「へえ、これでやるんだって、僕もちょっと驚きました。もちろん、相手や戦況に合わせてシステムを変える監督なので、これがすべてじゃないと思いますけど、ベースにはなるんじゃないかと思います」 今季も名古屋グランパスの中盤の要となる米本拓司が驚…

「へえ、これでやるんだって、僕もちょっと驚きました。もちろん、相手や戦況に合わせてシステムを変える監督なので、これがすべてじゃないと思いますけど、ベースにはなるんじゃないかと思います」

 今季も名古屋グランパスの中盤の要となる米本拓司が驚いたのは、就任2年目を迎えるマッシモ・フィッカデンティ監督が採用するシステムだ。両サイドにアタッカーを置き、中央に2ボランチとトップ下を配した4−2−3−1を試しているのだ。



川崎フロンターレから名古屋グランパスに移籍した阿部浩之

 1月24日にパッタナ・ゴルフ&リゾートで行なわれたタイ1部チーム、石井正忠監督の率いるサムットプラカーン・シティとの練習試合でも、この新布陣をテストした。

 4−2−3−1を主戦システムに据えるのは、かつて指揮を執ったFC東京時代やサガン鳥栖時代にもなかったことだ。もちろん、ラスト3カ月を率いた昨年の名古屋でも。

 これまでは4−3−1−2や4−3−2−1を重用するイメージが強かったが、なぜ今季は4−2−3−1なのか——。

「うちにはサイドで1対1の勝負ができる選手が多い。その彼らの特長を生かしてやりたい。1対1でこちらに分があるシチュエーションを多く作れたら、と思っている」

 フィッカデンティ監督は狙いについて、そう明かした。

 たしかに横浜F・マリノスから復帰したマテウス、鹿島アントラーズから帰還した相馬勇紀、さらにレフティの前田直輝、トップ下との併用も可能なガブリエル・シャビエル、復活を期す青木亮太と、ドリブルやスピードでサイドを制圧できるタレントが今季の名古屋には揃っている。彼らのストロングポイントを存分に生かし、迫力のあるスピーディなワイドアタックを仕掛けていくというわけだ。

 そんな今季の攻撃のイメージは、サムットプラカーン・シティとの練習試合で確かに体現されていた。右サイドハーフのマテウスと左サイドハーフの前田が果敢な仕掛けに、19歳の成瀬竣平と左のスペシャリスト太田宏介の両サイドバックが効果的にサポート。ともに新加入の山崎凌吾、阿部浩之も絡んで、決定機を何度も作り出す。

 さらに印象的だったのが、ハイプレスだ。

 山崎と阿部が守備のスイッチを入れ、サイドハーフや米本、稲垣祥の2ボランチが連動して追い込んで奪い取り、ショートカウンターを繰り出した。

「この時期だから、あえて行き過ぎなくらいにやっていた。もうちょっと修正しないといけない部分はありますし、相手との力関係による部分もあるかもしれないですけど、感触としては割とよかったと思います」と、阿部は振り返った。

 20分が過ぎた頃からペースが落ち、前半終了間際にはミスから失点。後半はメンバーを大幅に変えたこともあり、チャンスはほとんど作れなかったが、これは仕方のない面もある。1月12日の始動日から1日もオフのない状態。しかも、タイ入りした22日から2日間は2部練習で走り込んでいるからだ。

「今日は、どういうサッカーをやろうとしているのか、示そうと。足が動くところまででいいから、全力でプレスをかけようと話していた。相当走り込んでいるので、逆に今走れたら困る(笑)。公式戦が近づくにつれて長い時間できるようになり、最終的には90分できるようになる」

 フィッカデンティ監督は、焦りなさんな、と言わんばかりに自信をのぞかせた。

 それにしても思うのは、今季の補強の確かさだ。いずれもフィッカデンティ監督のスタイルにマッチする選手たちなのだ。

 湘南ベルマーレから獲得した山崎は1トップに入り、自慢の脚力でプレスの先鋒役となると同時に、ポストワークでポイントを作り、空中戦でも存在感を示していた。

 中盤には、ボールを刈り取る能力ではJ1トップクラスの稲垣(前サンフレッチェ広島)を補強。米本との2ボランチは即時奪還を掲げる今季において、強力な武器になりそうだ。

 リーグ屈指のスピードスターであるマテウス(前横浜F・マリノス)と相馬(前鹿島アントラーズ)のふたりは、間違いなくワイドアタックの鍵を握る存在だ。

 そして、最重要人物が、川崎フロンターレからやって来た阿部だろう。

「阿部くんは唯一、変化をつけられる選手だと思う。決定的な仕事ができるから、どんどん使っていきたい」という米本の言葉を借りるまでもなく、技術とフットボールインテリジェンスの高さはガンバ大阪、川崎時代に証明済み。得点力を備えるうえに、攻撃の潤滑油的な役割をこなせてハードワークもできる阿部は、マッシモ・グランパスのトップ下にうってつけの存在だ。

 選手層は間違いなく増しており、ディフェンスリーダーの丸山祐市は「シャビ(シャビエル)もジョーも、これからもっとアピールしていかないといけない。いい競争ができれば、いい順位につながるはず」と、競争力のアップを感じていた。

 ……と、ここまで新加入選手や新たな取り組みについて触れてきたが、ある意味、それ以上に期待したいのが、ふたりのベテラン選手だ。

 今年31歳になる丸山と33歳になる太田——。いずれもFC東京時代にフィッカデンティ監督のもとでプレーし、日本代表に選出されるなど幸福な時期を過ごした。

「僕はマッシモだった2015年、代表に呼んでもらっています。チームがいい状態なら代表に呼ばれるチャンスもありますし、今年31歳なので難しいかもしれないですけど、プロでやっている以上、そういったところもしっかり狙って、チームとして上に行けるように。口で言うのは簡単なので、プレーで示すことが大事だと思っています」

 丸山が今季にかける思いを明かせば、太田も覚悟をのぞかせた。

「今年は勝負の年だと強く思っています。今年はメンツも揃っているし、僕自身、去年は東京で試合に出られなくて名古屋にやって来て、もう一回這い上がるというか、得点に直結するようなプレーを増やしていきたい。名古屋は上位に行かなきゃいけないチームなので、貢献したい」

 細部に徹底的にこだわるフィッカデンティ監督の戦術は、チームに浸透するのに時間がかかる。その点においても、米本、吉田を含め、FC東京や鳥栖で指揮官の指導を仰いだベテランたちがチームメイトにもたらす影響は大きいはずだ。

 指揮官のスタイルを知り尽くすかつての教え子たちと、戦術にマッチした期待の新戦力、そこにブラジル人選手たちが噛み合えば、リーグでも指折りの陣容が完成するのは間違いない。