サッカースターの技術・戦術解剖第30回 ドミニク・キャルバート=ルーウィン<首位エバートンのリーディングスコアラー> プレミアリーグ第5節、エバートン対リバプールのマージーサイドダービーは、2-2のドロー。エバートンが引き分けに持ち込む2点…

サッカースターの技術・戦術解剖
第30回 ドミニク・キャルバート=ルーウィン

<首位エバートンのリーディングスコアラー>

 プレミアリーグ第5節、エバートン対リバプールのマージーサイドダービーは、2-2のドロー。エバートンが引き分けに持ち込む2点目を、ドミニク・キャルバート=ルーウィンが決めている。



リバプール戦でゴールを決める、キャルバート=ルーウィン

 キャルバート=ルーウィンは現在23歳。8歳からシェフィールド・ユナイテッドのアカデミーでプレーし、2015-16シーズンまで所属していたが、もっぱら他クラブへ貸し出されていた。そのためトップチームでは11試合に出場したが無得点だった。ただ、最初の貸出先ステイリーブリッジで5試合6ゴールをゲットしている。センターフォワードへコンバートされたのはこの時だった。

 シェフィールドのアカデミーではBOX to BOXのMF、つまりボランチだった。ストライカーとして結果を出してシェフィールドに戻ったが、再びノーサンプトン・タウンに貸し出された。すると、2016年にエバートンからオファーが届く。主に地区リーグとリーグ2(実質4部)でしかプレーしていなかったキャルバート=ルーウィンにとっては、破格のオファーと言える。シェフィールドでさえリーグ1(実質3部)にすぎないのだ。

※BOX to BOX(ボックス・トゥ・ボックス/味方のペナルティーエリアから相手のペナルティーエリアまで動き、攻守に活躍する選手のこと)

 エバートンでは最初のシーズンが1ゴール、しかし4、6、13点と年々結果を出し、今季は5試合ですでに7ゴール。トッテナムのソン・フンミンと並んでリーグトップに立っている。

 開幕のトッテナム戦で決勝点、つづくウエスト・ブロムウィッチ戦ではハットトリック、さらにリーグカップのウエストハム戦でもハットトリック。1カ月で2度のハットトリックはエバートンではディキシー・ディーン以来だった。

<新世代の長身FW>

 ウィリアム・ラルフ・ディーンは、"ディキシー"の愛称で知られるエバートンが生んだ最大のスターだ。

 エバートンでは399試合プレーして349得点。01年にはグディソンパークに彫像が建てられている。1927-28シーズンの60ゴールはいまだに破られていない大記録だが、それを達成した時のディーンはまだ21歳だった。

 7歳から11歳まで牛乳配達をしていたそうだ。第一次大戦中の戦時労働だった。朝4時半に起きて、配達用の子馬とともにかなり離れた農場へ向かい、牛乳を積んで町中の家に配達して回った。

 エバートンが優勝した1914-15シーズンに、父親がディーンをグディソンパークに初めて連れて行ってくれた。その時以来、エバートンの大ファンになっている。ディーンはエバートンで初めて背番号9のシャツを着用し、以来それがクラブのエースナンバーになった。

 キャルバート=ルーウィンが背負っている9番は、マンチェスター・ユナイテッドの7番に相当するわけだ。ディキシー・ディーンとキャルバート=ルーウィンの共通点はヘディングシュートである。

 ディーンは圧倒的な空中戦の強さで知られ、多くのゴールをヘディングでゲットしていた。ハイクロスはイングランドのお家芸、主要得点パターンだったのだから、空中戦に強いストライカーこそ真のエースだった。

 元MFのキャルバート=ルーウィンは、それ専門というわけではないがやはりヘディングの得点が多い。187㎝と高さがあるだけでなく、しなやかに高く跳ぶ。片足踏切のジャンプ、空中での体の反り、捻りを効かせる筋力がある。軽さを感じさせるヘディングだ。

「ヘディングはファンタスティックだ。ボックス内でのクレバーさ、鋭さもある。イングランドとヨーロッパのトップに立てる素材だ」(エバートン、カルロ・アンチェロッティ監督)

 オーバーヘッドなどアクロバティックなシュートも得意。足下の技術も高く、スピードもある。MF出身らしくパスもうまい。若いころのズラタン・イブラヒモビッチ(ミラン/スウェーデン)に似ているかもしれない。

魔法の左足は健在。ハメス・ロドリゲスがプレミアで大暴れの予感>>

 ヘディング以外の得点は、インサイドでゴールの隅をきっちり狙った形が多く、シュートというよりゴールへのパスという感じだが、このインサイドキックがけっこうパワフルでもある。ブラジルのロナウド(バルセロナ、インテル、レアル・マドリードなどでプレー)も強いサイドキックが印象的だった。コースを狙って強烈なシュートが打てるのは、ストライカーとしての武器だろう。

 少し前は、長身のストライカーといえば空中戦特化型が少なくなかった。イングランドは伝統的に長身頑健なハンマータイプが主力だが、00年代はヤン・コレル(チェコ)やヨン・カリュー(ノルウェー)など、空中戦とポストプレーに特化した長身FWが流行した時期があった。

 ところが最近は、大きくて空中戦に強いだけのタイプは少ない。かつての流れをくむエディン・ジェコ(ローマ/ボスニア・ヘルツェゴビナ)でも、足下の技術は相当高い。ハリー・ケイン(トッテナム/イングランド)は万能すぎて、ヘディングはそのなかの一芸として埋没してしまっている感さえある。

 キャルバート=ルーウィンはそうした新しい長身ストライカーのひとりで、ヘディング以外のゴールもこれから増えていくだろう。ケインもユース時代はMFでプレーしていた。多芸のなかの1つにヘディングがあるのはふたりの共通点だ。

 ただ、なぜキャルバート=ルーウィンがストライカーにコンバートされたか考えると、おそらくヘディングだろうと想像できる。MFとしてもプレーできたのだろうが、ヘディングが圧倒的に強く、それを得点に直結させたほうがチームにとってもプラスと判断されたのではないか。

 昔ほどではないにせよ、ゴール前の高さは現在でも明確な武器なのだ。一時期、スペイン風のパスワークで崩し切る攻撃が流行ったが、ユーロ2014ではそれでは埒があかないと気付いた各国代表は軒並み長身FWを復活させている。18年ロシアワールドカップでも傾向は変わらなかった。

 空中は、守備側にとってどうしても守り切れない最後の場所なのだ。