【“ドイツS級コーチ”鈴木良平の指導論|第3回】プロで活躍する選手は「16~20歳までにフィジカルも含めて完成している」 海外サッカー、ブンデスリーガ1部で通用する日本人選手が減っている。かつてアルミニア・ビーレフェルトでヘッドコーチを務め…

【“ドイツS級コーチ”鈴木良平の指導論|第3回】プロで活躍する選手は「16~20歳までにフィジカルも含めて完成している」

 海外サッカー、ブンデスリーガ1部で通用する日本人選手が減っている。かつてアルミニア・ビーレフェルトでヘッドコーチを務めた鈴木良平は、現地の実際の評価をこう解説する。

「日本の選手たちも、時間とスペースに余裕があれば上手い。しかし勝つために何をするべきか、1対1を中心とする相手との競り合い、勝負強さなどで物足りないと見られるようになった。その要因として、フィジカルとメンタルの弱さがはっきりと見えてきました」

 明確に差がつくのは、16~20歳までのトレーニングだという。

「フィジカルやメンタルの強さは、プロになってから鍛えても手遅れです。世界の流れを見れば、プロで活躍する選手は16~20歳までにフィジカルも含めて完成している。例えばドイツでエリートとしてプロのアカデミーで育てられていくような選手たちは、個別に科学的なデータを取り、計画的に一貫性を持って強化されていく。

 ところが日本の場合は、協会が明確な指針を打ち出さないために、成長過程の指導が個々の監督やコーチに委ねられている。しかも小中高と指導者が変わるので、1本筋が通っていない。テクニックを大切にするコーチもいれば、フィジカルに傾くタイプもいて、現場の指導者が自分なりに模索している状態です」

 第1回で紹介したように、ドイツではDFB(ドイツサッカー連盟)主導で育成方針を統一して徹底し、全国366か所に拠点を置き、優れたタレントはどんな小さな街にいても見逃さずに引き上げられる仕組みを構築した。しかし日本の高校年代は、圧倒的に部活でプレーする選手が多く、強豪校ほど大量に部員を抱え個々に向き合えていないから、科学的なデータに基づく指導とは無縁になっている。

「グラウンドで行うトレーニングは、人間の集中力を考えれば2時間が限度です。もちろん、そのなかでコンタクトの激しい攻防が繰り返されるわけですが、ドイツの場合はフィジカル強化には別の時間を設けて、プログラムを組み個々が課題に取り組んでいる。だから身長は低くても、決して当たり負けしない選手たちが育ってくるんです」

強豪校で2軍や3軍の選手に、もっと多くの試合機会を確保すべき

 日本の育成事情も少しずつ変化の兆しは見えるが、依然として一部強豪校などでは練習量に依存し、強度の不足したトレーニングが継続されている。しかも理不尽極まるトレーニングの先には、真剣勝負の機会さえ担保されない選手たちが溢れている。

 改めて鈴木は語る。

「千葉県協会の理事長を務めた鍋島和夫先生などは、以前から登録はチーム単位ではなく、個人単位に変えるべきだと独自のアイデアを主張していました。個人登録にすれば、強豪校で2軍や3軍の選手たちが別のチームで大会に参加することができる。そうやって試合機会を確保していくべきだと。

 しかしJFA(日本サッカー協会)からは、世界に追いつくための具体的な施策が発信されず、どうしても大人しいイエスマンばかりの組織に見えてしまいます。実際にトレーニング方法は、フィジカルやメンタル以上に世界と差があるのかもしれません」

 育成環境を中心に、日本サッカーには問題が山積している。しかし、かつて「皇帝」の異名をとり、監督、主将いずれの立場でもワールドカップを制したフランツ・ベッケンバウアーや、マティアス・ザマーのように強烈なリーダーシップで改革を主導する人物が、日本には見当たらない。(文中敬称略)

[プロフィール]
鈴木良平(すずき・りょうへい)

1949年生まれ。東海大学を卒業後、73年に西ドイツ(当時)のボルシアMGへ留学。名将ヘネス・バイスバイラーの下で学びながら、ドイツサッカー連盟S級ライセンスを取得した。84-85シーズンにはブンデスリーガ1部のビーレフェルトのヘッドコーチ兼ユース監督を務めた。その後は日本女子代表初の専任監督に就任するなど女子サッカーの発展にも尽力。ブンデスリーガなどのテレビ解説者としても活躍する。(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近東京五輪からプラチナ世代まで約半世紀の歴史群像劇49編を収めた『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』(カンゼン)を上梓。『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(ともにカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。