新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、世の中は前代未聞の生命の危機にさらされている。2月末に政府から国内の小、中、高校…

 新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、世の中は前代未聞の生命の危機にさらされている。2月末に政府から国内の小、中、高校に対する一斉休校の要請が出されると、それを機に、スポーツイベントは軒並み延期、中止となった。

 野球界もセンバツ高校野球大会が中止となり、プロ野球もいまだ開幕のメドが立っていない。4月7日には7都府県に緊急事態宣言が出されるなど、野球どころではない状況が続いている。



5月6日までの練習休止を決めた明石商・狭間善徳監督

 センバツ大会に出場予定だった明石商(兵庫)は、緊急事態宣言を受けたことで4月9日から5月6日まで臨時休校となった。

「命に関わることだから仕方ない。今は命を守らないといけない」

 狭間善徳監督はそう言ってため息をついた。

 3月3日から明石市の要請により学校は休校となっていたが、当時はまだセンバツ大会の開催可否が決定していなかったため、5日から11日までの1週間のみ、特別に練習することを許可された。

 その後、11日の開催中止を受けて、4日間の休止後、日中のみ練習を再開した。明石商の場合、遠方に住む一部の選手は下宿しているが、電車通学の生徒も多く、朝のラッシュの時間帯を避け、春休みとなった3月下旬からは夕方まで練習を続けてきた。

 緊急事態宣言を受け、これから1カ月近く休みになるが、狭間監督はある”宿題”を選手たちに課した。70人いる部員を7つの班に分け、それぞれでグループLINEをつくり、そのなかでその日のトレーニングを何にするのかを話し合って個々で実行するというもの。狭間監督は言う。

「メニューに関しては、若いコーチが間に入って相談に乗っています。私はLINEはやっていないので、無作為に選手に電話をして、本当にちゃんとやっているのかをチェックします。

 あと、朝は7時に起きて、体を動かすように言っています。朝7時に私から突然電話がかかってきたらびっくりするでしょうけど(笑)。電話も5コールまでに出るようにと言っています。そういうところからちゃんとやってもらわないと」

 同じくセンバツ出場予定だった天理(奈良)は、野球部員のほとんどが寮生活を送っている。

 天理は4月6日に始業式、7日に入学式が行なわれるなど、通常どおりスケジュールを消化していたが、7日に緊急事態宣言が出たことを受け、状況は一転。8日から5月6日までの休校が決まった。

 中村良二監督は、当初は全選手を一旦帰宅させることを考えたが、学校側から各部の判断に任せると言われ、選手と保護者全員の意見に従うことにした。その結果、選手、保護者全員が「寮に残る」という意見で一致した。

「ひとりでも帰りたいという生徒や保護者の方がいれば考えたのですが……。みんな夏に向けて思いを強くしたところだったので、こういう結果になったのかもしれません」

 出場するはずだったセンバツが中止となり、チーム全体がモチベーションを維持することは簡単ではなかったが、夏に向けて気持ちをリセットし、再出発を図ったところだった。

 だが、全体練習は行なわず、個々で体を動かすことにとどめた。練習試合もすべて中止となり、個人練習も1日2時間程度。寮に隣接する室内練習場で、各自でストレッチやランニング、2人1組でのティー打撃など、団体になることを避けて練習を行なっている。

 ただ、それ以外の時間は寮に缶詰状態。スタッフが借りてきた映画のDVDを見たり、昼寝したり、また、休校中は学校から宿題も出ているため、各自で勉強する時間を設けるなど、工夫しながら過ごしている。予期せぬ事態に戸惑いもあったが、それでも中村監督は前を向く。

「夏に向けてもそうですが、コロナウイルスに負けず、みんなで頑張ろうという意識もあると思います。試合ができないので、3年生の進路にどう影響するのかが心配ですが、今はこの状況をまず乗り切ることだけを考えています」

 同じ寮生活でも、遠方からの生徒を多く預かる学校の悩みも深い。

 昨年、春夏連続甲子園に出場した八戸学院光星(青森)は、3月4日からの休校が決まった時、多数在籍する関西方面出身の選手たちを帰省させようと考えていた。

 だが、大阪や兵庫をはじめとする関西は感染者が多く、かえってリスクが高くなる。寮にいれば外部との接触は避けられ、安全も確保できるということで、選手全員を寮に残すことにした。

 午前中を学習時間にあて、午後から3時間程度の練習を続けた。青森は3月でもまだ寒いため、練習は室内練習場のみ。予定していた関東遠征などの練習試合はすべて中止となった。

 4月7日から新学期が始まり、当初は学年別で登校日を設け、生徒は3日に一度、登校することになっていたが、感染者が一気に増加したため、5月10日まで臨時休校となった。

 こうした状況に、仲井宗基監督はこう本音をもらす。

「正直なところ、先が見えないので何とも言えませんが、今の状況では夏の大会もどうなるかわかりません。来月7日から通常授業が再開予定になっていますが、変わる可能性もあります。このままだと最悪のことも覚悟しないといけないでしょう。

 きれいごとになるかもしれませんが、甲子園に出場するためにウチに来てくれた生徒が多いなか、仮に夏も……ということになったとしても、我々は社会に通じる人間を育てるのが役目なので、そういったことを教えてあげないといけない。もちろん、夏の大会があると信じて準備はしますが、不安は常にあります」

 仲井監督のように、夏の大会に不安を抱いている指導者はほかにも多くいるはずだ。

 高校野球は6月に夏の甲子園をかけた都道府県大会の組み合わせ抽選会が行なわれ、早いところだと6月中から地方大会が始まる。それまでにコロナ問題が終息している状況は、現時点では想像しがたい。

 インターハイ予選も中止になったというニュースが少しずつ流れてきているなか、はたして高校野球もどうなるのか……。スポーツができることは平和である証拠だと、ある指導者は口にしていたが、一日も早くコロナウイルスの終息を願うしかない。