8大会連続となるワールドカップ出場を決めたサッカー日本代表。バーレーン代表をホームに迎えた一戦では、苦戦はしたものの、チームの成長が見て取れた。サッカージャーナリストの大住良之がこの試合で感じた、世界の大舞台における日本代表の「さらなる飛…
8大会連続となるワールドカップ出場を決めたサッカー日本代表。バーレーン代表をホームに迎えた一戦では、苦戦はしたものの、チームの成長が見て取れた。サッカージャーナリストの大住良之がこの試合で感じた、世界の大舞台における日本代表の「さらなる飛躍」の手応え!
■スピードを「生かせなかった」三笘薫
だが、この1点でもバーレーンの闘志は衰えなかった。日本とアウェーで引き分けなら、ワールドカップ出場権獲得に重要な勝ち点1が手に入る。「1失点」は織り込み済みでこの試合に臨んでいたのだろう。クロアチア人のドラガン・タライッチ監督の賢明な指示が、バーレーンのメンタルを保たせた。
そのバーレーンの闘志を打ち砕いたのが、後半42分の久保建英の2点目だった。この日8本目のCKは左から。ボールをセットした久保は、ペナルティーエリア左角あたりにいたMF伊東純也(後半18分に堂安律に代わって出場)に渡すと、オフサイドにならないように戻りながらリターンを受ける。
そしてドリブルでゴールに向かって進み、ゴールエリアのすぐ外、ゴールラインまで1メートルほどのところまで入って左足を一振、「クロス」を予想したGKの逆を突き、GKとニアポストの間を抜いた。この角度から左足でシュートを決めるのは非常に難しい。しかし、ボールは左ポストをなめるようにぎりぎりに飛び、右のサイドネット内側に突き刺さった。見事な個人技のゴールだった。
この試合の前半から、相手のマークをかわし、単独で前進できていたのは、久保ひとりだった。三笘薫は何回かドリブルを試みたが、相手にあまりに警戒されており、スピードを生かすことができなかった。
■森保監督が「期待した」個の力の打開
「両チームのコンディションの違いを考えれば、いつものコンビネーション攻撃で崩すのは簡単ではないと考えていた。そうしたときに、個の力で状況が変えられるかもしれない。久保が個の力で打開してくれるのではないかと思った。このプレッシャーのなかでよく結果を出してくれた」
試合後の記者会見で、森保一監督はそんな話をした。「それぞれの個の力を最大限に生かしてチーム力につなげる」というのは、「森保ジャパン」の根幹をなすコンセプトだが、コンビネーション攻撃が難しいときには個の力ででも勝ち切るというのも、森保監督が描く「勝利のストーリー」のひとつなのだ。
ただ、その前提として、森保監督はこんな話もした。
「個々がばらばらになったら、どこかで大きな穴が開き、失点につながってしまう。攻撃が機能しないときにも、チーム一丸で組織的に戦えたことで無失点になったことが大きい」
■チームが伸びていくうえでの「前進」
「国破れて山河あり」という故事がある。中国・唐代の詩人・杜甫(712~770年)が安禄山の乱で破壊された都・長安をうたった詩「春望」の冒頭に出てくる言葉である。「城春にして草木深し」と続く。この日の日本代表なら、「コンビネーション破れて個人技あり」といったところだろうか。
バーレーン戦の日本代表は、彼我のコンディション差により、これまでの6試合で相手を圧倒してきたコンビネーション攻撃を繰り出すことはできなかった。だが、それを監督も選手も受け入れ、集中を切らさずに戦った。そして、その中で個人で相手の守備を打開し、2つの得点まで生んだ久保という選手を擁していたことが貴重な勝利を生んだのだ。もちろん鎌田大地の「超絶シュートテクニック」も苦しむチームを救った。チームが伸びていくうえで、そうした勝利も大きな「前進」と言えるのではないか。
苦しい試合で、ファンが期待した圧倒的なコンビネーション攻撃は出なかった。しかし、これもまた、森保監督にとって「会心の試合」だったことを納得した。