「TBS eスポーツ研究所」に所属する宇内梨沙アナ「eスポーツ元年」と謳われた2018年以降、もはやアナウンサーとeスポーツは切っても切れない関係になりつつある。数々のeスポーツ大会において、試合の実況中継にテレビ局出身のアナウンサーが密接…



「TBS eスポーツ研究所」に所属する宇内梨沙アナ

「eスポーツ元年」と謳われた2018年以降、もはやアナウンサーとeスポーツは切っても切れない関係になりつつある。数々のeスポーツ大会において、試合の実況中継にテレビ局出身のアナウンサーが密接に関わっているからだ。

 2018年にテレビ朝日を退職して「eスポーツキャスター」として独立した平岩康佑さんや、昨年「オタクを極めたい」とテレビ東京を退職しeスポーツキャスター兼YouTuberとして活躍する田口尚平さんなど、アナウンサーがeスポーツ業界の前線に立ってキャリアを積む例も珍しくない。むしろスポーツ実況で培った技術をeスポーツ大会の配信に還元し、業界全体を前へ前へと引っ張っていく存在だ。

 そうした情勢を鑑みてか、いくつかのテレビ局はeスポーツ番組を立ち上げているほか、eスポーツに特化した部署も設置している。TBSでは新たなライブエンタテインメント事業の開拓を目的に2018年7月から「eスポーツ研究所」を設置。TBSアナウンサーの宇内梨沙さんはその部署を兼務している。

 ゲーム配信を行なうYouTubeチャンネルを立ち上げ、eスポーツ大会に出演するなど、「自分の好きなこと」を生かしながらeスポーツでも活躍している宇内さんに、TBSとeスポーツの関わりや、自身の活動におけるポリシーなどを伺った。

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――現在はeスポーツタイトルの多くがオンラインプレーに対応しています。インターネットでコミュニケーションを行なう魅力とは何でしょうか。

 遠く離れた友達と遊べる点ですね。私は全国にオンライン上のフレンドができつつあるんですけど、オンラインプレーをしていなかったらきっと知り合えていなかった。最近会えていなかった大学時代の知人と『Apex Legends(エーペックスレジェンズ)』(※)を通して仲が深まったり、対面だとそこまで交流のなかった人でも、ゲームが間に入ると急に仲良くなれたりします。特に協力が必要なゲームはその人の性格がプレーに現れますね(笑)。

※PC、PlayStation4/5、Nintendo Switchなどさまざまなプラットフォームでプレーできるバトルロイヤルゲーム。全60人のプレーヤーが3人1組のチームを組み、最後の1チームになるまで戦い抜くモードが人気。国内人気が特に高く、日本のプレー人口は世界2位を誇る。

 緊急事態宣言で外出できない期間も、私は一切ストレスを感じませんでした。おそらくオンラインで友達とコミュニケーションを取れていたから、外出できずに1人でいる孤独感を解消できていたんですよね。

――コミュニケーションを取るツールとしてはLINEやTwitterなどもありますが、ゲームの存在感は大きかったのでしょうか。

 そうですね。ゲーム自体が面白いですし、なおかつ面白いコンテンツを誰かと一緒にプレーすることは、ただ電話しているよりも楽しい。社会人になってからも仲間とフットサルをするように、みんなで楽しく盛り上がれるのがオンラインゲームの良さだと思います。

――宇内さんは「TBS eスポーツ研究所」に所属していますが、実際にeスポーツに触れてみて驚いた出来事はありますか。

 世代によってはゲームに対してネガティブな印象を持つ方もいるかもしれませんが、私はむしろゲームを頑張っていること自体かっこいいと思えるタイプだったので、特に違和感やズレはなかったです。「ゲームで日本一を決めてどうなるの?」と思う方でも、実際にeスポーツ大会の熱狂を肌で感じれば「これはスポーツだ」と実感するのではないでしょうか。

 プレーヤーの熱量、勝者の喜び方、競技中の表情、わき上がる歓声などはリアルスポーツと変わりませんし、エンタメとしてもきちんと成立している。それにどの大会も、見ている側がワクワクするような演出に力を入れています。場合によっては何千人・何万人と観客を入れる大会もあるので、今後はもっと広がっていくと思います。

