「自粛期間は自宅でサッカーの動画を見て、戦術の勉強をしたり、トレーニングも毎日の日課にしてました。Jリーグ再開後は日程が過密になるし、総力戦になることは自分もよく分かっています。交代枠も5人になるので、よりチャンスの幅が広がりますし、いい準…

「自粛期間は自宅でサッカーの動画を見て、戦術の勉強をしたり、トレーニングも毎日の日課にしてました。Jリーグ再開後は日程が過密になるし、総力戦になることは自分もよく分かっています。交代枠も5人になるので、よりチャンスの幅が広がりますし、いい準備をしてのぞんでいきたいと思います」

2020年期待のルーキー・西川潤(セレッソ大阪)が6月初旬のオンライン取材で語気を強めたように、コロナ禍を経て再開される今季Jリーグは若い世代にとって絶好のアピールの場となるだろう。

7月4日からリスタートするJ1をとってみても、7月だけでリーグ6試合、8月はリーグとYBCルヴァンカップを合わせて8試合が組まれている。ロティーナ監督(C大阪)も「選手層の厚いチームが有利」と断言したが、真夏の連戦を年齢層の高い主力だけでは戦い抜くことは困難だ。当然のごとく、西川のような粗削りの若手がピッチに送り出されるケースも多くなる。そこでインパクトを残せば、一気にブレイクすることも可能なはず。目の前に転がっているチャンスをつかむべく、フレッシュな面々は今、モチベーションを高めているに違いない。

とりわけ、97年生まれ以降の東京五輪世代にとっては、今季のパフォーマンスが大舞台に直結するだけに、1つ1つのゲームの重要度がより高くなる。日本サッカー協会の反町康治新技術委員長も「五輪代表活動は年末に再開できたらいい」という見通しを述べていて、チーム作りはゼロからの再出発を余儀なくされるため、生存競争もフラットな状態に戻ることになる。森保一監督が2019年コパ・アメリカ(ブラジル)など過去の代表活動でコンスタントに招集していた杉岡大暉(鹿島アントラーズ)らが新天地で出番を得られず苦しんでいるように、これまでの序列が維持されるとは限らない。北海道コンサドーレ札幌から湘南ベルマーレにレンタル移籍中の岩崎悠人が「1年という時間ができたことは正直、ラッキー」と前向きにコメントした通り、確固たる地位をつかんでいない選手は虎視眈々と1年後を見据えていくはずだ。

こうした中、有利になるのが、直近のリーグ戦でコンスタントに出場機会を得る選手。森保体制で招集歴のある森島司や大迫敬介(サンフレッチェ広島)、田中碧、旗手怜央、三苫薫(ともに川崎フロンターレ)、渡辺剛(FC東京)、橋岡大樹(浦和レッズ)、相馬勇紀(名古屋グランパス)、岩田智輝(大分トリニータ)などは各クラブで重要な役割を担っているため、この調子で着実に結果を積み上げていけば、東京五輪に大きく近づくのは間違いない。

ただ、これまでほとんど実績のなかったグループにも存在感が急上昇しそうな者はいる。その筆頭が安部柊斗、紺野和也、中村帆高のFC東京大卒ルーキー三人衆。彼らは長谷川健太監督から重要戦力と位置付けられていて、悲願の初優勝を狙うチームのキーマンになるかもしれない。そういう意味でも再開後のプレーを注視すべきだろう。急激な若返りを図っているサガン鳥栖の松岡大起、本田風智らも非常に興味深い。伸び盛りの意外なタレントが熾烈な五輪代表争いを展開し、Jリーグ全体を活性化してくれれば面白い。

一方で、J2にいる東京五輪世代の一挙手一投足も見逃してはいけない。ジュビロ磐田にはエースFW最右翼と目される小川航基がいるし、レノファ山口FCにも高宇洋、小松蓮といったダークホースがいる。FC町田ゼルビアへレンタル移籍している安藤瑞季、高江麗央、小林友希らも成長著しい若手たちだ。安藤と高江に関しては、6月13日の浦和レッズとの練習試合でもゴールを奪い、ひと際大きなインパクトを残した。もちろん相手とのコンディションや実戦感覚の差はあったものの、切れ味鋭い飛び出しやゴールへの貪欲さは大いに目を引いた。東京ヴェルディにも「柴崎岳(ラコルーニャ)2世」の呼び声高い藤本寛也、組み立てに秀でた井上潮音がいる。若手はちょっとしたきっかけで飛躍的成長を遂げることが往々にしてある。試合数の多いJ2にはそんなチャンスがゴロゴロ転がっている。だからこそ、より一層、しっかりと動向をチェックしていく必要がありそうだ。

過去2年半の森保監督の東京五輪チーム作りは、堂安律(PSV)や冨安健洋(ボローニャ)、板倉滉(フローニンヘン)といったA代表経験のある欧州組に偏りがちだった。しかしながら、彼らの多くが新型コロナウイルス感染拡大の影響で、リーグによっては長期間実戦から離れる形になっていて、パフォーマンスやコンディションが未知数な部分もある。久保建英(マジョルカ)のように4カ月の休止期間を有効活用して以前よりキレのあるプレーを取り戻した選手もいるが、全員が同じような軌跡を辿るとは限らない。コロナの第2波・第3波次第ではこの先、彼らを代表活動に招集することさえ困難になるかもしれない。

そういった複雑な事情を踏まえると、やはり国内組をベースにチーム再構築を進めていくのが現実的。そこで欧州組を超えるような勢いと爆発力を持ったタレントが次々と出てきてくれれば、指揮官も安心できるのではないだろうか。大きな期待を寄せる森保監督に向けて、「自分が堂安や久保を蹴散らして大舞台に立つんだ」というギラギラ感を前面に押し出すJの若手選手が何人出てくるのか。一気にブレイクする人間は果たして誰なのか。予想もしなかった逸材の出現を今から楽しみに待ちたいものだ。

【文・元川悦子】