっただろうけど、打たせてもらえなかったので、全ての打席でもうちょっと、ボールを見極められれば」
 門叶の本来のバッティングをさせてもらえなかったというのだ。
ここは明秀日立のバッテリーが最終回を見越していたかどうかわからないが、勝負の勝負のアヤは初回にあったとも言える。
 門叶はゲーム前、「平常心で打ちたいと思います。ホームランを特に狙っているわけではなくて、自分は後につなぐバッティングを心がけています」と話していて、帽子の裏にも『平常心』と書きこんでいた。
そして、「好物? 甘い物です。スィーツ全般ですが特に抹茶系。もみじ饅頭(広島の特産品)の抹茶味が好きです。冬に体重を5キロ増やしたんです。でも、体のキレがなくて、結局、5キロ落としました。甘い物を控えました(笑)」と 取材陣の笑いを誘っていたのだが。
このまま、リラックスできていたら・・・。

「最後の打席、ストレートを狙っていたけど打たされました。平常心がなかった、冷静ではなかった。(相手とは)意識の差があったのかな。チームに申し訳ないです」とゲーム後、言葉を搾り出した。腕を後ろに汲んで伏し目がちに、責任を背追い込んだように悔やみ続けてこうも言った。
「ピッチャーの浴本(えきもと)が頑張っていたので援護射撃をしようと思っていたが出来なかった。声も出なくなったりしてしまった。いいピッチャーはやはり、簡単に打ち崩せない。自分たちの実力がわかりました」
7回には1死1塁、カウント3ー2から外角のストレートを見逃して三振を喫している。細川は「ストレートで三振を取れた事が大きかった」と言っている。「気後れした」と門叶は言うが、意識の差はこの打席にも表れていたかもしれない。
だが、いいプレーも見せた。3回は無死1塁から高めに浮いたスライダーをセンター前に鋭い打球でヒット。スラッガーらしい打球だった。相手の細川は「スライダーも打てる器用なバッターだなと思った」と言う。

 そして、その走者を3塁まで進塁させて2死1、3塁からダブルスチールのサインが出て、1点を勝ち越したシーン。門叶が1、2塁間に挟まれて時間を稼ぎ、相手ショートの悪送球を誘っている。また、守備でもライト頭上を襲うライナーを候補したり、強肩も披露した。
 ホームランという豪快な打撃は見せられなかったが「甲子園という舞台で自信にもなりましたし、いい経験が出来ました。今日を忘れず、また戻って来て、瀬戸内らしさを見せたい」と言った。
長谷川監督は「向こうの打球はうちと比べて鋭かった。でも、粘って自分たちの守れる野球はきちんと出来たと思います」と前向きだった。
第90回のセンバツ。強打者の一人がまず、初日第3試合で大舞台を去った。

文=清水岳志