――ちなみに宇内さんは「NPB eスポーツシリーズ スプラトゥーン2」(※)で司会進行を担当されていましたが、難しいと感じた点はありますか。

※Nintendo Switch向けシューティングゲーム『スプラトゥーン2』のNPB主催大会。TBS eスポーツ研究所がメディアパートナー及び運営パートナーを務めた。

 どんなものであれ、ファンの方々は「コンテンツに関わっている人が本当に好きでやっているか」を重要視していて、「この人はにわかだ」と悟られると引かれてしまうんです。一口にゲーム好きと言っても、好きの度合いは広いですから、その点の配慮は必要だと感じました。私は試合会場に駆けつけている人たちほど『スプラトゥーン2』の実力があるわけでもないので、司会進行を務めるにあたって、大会直前はやはりプレッシャーがありました。

――ご自身のYouTubeチャンネルで、ここだけは推していきたいというポイントはありますか。

 学生時代から配信者さんに憧れていて、「わたしも将来ゲーム実況(※)をやってみたい!」と心に決めていたんです。自分の好きなことで誰かに喜んでもらえたら、自分もきっと幸せだろうなって。今はアナウンサーという立場でゲーム実況をさせてもらっていますが、見ている方々に楽しんでもらうことを強く意識しています。

※「ゲーム実況」は「話しながらプレーしている様子を録画・録音した動画」を指す。「スポーツ実況」とはニュアンスが異なる。



――アナウンサーとしてというより、等身大で臨んでいらっしゃいますよね。

 アナウンサーは真面目で実直、といったイメージもあるかと思いますけど、プライベートな空間なら、ニュース報道では使わない砕けた表現の言葉が出ることだってあります。同じ人間ですから「アナウンサーは誰も舌打ちしない」なんて、絶対にありえません(笑)。だから、ゲーム実況では「素の私らしさ」を出せたらと思っています。あえて飾らない自分でいて、皆さんに共感してもらえる部分が少しでもあればいいな、と思います。現状はeスポーツに限らず、ゲーム自体を楽しむというスタンスでやっていますが、今後は競技シーンの取材もしてみたいです。

――eスポーツ市場の拡大が期待されていますが、テレビ局ではeスポーツ大会の放映などに向けて人材育成を行なっているのでしょうか。また、宇内さんのゲーム実況の経験はeスポーツキャスターへ生かせるでしょうか。

 大前提としてゲーム内容を理解しておく必要があると思います。eスポーツキャスターを育成するノウハウはまだ固まっておらず、各々が試行錯誤している状態なのではないかと思います。特に試合展開の早いゲームを実況したいなら、まずそのゲームをしっかりプレーすることが必須です。もちろん、この先eスポーツ番組がTBSで始まることがあれば、私自身、イベントの司会進行やチーム紹介、プロゲーマーへのインタビューなどを担当できたら、と思います。

――最後に、宇内さんから見たeスポーツの魅力をお聞かせください。

 ゲームは誰かとの対戦や協力プレーを通して自然とコミュニケーションが発生します。オフラインでも一緒にゲームをプレーして通じ合えることがありますし、オンラインの場合も他では出会えなかった人たちとつながることができる。その感動をみなさんに体験して欲しいです。そして、もっと熱中して腕を磨きたい人にはeスポーツという舞台もあります。

 そう考えると、今以上にeスポーツの露出は増えていくのではないでしょうか。今も年数回は情報番組などで特集されることがありますが、これからさらにeスポーツが日常に溶け込んで当たり前になってくると思います。テレビ業界としても、eスポーツの魅力にうまく光を当てることで、興味を持つ視聴者がもっと増えてくれたらと思います。

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【Profile】
宇内梨沙(うない・りさ)
TBSアナウンサー。1991年9月21日生まれ、神奈川県出身。「ひるおび!」「CDTVライブ! ライブ!」などのテレビ番組のほか、ラジオ「アフアー6ジャンクション」、BS「Bizスクエア」などを担当。eスポーツ専門部署「TBS eスポーツ研究所」に所属し、2020年11月に、YouTubeチャンネル「ゲーム実況はじめました。〜女子アナゲーマー宇内e〜」を開設。数々のeスポーツタイトルに挑戦中。
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