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 毎年プロ野球12球団が、小学5、6年生を対象に選出したメンバーで戦うNPB12球団ジュニアトーナメント。現在日本球界で奮闘するNPB選手も数多く出場しており、東北楽天ゴールデンイーグルスの松井裕樹もその一人。しかし松井が横浜ベイスターズジュニア(現横浜DeNAベイスターズジュニア)の一員として出場した時は、エースではなかった。

 エースナンバーを背負ったのは、当時南長津田ジュニアジャイアンツのエースとして活躍し、現在横浜DeNAベイスターズの球団職員として勤務している甲斐綾乃さんだ。甲斐さんは現在、ベースボールスクールでコーチをやっているが、今に至るまでにどのような道のりを歩んできたのか、話を伺った。

■野球の魅力を楽しむ側から、伝える側へ

【笑顔の甲斐綾乃さん】

 甲斐さんが野球に携わるようになったのは、4つ年上の兄の影響だった。

 「小さいころから何でもやりたがりの子どもで、習い事も体操や水泳をやっていましたが、1人で頑張るよりもみんなで頑張って勝つなど目標を達成する方が自分としては好きでした。色々な習い事、スポーツの中でも、野球のボールがバットに当たる感覚、そして遠くにボールを投げられることなどに惹かれていきました」

 小学1年生からクラブチームに入り、本格的に野球に取り組み始めた甲斐さん。最初はライトやセカンドを守っていたが、5年生からピッチャーが中心となっていった。

 そして最高学年に進級した際に、ジュニアチームのセレクションを受験。

 「セレクションを受けていた時はミスが多かったので、『受からない』と思いました。合格と聞いたときはびっくりしましたが、嬉しかったです」

 チームメイトには東北楽天ゴールデンイーグルス・松井裕樹や横浜DeNAベイスターズの楠本泰史らがいたが、その中でも甲斐さんはエースナンバーを背負うことに。

 「ずば抜けてボールが速いとか、足が速いという特徴はありませんでした。ただ短いイニングでもしっかり投げること。コントロールとか自分の出来ることを最大限発揮するように心がけていました」

 大会は予選グループで敗れたものの、「周りの選手のレベルが高かったので、自分の未熟な部分がどこなのか。そこを痛感しました」と甲斐さん。その後、クラブチームのオール京急、そして蒲田女子高校へ進学し、本格的に硬式野球に取り組むようになる。

 高校3年生の時には全国高等学校女子硬式野球選手権大会で準優勝を果たし、日本代表候補にも選出された。大学でも硬式野球を続けたが、プロへは進まず、一般企業へ就職。1年間は運動教室の先生をしていた。

 そんな甲斐さんは縁あって、この春から横浜DeNAベイスターズが運営するベースボールスクールのコーチとして奮闘している。

 「野球人口が減っていると言われている中で、現在やっている子どもたちが長く続けて欲しいと思うので、スクールを通じて野球を続けてくれたり、野球をやってみたいと思ってくれる子どもが増えてくれるのが仕事の魅力ですね」

 年間30回を超えるスクールを通じて野球の醍醐味を子どもたちに教える甲斐さんだが、教えることに対する難しさを感じている。

 「野球の技術というより、子どもたちは集中力もなかなか続かないので、まずは話を聞くことの大切さを理解してもらえるように工夫しています。小さな約束事を作ることで、子どもたちに浸透していき、話を聞く雰囲気は出来てきました」

 小さい子どもたち相手に教えるのは難しいが、現在の仕事を始めてから挫折はないと話す。笑顔で答える姿からも、本当に楽しそうに取り組んでいる様子が想像できた。スクールでは元プロ野球選手と一緒に子どもたちに教えているが、「練習内容とか技術についての知識が桁違いです。体つきとかオーラも凄いので、『さすがプロだな』っと改めて実感する場面も多いですね」

 では野球というスポーツの魅力はどこにあるのか、続けて聞いてみた。

 「女子野球は規模があまり大きくないので、チーム関係なく選手同士のコミュニケーションは活発でした。そういった仲間意識は女子野球ならではの魅力ですが、野球全体で言えば、たった一球で試合のヒーローになれるところだと思います」

 今後は野球人口を増やしていくのはもちろんだが、かつての自分のように、女子野球をやろうとしている子どもたちに向けてイベントやスクールなどを実施しながら、先輩として相談に乗りたいという甲斐さん。最後に今後の目標を語ってもらった。

 「男子に比べるとまだまだメジャーとは言えませんが、女子野球をもっと普及させて知名度を広げられればと思います。そのためにも積極的にイベントを開催していきたいです」

 ジュニア時代のチームメイトである松井裕樹をはじめ、同じ大会に出場していた森友哉(埼玉西武ライオンズ)や田口麗斗(読売ジャイアンツ)の活躍に刺激を受けている甲斐さん。舞台は違えどプロ意識を持った仲間同士、これからの野球界を盛り上げてくれるはずだ。

取材:WoodStock