三浦知良(横浜FC)や大島遼太(川崎フロンターレ)といった日本代表経験者を中心に、多くのJリーガーを輩出してきた技巧派集団、静岡学園の躍動が続いている。爆発的な得点力の静岡学園。準々決勝でハットトリックを決めた岩本悠輝 全国屈指の強豪校で…

 三浦知良(横浜FC)や大島遼太(川崎フロンターレ)といった日本代表経験者を中心に、多くのJリーガーを輩出してきた技巧派集団、静岡学園の躍動が続いている。



爆発的な得点力の静岡学園。準々決勝でハットトリックを決めた岩本悠輝

 全国屈指の強豪校であるため意外かもしれないが、高校サッカー選手権の出場はじつに5年ぶり。GK山ノ井拓己(アビスパ福岡)やMF名古新太郎(鹿島アントラーズ)、FW旗手怜央(川崎フロンターレ)ら錚々たるタレントを擁し、ベスト8まで進んだ前回の出場時と比べると、「うまさも技術的なレベルが違うし、守備も5年前のほうがよかった」(川口修監督)と言うが、ここまでの勝ち上がりは順調と言える。

「我々は点を取るチーム。1試合3得点を目標にしている」と指揮官が明かすとおり、圧倒的なまでの得点力が今年の特徴だ。初戦の岡山学芸館戦は5バックで守備を固めた相手を打ちのめし、6-0で完勝。続く2回戦の丸岡戦でも、開始2分の先制弾を皮切りに3点を叩き込んだ。今治東と対峙した3回戦こそ2得点に終わったが、準々決勝の徳島市立戦では4得点。ただ点を取るだけでなく、観客を魅了する華麗な崩しが随所で見られるため、静岡学園のサッカーの虜になる人も少なくない。

 迫力十分の攻撃をけん引するのは、右サイドに位置するMF松村優太(3年)だ。大会後には鹿島アントラーズに入団するエースは、”メイド・イン・シズガク”の匂いを感じさせる強烈なドリブラーで、今大会は「1回戦からマークが厳しくてシュートは打たせてもらえない。もちろん点は取りたいけど、なかなか厳しいので味方に取らそうと意識している」と他を圧倒するスピードでチャンスを演出している。

 印象的だったのは、準々決勝のプレーだ。前半40分には、スピードでふたりをかわして右サイドからクロスをあげて、チームの3点目をお膳立て。左サイドに持ち場を移した後半も勢いは止まらなかった。その速さは圧巻で、徳島市立のMF川人太陽(3年)が試合後に「サイドの速さが止められなかった。縦に来るとわかっていても止められなかったのが悔しい」と口にする程だった。

 松村頼みにならないのも今年の強みで、左サイドに位置するMF小山尚紀(3年)の存在も光る。細かいボールタッチから密集を抜け出す技巧派のドリブラーだが、相手をかわして終わりではなく、「自分は攻撃の選手なのでキープするドリブルよりも、ゴールに向かって点を取ることで評価される」と話すとおり、きっちり点に絡めるプレーができるのが特徴だ。

 川口監督も「彼がいいのは、怖がらずに仕掛けられるところ。ミスしたくないからセーフティーな選択をしたり、取られないドリブルをしがちだけど、彼はゴールに向かって点を取るドリブルをしている」と評価する選手で、今大会は初戦から3試合連続でゴールをマーク。中央にも、ふたりを活かす司令塔のMF浅倉廉(3年)や、3列目からの持ち運びが光るMF井堀二昭(3年)がいるのも心強い。

 彼ら攻撃陣がピッチできっちりと力を発揮できるのは、高い競争力によるところが大きい。今大会は出色のパフォーマンスを見せ続ける井堀だが、今季は交代出場がメインで、春先から不動の座を掴んでいたMF藤井皓也(3年)のケガによって、選手権予選からスタメンになった。

 準々決勝でハットトリックを達成し、得点王争いのトップに立つFW岩本悠輝(3年)もエースのFW加納大(2年)がヒザを痛めた影響で状態が万全ではないため、出場機会を掴んでいる選手だ。1年次から、この代のエース格として目されていた小山ですら、夏場はパフォーマンスが上がらなかったため、交代の切り札としての起用が続いていた。「(小山)尚紀と(岩本)悠輝と僕は、これまでスタメンの選手じゃなかった。交代でも絶対にやらなあかんという気持ちで努力してきたのが、今につながっている」(井堀)。

 攻撃と共に守備のよさが目を引くのも今年らしさだ。相手を圧倒するほどボールを握り、攻撃するのが理想のスタイルだが、選手権で勝ち上がるにつれ、相手のプレッシャーは激しくなり、うまくはいかない。そのため、「インターハイ予選から守備のことは選手同士で話をしていたけど、強度をもう少し上げないと上では勝っていけない。今年は前から守備をしようと選手権前から意識している」(松村)と攻撃から守備への速さを徹底して追求しており、ボールを失ったあとの激しいプレスはピカイチだ。

 川口監督が「選手にはできるだけ(相手)ゴールに近いところでボールを奪えればチャンスになるよと伝えている」と口にするように、選手権ではよい守備からよい攻撃につなげられているのが、勝ち上がりを促している。

 自陣まで持ち込まれても、主将のDF阿部健人(3年)を中心にチャレンジ&カバーの意識が高く、大崩れの心配はない。すでにJクラブの練習参加を経験するDF田邉秀斗(2年)も、将来性の高さを十二分に示している。ここまで4試合を無失点で終えているのも偶然ではなく必然で、川口監督は「失点がゼロというのは我々にとってすばらしい成績」と胸を張る。

 第三者から見れば、攻守共に満点をあげたくなる出来栄えに見えるが、「選手権の4試合とも技術的なミスが非常に多いので改善したい。結果は出ているけど、内容で見れば僕らスタッフはまだ納得していない」(川口監督)。準決勝までの中5日で、どれだけ質を高められるかが、この先の重要なカギになりそうだ。

 危なげない戦いを続けてきたこれまでとは一転し、対戦相手のレベルがグッと上がる準決勝以降はより難しい試合が待ち受けているのは間違いない。

「やることは変わらない。ここ(準々決勝)で勝って気持ちよくなって満足して準決勝に挑むのと、『もう一個勝って、決勝に行くぞ』とハングリーに挑むのでは大きく違う。そこの意思統一がやっぱり大事なので、もう一度確認して準決勝に挑みたい」

 川口監督がそう口にするとおり、1995年度以来となる2度目の日本一を本気でつかみ取ろうとすれば、自ずと結果もついてくるはずだ。