6月6~9日、パラリンピック前哨戦となる車いすラグビーの国際大会「Wheelchair Rugby CANADA CUP 2024」(以下、カナダカップ)が開催された。世界トップ6の強豪国が接戦を繰り広げるなか、日本は予選ラウンドを5戦5勝…
6月6~9日、パラリンピック前哨戦となる車いすラグビーの国際大会「Wheelchair Rugby CANADA CUP 2024」(以下、カナダカップ)が開催された。世界トップ6の強豪国が接戦を繰り広げるなか、日本は予選ラウンドを5戦5勝で終え、決勝ではライバル・オーストラリアを破って全勝優勝を果たし大会2連覇に輝いた。
「一貫性」をテーマに臨んだパラリンピック前最後の国際大会
バンクーバー近郊、リッチモンド・オリンピック・オーバルを会場に2年に一度開催されている「カナダカップ」。パラリンピック・イヤーに行われた今回の大会には、アメリカ(世界ランキング※ 1位)、オーストラリア(同2位)、日本(3位)、イギリス(4位)、カナダ(5位)、フランス(6位)の世界ランキング上位6か国が集結した。(※大会開催時)。パリ・パラリンピックに出場する8か国のうち6か国が参加するとあって、2か月後に開幕を控えたパリ2024大会の前哨戦として注目を浴びた。
車いすラグビー日本代表は「一貫性」をテーマに、パラリンピック前最後の実戦に臨んだ。全チーム総当たりで行われた予選ラウンド。イギリスとの初戦で日本は上々の立ち上がりを見せ、終始リードする展開で47-44と白星スタートを切った。
一進一退の激しい攻防となったアメリカ戦では、相手が得意とする攻撃パターンを封じ込め50-43で勝利。続くオーストラリア戦では、“世界一のプレーヤー”と称されるライリー・バット(クラス3.5)をクラス1.5のローポインター・乗松聖矢が持ち前のディフェンスでガッチリと抑え込み、55-47と開幕3連勝を飾った。
日本が今大会で掲げる「一貫性」とは、「どのラインナップが出ても、チームが決めたゲームプランを徹底的に遂行すること」だと、キャプテンの池 透暢は説明する。そのうえで「一つひとつのポジションや連係などプレーの細かい部分にまでこだわり、それを全員が試合の最初から最後までやり続けることが大事」だと、倉橋香衣は力を込めた。
予選最終日に行われたカナダ戦では、前半を同点で折り返し、「一貫性」が強さを発揮するのは後半と言わんばかりに試合終盤で5点差までリードを広げる。しかしその後、1点差にまで相手に詰め寄られるも、最後はしっかりと立て直し44-42で勝利を収めた。そして、最近の対戦ではどの国よりも熱いバトルとなるフランスとの一戦では、第2ピリオドで3つのターンオーバーを奪うなど日本が主導権を握る。後半、フランスはじりじりと追い上げを図るが、最後まで各ラインナップがしっかりと役目を果たした日本が、47-45で勝ち切った。予選ラウンドを5勝0敗の1位で終えた日本は、決勝へと進出した。
ライバル・オーストラリアを倒し大会2連覇を果たす
「どうやって自分たちの力を出して、結果につなげるのか。一人ひとりが気付き、チームで気付き、次につなげてさらに強くならないと、同じことをやっていてはパラリンピックで負けてしまう。自分たちはまだまだやれるし、まだまだ力をつけられるし、伸びしろもたくさんある。じゃあ、さらに成長するためには何が必要か。(今大会の)決勝で勝つ、負けるよりも、大会を通して何を学び、どう成長してパリで勝つのか。それしか見ていない」。池崎大輔は決勝前日、このように胸の内を語った。
オーストラリア(予選2位・3勝2敗)との決勝戦。会場には100人以上の日本応援団が駆けつけ、まるでホームのような雰囲気となった。試合はティップオフ直後から激しいボールの奪い合い。アジア・オセアニア地域のライバルとして対戦回数の多い両者は、お互いの手の内を知り尽くしている。日本は序盤から早いペースで交代を重ねながら、相手に流れを渡さない。ローポインターが好ディフェンスを見せれば、それに呼応してミッドポインターがつなぎ、ハイポインターがトライを奪う。
25-23の2点リードで迎えた後半。日本はいきなり5連続得点をあげ、一気にオーストラリアを突き放す。どのラインナップが出ても、最初から最後まで、チーム一丸となって「一貫性」を体現した。そうして、54-46で試合終了。日本は全勝という結果で、前回(2022年大会)の初優勝に続き、カナダカップ2連覇を果たした。
今大会で見えたコミュニケーションの高まり
大会を終え、キャプテンの池透暢はチームの成長を感じていた。「もっと強くなりたいという思いと、自分たちにまだある課題を見つけ出そうという目的を持って今大会に臨んだ。その中で、課題よりも自分たちがこれまで取り組んできたことを遂行すれば、しっかり通用するということも見えた。そして、橋本勝也、草場龍治、小川仁士といった若手の選手たちの活躍とハードワークが、チームを下支えしたどころか、チームを牽引してくれるようなパワーをくれた。そういう意味ではベテラン勢、そして自分自身も彼らに助けられたと感じた大会だった」
日本は予選ラウンドから決勝までの6試合すべてで、12名のメンバー全員が出場した。ベテランと若手、そして各ラインナップがつなぎ、チーム力で勝利を重ねた。より強固なチームプレーを可能にしたのは、メンバー同士のコミュニケーションの向上にあった。コート内の4人が、タイムアウト等でプレーが止まるたびに集まり動きを確認し合った。声を発してパスを絶妙のタイミングで受け取り、お互いがポジションなどの指示を送りながら、ときには「ナイス!」「いいよ!」とポジティブな言葉をかけた。
それはコート内だけのことではなく、ベンチで試合展開を見つめるメンバーも同じだった。「コートに出ているときに限らず、常にチームのために何ができるかを考えている。ベンチにいても声でみんなをサポートしたい」。ベテランの若山英史とともに、ベンチから一番大きな声でチームを鼓舞し続けた中町俊耶の言葉だ。
ベンチからの声に耳を傾けると、これまで以上に戦術に関わるワードがコートに向けられていた。インバウンド(スローイン)の場面、タイム・コントロール時におけるトライの判断…ベンチ全員がコーチであるかのような声掛けで、コート内のメンバーに迷いないプレーを選択させた。ゲームプランを遂行する「一貫性」のもと、チームとして戦う姿、そしてチームワークの高まりが映し出された大会となった。
パリ・パラリンピックの前哨戦を全勝で終えた車いすラグビー日本代表。自分たちのラグビーに手応えを感じつつも、ここで満足している者はいない。日本を倒そうと、パラリンピックで頂点に立とうと躍起になるライバルたちを、さらに超えてやる。
優勝の余韻に浸ることなく、「歯を食いしばって、変わらぬ努力をしていこう」と肩を組み誓い合った。